今回マグニチュード7級以上の大規模な内陸地震を生じる主要な活断層帯の分布は、1990年代までの調査研究によってほぼ解明されたものと考えられてきました。しかし、主に航空写真を用いた立体的な地形判読によるこれまでの方法では、都市域の建物が密集する地域や森林に覆われた山地などでは、古い航空写真を用いても活断層による地表のずれや変形などの状態がよくわからず、活断層の存在や正確な位置が十分には把握できませんでした。とりわけ、人口が集中する都市域に潜む活断層は、大地震発生の頻度が低くても、ひとたび地震を起こせば甚大な被害を生じる可能性があります。そこで私たちは、近年発展が著しい航空レーザ計測による数値標高モデル(DEM)作成技術を応用し、2005年に「活断層の追加・補完調査」の伊那谷断層帯において初めて0.5mメッシュのDEM調査を活断層調査に適用し、2006年には長野県松本市において市街地を通過する活断層を発見しました。さらに、2010-2012年には「上町断層帯における重点的調査観測」の一部として大阪周辺の地形を詳細に可視化・解析し、市街地を通過する上町(うえまち)断層帯の分布を詳しく調査しています。
大阪市域における上町断層帯の分布については、調査地点ごとの限られた範囲しか知られていませんでしたが、新たに作成された2mメッシュDEM、音波探査やボーリング等の地質調査による地層の分布を総合した結果、市街地を通る地表付近の断層位置が従来よりも詳細にわかりました(図)。
さらに、断層帯の東側に分布する微高地は最後の大地震に伴い隆起して形成された可能性が明らかになりました。これらの結果は、上町断層帯の最新活動時期解明に繋がるものであり、地震後経過率や地震の発生確率など将来の大地震発生予測にとって基礎的な情報となります。
また、DEMとボーリング調査結果を総合して、上町断層帯によって生じた長期間のずれ量と平均変位速度を再検討しました。その結果、長期間のずれ量を従来よりも正確に求めることができ、最近数十万年間では、これまでの推定よりも上町断層帯の活動性が高いことが明らかになりました。これは、DEMを活用して地形を可視化しただけでなく、詳細な地形と地質の数値データを統合的に取り扱った成果と言えます。このような活動性のデータは、大地震発生頻度の目安になるだけでなく、上町断層帯で将来想定される地震の震源モデル構築や揺れの予測にも活用されています。今後、より多くの都市域で同様な調査研究が実施され、活断層の正確な位置や活動性の把握、それらの活断層・古地震情報を反映した現実的な大地震発生予測に貢献することが期待されます。
上記の研究は「上町断層帯における重点的調査観測」として実施されたものです。関係各位に記して御礼申し上げます。
https://www.jishin.go.jp/main/chousakenkyuu/uemachi_juten/index.htm
近藤 久雄(こんどう ひさお)
産業技術総合研究所活断層・地震研究センター主任研究員。2004年広島大学文学研究科博士課程修了。同年、産業技術総合研究所活断層研究センター特別研究員、日本学術振興会特別研究員を経て、2010年産業技術総合研究所活断層・地震研究センター研究員、専門は古地震学・変動地形学。
(広報誌「地震本部ニュース」平成25年(2013年)12月号)