パソコン版のウェブサイトを表示中です。

スマートフォン版を表示する

  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 首都直下プロ5シナリオ地震動予測地図とその限界

(広報誌「地震本部ニュース」平成24年(2012年)9月号)

 

 シナリオ地震動予測地図は、地震本部の「全国地震動予測地図」では「震源断層を特定した地震動予測地図」とも呼ばれ、ある特定の地震の破壊シナリオが生じた場合に各地点がどのように揺れるのかを計算し、その分布を地図に示したものです。地震による揺れを地震動といい、地震動の強さは震度で測るのが一般的ですから、シナリオ地震動予測地図は予測震度分布図となります。
 首都直下地震防災・減災特別プロジェクトでも、首都直下地震のシナリオ地震動予測を試算し、予測震度分布図を作成しました。作成するためには、まず地震動予測の対象となる地震を特定しなければなりません。「首都直下地震」はそもそも中央防災会議が2005年に定義したものであり、18の地震をその例として挙げています。中でも、「東京湾北部地震」はある程度切迫性が高くて、都心部の揺れが強く、強い揺れの分布が広域的に広がっているとして、もっとも重視された地震です。
 ところが、本プロジェクトの別の研究成果によれば、地震調査委員会が「その他の南関東のM7程度の地震」として評価した過去5例のうち、4例はスラブ内地震※と考えられるということになりました。つまり、東京湾北部地震のようなプレート境界地震よりもスラブ内地震の方が切迫性が高いかも知れないので、スラブ内地震も地震動予測の対象としました。
※海洋プレートの沈み込んだ部分をスラブと呼び、スラブ内部で破壊が起こることで発生する地震をいう。

 シナリオ地震動予測のためには、地震の特定だけではなく、破壊シナリオも想定する必要があります。東京湾北部地震は過去に起こったことが確認されていない地震ですので、震源断層の位置や強い地震動を発生させる領域の位置は中央防災会議と同じと仮定しましたが、断層の破壊開始点については、中央防災会議の仮定と同じ中央部に加え、必ずしも中央部から破壊が開始されるとは限らないことから東端部、西端部を新たに仮定して試算を行いました。その結果のうち、中央部からの破壊シナリオに対する予測震度分布図を図1に示します。図の中で黒い大きな四角は震源断層モデル、その中の太線の四角は強い地震動を発生させる領域を示しています。

 また、スラブ内地震に対しては、本プロジェクトのさらに別の研究成果から千葉県北部に仮定し、破壊シナリオは強震動評価部会による「震源断層を特定した地震の強震動予測手法(レシピ)」に基づいて仮定しました。ただし、計算上の制限などから、破壊シナリオは中央部からの破壊開始のみとし、その結果を図2に示しました。図の中の四角の意味は図1と同じです。

 図1を2005年の中央防災会議の結果と比較すると、西側に仮定された強い地震動を発生させる領域の周辺の、震度6強の領域が広がるとともに、中央防災会議の検討ではほとんどみられなかった震度7の地域が点在する結果となりました。また、神奈川県中部に現れていた震度6弱の領域の一部が震度5強と試算されるなど、Sato ほかのScience 論文で発見され本プロジェクトで確認されたフィリピン海プレート上面の深さの変化だけでなく、地下構造モデルが精緻化されたこと
の影響も伺うことができます。
 スラブ内地震に対する試算結果では、震源断層の直上を中心に、やや広い領域で震度6強となる震度分布が得られ、わずかに震度7も現れました。

 上記のように、「その他の南関東のM7程度の地震」の過去5例のうちに、東京湾北部地震と同様のフィリピン海プレート上面の地震は1例も含まれていません。したがって、次の首都直下地震が東京湾北部地震になるかどうかはよくわかっていません。また、過去の例がわかっていないので、東京湾北部地震の試算のために作成した震源モデルは多くの仮定に基づいています。そのほか、試算の際に用いた地下構造モデルの空間分解能は数km程度であるので、結果の空間分解能も同程度でしかありません。したがって、公表した図面以上の精細さで結果を表示することは結果の空間分解能を超えている
ことになります。

 本成果は、首都圏下のプレート構造や地下構造がより精緻に明らかとなったことによって、どのような揺れの違いが現れるかの一例を研究成果として試算したものです。東京湾北部地震では破壊開始点の設定により、震度分布に違いが現れることがわかりました。このほか、フィリピン海プレート内のスラブ内地震による震度分布も試算しているものの、中央防災会議が設定した他の地震についての試算までには至っていません。
 以上を踏まえれば、具体的な防災対策を検討する内閣府( 防災担当) や東京都をはじめとする関係自治体において、必要な見直しが行えるように、今後は本プロジェクトの研究成果の一つである首都直下地震の震源モデルや過去の例の解析結果などの提供を行っていく予定です。
 また、今回の試算は多くの仮定に基づいているので、結果の中で強い揺れが予測された地域だけ将来の地震災害に備えれば良いということを意味していません。南関東のどこでも、首都直下地震による強い揺れに見舞われるとして備えるべきです。

(広報誌「地震本部ニュース」平成24年(2012年)9月号)

このページの上部へ戻る

スマートフォン版を表示中です。

PC版のウェブサイトを表示する

パソコン版のウェブサイトを表示中です。

スマートフォン版を表示する