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  3. 長周期地震動予測地図2

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)10月~平成24年(2012年)1月合併号)


 ここでは「長周期地震動予測地図の使い方」と題し、予測地図の具体的な活用方法について説明します。


 「長周期地震動予測地図」は、ある特定の大地震が発生した場合に、その周辺および遠方にも生じる長い周期による地震動の分布を示したものです。
 「長周期地震動予測地図」の性格は、平成21年7月に公表した「全国地震動予測地図」のうち、「震源断層を特定した地震動予測地図」の一種に相当します。「全国地震動予測地図」の「震源断層を特定した地震動予測地図」が、比較的短周期(周期約0.1〜1秒程度)の揺れに対応する地表の震度分布として作成されたのに対し、「長周期地震動予測地図」は、地震動の3つの特性(周期特性、振幅特性、経時特性)を考慮した工学的基盤上での地図として作成しています。ここで「工学的基盤」とは、建築・土木などの工学分野で使用される用
語で、構造物を設計するとき、地震動を設定する際に基礎とする良好な地盤のことです。「全国地震動予測地図」や「長周期地震動予測地図」では、地震波のうち主要動であるS波の速度が 400 m/sの地盤を工学的基盤としています。
 地震動の各特性に対応した「長周期地震動予測地図」の内容は、次のとおりです。
①周期特性(揺れの素早さ)
 周期3秒、5秒、7秒、10秒の減衰定数5%速度応答スペクトル(単位:cm/s)の分布図[図3](さまざまな固有周期をもつ超高層建物
や石油タンクなどの長周期構造物を想定し、4通りの周期について作成しました)
②振幅特性(揺れの大きさ・強さの特性)
 揺れの速度の最大値(最大速度、単位:cm/s)の分布図[図4]
③経時特性(揺れの長さ・時間変化)
 揺れの速度が1cm/s を超える継続時間(単位:秒)の分布図[図5]
 これらの図により、どの程度の強さの長周期地震動がどの程度長い時間続くのか、また長周期構造物がどの程度の速さで揺れるのかについて、目安を示すことを目標としました。




 今回公表した「長周期地震動予測地図」2012年試作版の主な特徴は、次の通りです。
①発生確率が高くかつ発生した場合に大きな被害が予想される南海地震の中でも、最近の事例であり最も情報量の多い南海地震(昭和型、Mw8.4)を対象としたこと。
②人口の集中する大都市があり長周期地震動の影響が大きいと考えられる主要な平野(大阪平野、濃尾平野など)を含む、限定された範囲の工学的基盤上での長周期地震動を計算対象としたこと。
③計算手法の高度化と計算モデルの詳細化により、計算対象とする地震動の下限周期を約2秒まで拡張したこと(これにより、従来の周期5秒、7秒、10 秒に加えて周期3秒の予測地図の作成が可能となった)。
④計算範囲の地下構造モデルについて、過去の地震(1946年南海地震、2004 年紀伊半島南東沖地震の前震)の長周期地震動について観測記録の再現性を検証し、改良を図ったこと。
⑤アスペリティ(震源域において、通常は強く固着しているが、地震時に大きくずれ動いて大きな揺れを引き起こす地震波が出ると考えられる領域のこと)の破壊が同じ領域で繰り返す場合を想定し、周期5秒程度よりも長周期側の帯域で有効な震源モデルを前イベントの震源モデルとした上で、それよりも短周期側の成分を別途付加するよう工夫を施し、周期2秒以上の長周期地震動の予測を目指したこと。
 なお、「長周期地震動予測地図」2012 年試作版の公表に併せて、今回のモデルと「長周期地震動予測地図」2009年試作版のモデルとを統合し、「全国1次地下構造モデル(暫定版)」として公表しました。


 図3は、固有周期3秒、5秒、7秒、10秒の長周期構造物がどの程度の速度で揺れるかについて、相対速度応答スペクトルの分布図(減衰定数5%)として示したものです。図は水平成分の大きい方で作成されていますが、上下成分を加えてもそれほど傾向は変わりません。これをみると、いずれの周期帯でも震源に近い平野である大阪平野や濃尾平野、京都盆地や奈良盆地、および琵琶湖周辺や徳島県の吉野川下流沿いで揺れが大きくなる傾向がみられます。
 図4は、速度として計算された長周期地震動による揺れの最大速度の分布図、図5は、速度1cm/s を超える揺れが継続する時間の分布図をそれぞれ示したものです。振幅が大きい大阪平野や濃尾平野、徳島県の吉野川沿いに加え、奈良盆地や琵琶湖周辺では継続時間も長くなっています。
 なお、比較的近接した地点同士であっても、場所により予測される地震動が大きく異なる場合があります。図6は、大阪平野内の3地点で計算された相対速度応答スペクトル(減衰5%)を例にその傾向を示したものです。この傾向は、2011年東北地方太平洋沖地震の観測記録でも同様に見られることが、図6とほぼ同位置での強震観測点での記録の比較により示されています。


 今回公表した「長周期地震動予測地図」2012年試作版は、一昨年に公表した「長周期地震動予測地図」2009年試作版と同様、最も情報量の多い直近の地震を対象に、現時点で利用できる最新の知見や適切と考えられる手法を用いて長周期地震動の再現を試みたもの
で、想定される最大級の地震を対象としたものではありません。したがって、より広域に破壊する巨大地震を含めた本格的な長周期地震動予測、さらには広帯域地震動予測を進めていくための重要なステップと位置づけられます。今後、そのために必要な技術的検討はもとより、予測結果を有効に社会に活かしていくため、その提示のあり方などについて、防災関係者や研究者間で広く議論を行い、その検討を踏まえて長周期地震動予測、更には広帯域地震動予測を進めていきたいと考えています。
 なお、報告書や各地図、主な地点の波形や速度応答スペクトルなどについては、地震調査研究推進本部のホームページ(/evaluation/seismic_hazard_map/lpshm/12_choshuki/)でも見ることができますので、ご利用ください。

(広報誌「地震本部ニュース」平成23年(2011年)10月~平成24年(2012年)1月合併号)

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