阪神・淡路大震災を引き起こした1995年兵庫県南部地震以降、国内の強震観測網が大幅に増強され、地震調査研究推進本部による施策や計算機の発達に伴い、強震動予測を目的とした強震動シミュレーションが盛んに行われるようになった。強震動シミュレーションは、被害地震において災害要因となったさまざまな波動事象をこれまで再現してきた。1995年兵庫県南部地震による神戸市街の震災の帯、2003年十勝沖地震による勇払平野の長周期地震動、2007年新潟県中越沖地震の柏崎刈羽原子力発電所における極大地震動などが例として挙げられる。そして、東日本大震災を引き起こした2011年東北地方太平洋沖地震を契機に、強震動シミュレーションは、津波や地殻変動と連携を模索し、新たな時代を迎えようとしている。
強震動シミュレーションは、過去の地震に対する強震動評価を行い、そこから得られる物理則・経験則を演繹的に活用し、将来の地震に対する強震動予測を行うことによって、地震ハザード評価の一翼を担っている。例えば、地震調査研究推進本部による確率論的地震動予測地図は、震源断層を特定したシナリオ地震による強震動予測を何千回、何万回と重ねた結果と近似的に考えることもでき、各々のシナリオ地震の強震動シミュレーションを精緻化することが、予測地図の精度向上に役立つ。ただし、強震動予測においては、多数の強震動シミュレーションを行い、幅を有する予測結果を俯瞰することが重要である。この重要性は、東日本大震災による教訓・理工学の連携・国際的な動向の観点からも再認識されており、自戒の念を込めて強調したい。なお、強震動シミュレーションを支えているのは、強震観測・震源モデル・地下構造モデル・手法開発等であることは言うまでもない。
今後、強震動シミュレーションに期待されていることは、連続強震観測・超高速計算機・通信技術が発展した暁に、ほぼリアルタイムで強震動予測が行われることかもしれない。その時、想定外を含む地震の探究と予測地震動に、連続強震観測が厳しく制約を与えるであろう。地球の理解のため、そして何より防災のために、強震観測と強震動シミュレーションの両者をリアルタイムで体感できる時代が来ることを期待したい。
(広報誌「地震本部ニュース」平成24年(2012年)10月号)