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古地震・古津波研究の進展と課題

震災後に注目された古地震・古津波研究

 東日本大震災から4年が経ちます。2011 年東北地 方太平洋沖地震(M9.0)が発生した当時、その規模 の巨大さから、「想定外」という言葉がよく聞かれまし た。しかし一方で、歴史上の巨大地震・津波であった 869 年貞観地震との類似性も指摘され(図1)、その 再来を想定していれば事前に対策がとれた可能性があ ります。このことから、過去の地震や津波を詳しく知 れば、今後起こりうる事象を想定できるのではないか、 という期待が高まり、古地震・古津波の研究が注目さ れるようになりました。震災前はマイナーであったこの 分野に、多くの研究者が興味を持つようになり、地震 学者や地質学者だけでなく、歴史学者や考古学者も積 極的に調査、研究に関わるようになりました。科学技術・ 学術審議会が5年ごとに建議する地震・火山噴火の予知・ 予測に関する計画においても、平成26 年度から新た に始まった建議「災害の軽減に貢献するための地震火 山観測研究計画の推進について」では、歴史学や考古 学の分野のテーマが多く取り入れられています。


日本各地で行われるようになった調査

 このようにして盛んになった古地震・古津波の調査 研究は、大学や研究機関だけでなく、自治体や民間団体、さらには個人レベルでも行われ、日本各地から 非常に多くの調査事例が報告されるようになりました。 たとえば津波堆積物に関しては、何か“異常な”地層 が見つかったときに、多くの人が過去の津波による可 能性を疑う、という姿勢を持つようになったことで、新 たな発見につながっていると思います。しかし逆に津 波由来の可能性が相当に低そうな堆積物までもが、過 去の巨大津波の証拠として報告されている事例も見受 けられます。学会等での専門家による議論や、学術論 文での査読プロセスを経ないまま、信頼性の低い情報 がマスコミ等を通じて社会に広まっていくことは、けし て好ましいことではありません。津波堆積物調査では、 堆積物を発見することと同時に、それが津波由来であ ることを証明することが重要で、また一番難しい点と 言えます。

図1

津波堆積物調査ハンドブックの公表

 そのような状況の中、原子力安全基盤機構(現在は 原子力規制庁に統合)では、津波堆積物に関する専門 家を集め、その知見を集約して作成した「津波堆積物 調査ハンドブック」を2014 年2月に公表しました(図 2)。そこには津波堆積物の調査地点選定から実際の 調査方法、採取した試料の分析方法まで詳しく書かれ ており、より信頼性の高いデータ取得とその解釈を行 う上で必要な事項が詳細 にまとめられています。 初めて津波堆積物の調 査研究に関わる方だけで なく、専門家にとっても 改めて調査手順を確認す る上で役に立つ内容で、 web 上でどなたでも見ら れますので、興味のある 方は是非一読をおすすめ します。


図1

図1 津波堆積物調査ハンドブックの表紙(原子力安全基盤機 構、2014)。
http://www.nsr.go.jp/archive/jnes/ content/000127085.pdf

防災・減災に向けた課題

 津波堆積物の調査を防災・減災に向けた津波想定に 役立たせるには、単に地層の分布を追うだけでなく、 それに基づいて過去の津波の浸水域を復元し、波源を推定した上で、将来の津波規模を予測する必要があり ます。それにはまず信頼性の高い津波堆積物の認定 が求められ、それを広範囲で対比させなければなりま せん。またそもそも津波の浸水は地層の分布範囲より も広域に及ぶことがあり、地層の証拠だけでは正確に 測れないという問題も有ります。現在、国内外の専門 家がこの問題に対し、様々な手法で研究に取り組んで いるところです。
 このように、津波堆積物調査で求められる成果を得 るには大変時間がかかり、さらにそれが実際に想定に 活かされるようになるには、行政上の様々なプロセス を経る必要があります。しかしそれを待っていては、 いつ起きてもおかしくないと言われる巨大地震や津波 に対して有効な防災対策を取れないまま、発生の日を 迎えてしまうということにもなりかねません。貞観地震 の成果が活かせなかった苦い経験をくり返してはいけ ないのです。


図3

津波堆積物データベースの公開

 信頼性の高い情報を発信するには時間がかかる、一 方で将来起こりうる巨大地震・津波の防災対策におい て猶予はない、というジレンマを、私たち専門家は少 しでも解消していかなければなりません。その一助と して、産業技術総合研究所では、津波堆積物データ ベースを整備してweb 上で公開しています(図3)。 このデータベースは、津波堆積物や過去の津波浸水の情報を迅速かつ広く社会へ伝えることを目的に作られ、 これまで産業技術総合研究所が実施した古地震・古津 波調査の観察地点を地図上で示しています。特に査読 付き学術誌等で論文公表され、データの信頼性が担保 されている地域については、1地点毎に地質柱状図と その解説がポップアップ画面で見られるようになってい ます。詳細情報は現在のところ(2015 年3月末時点)、 仙台平野、石巻平野、福島県沿岸、茨城県沿岸の一部、 青森県太平洋沿岸の一部で整備され、前3者のほぼす べての範囲で津波シミュレーションに基づいた869 年 貞観地震における推定津波浸水域も表示されていま す。その他の地点は位置データのみですが、論文公 表等を経てデータの整備が完了した地域から更新して いく予定です。今後、このデータベースが専門家や行 政関係者だけでなく、広く一般の方々の役に立ち、防 災・減災対策に活かされていくことを期待しています。


宍倉 正展(ししくら・まさのぶ)

著者の写真

産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門  海溝型地震履歴研究グループ長
2000 年千葉大学大学院自然科学研究科修了。 博士(理学)。通商産業省工業技術院地質調査 所に入所し、産業技術総合研究所への法人化を 経て、2009 年に研究チーム長、2014 年より 現職。地震調査研究推進本部事務局への出向経 験もある。専門は古地震学、変動地形学。

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