日本海溝海底地震津波観測網は房総沖から北海道沖の海底に150の観測点を常設する地震と津波のリアルタイム観測網です。約5700 kmの長さの海底光ケーブルが海底地震津波計を数珠つなぎにして陸に観測データを伝送します。
現在、海洋調査を基に最適な観測点配置を決め、房総沖から観測システムの海底敷設を始めています。今回は最新の観測点配置の状況や観測システムの概要について報告します。
観測システムは、房総沖、茨城—福島沖、宮城—岩手沖、三陸沖北部、釧路—青森沖、海溝軸外側の6つの海域の観測網に分割して整備を進めています。隣合う観測網はケーブル陸揚げ地で相互接続して最終的に図1に示すような1本の線につながる観測網を構築します。
図1. 観測網の最新のケーブル敷設ルートと観測点配置(案)
各海域に敷設する観測システムは約800 km長の海底光ケーブルに約25台の地震津波計が数珠つなぎになっている一連のシステムです。東西方向に約30 km南北方向に約50kmの間隔で地震と津波の観測点を構築します(図2)。顕著な津波が発生する規模であるマグニチュード7~7.5クラスの海溝型地震が発生した時に、震源域直上でリアルタイム観測している観測点が1点は存在するようにしています。海溝軸外側の観測システムについては、日本海溝・千島海溝に沿ってほぼ南北に配置するため長さ約1700 kmの海底光ケーブルに60 km間隔で25台の地震津波計が配置されています。
図2. 各海域に設置する海底地震津波観測システム
陸上局を設置する場所は津波による被害を考慮して、可能な限り標高20mから30 mの高台としています。また、海底に敷設するケーブルのルートは、土石流やケーブル擦れによるケーブル損傷のリスクを下げるため、急峻地形と岩盤を可能な限り避けるようにしています。さらに、漁具や船のアンカーによるケーブル損傷も防ぐため、海岸から水深1500 mまではケーブルと地震津波計を1 m程度の深さで海底表層堆積物に埋設します。万が一、ケーブル損傷が発生しても観測を継続できるよう、ケーブル両端からのバランス給電と観測データの双方向伝送方式により強靱な観測システムとしています。
本観測システムでは、地震計と津波計が一体となった海底地震津波計を新規開発しました。大きさは、外径約34 cmで長さ232 cmです(図3)。腐食に強いベリリウム銅合金製容器の約半分は、地震センサー、計測回路、光アンプ部および伝送部を収容して水深8000 mの海底に設置可能な耐圧構造となっています。また、内部に水圧がかかる構造の残り半分の容器に水圧センサー2式を収容しています。地震計には特性と原理の異なる4組の地震センサーを組み込んでいます。
図3. 地震津波計の内部構造と外観および海底光ケーブル
房総沖の観測システムではNTT-WEM所有のケ−ブル敷設船「すばる」(9557トン)を利用し、ケーブルの敷設工事を行いました。水深1500 mより浅い海域では鋤(すき)埋設機と呼ばれる器具を用いて、ケーブルと観測装置を海底下に埋設しながら敷設作業を行いました(図4、図5)。埋設するといっても、鋤埋設機が深さ1 m 程度で切り裂いた溝の底にケーブルと観測装置を落とし込む工法ですので、海底水圧計による津波計測も可能となっています。
図4. 敷設船と鋤埋設機および敷設同時埋設工法
図5. 房総沖システムと海中投入直前の地震津波計
図6は地震津波計を海底設置する際に行ったシステムの健康度チェック試験の際に捉えた千葉県南東沖(深さ:71km M2.4)の地震の波形です。海底設置後に観測装置がきちんと正常に動作していることが確認できました。
図6. 地震津波計が捉えたM2.4の千葉県南東沖の地震
敷設船上の試験モニター画面(左)と後処理の地震波形(右)
この観測網の整備によってこれまでよりも早く海溝型地震の発生と津波を検知することができるようになります(図7)。陸域のみでの観測と比較して、地震の発生は最大で30秒程度早く、津波の場合は最大20分程度早く沖合で実測検知することが期待できます。
図7 地震と津波検知の迅速性の改善度合い。
震央位置と改善時間の関係。左:地震検知、右:津波検知
日本海溝海底地震津波観測網による観測データは気象庁はじめ関係機関に即時流通して地震津波災害軽減のため監視や地震調査研究に活用される予定です。稼働を始めた海域の観測網からデータ流通を開始して、本格運用は平成27年度を目指しています。
独立行政法人防災科学技術研究所海底地震津波観測網整備推進室長。東京大学名誉教授。海底地震学。東京大学大学院理学系研究科地球物理学専門課程博士課程単位取得退学。理学博士。平成22年まで東京大学地震研究所教授。小型観測装置を開発して日本海において最初のケーブル式地震観測を開始。
(広報誌「地震本部ニュース」平成26年(2014年)春号)