独立行政法人海洋研究開発機構は、平和と福祉の理念に基づき、海洋に関する基盤的研究開発、海洋に関する学術研究に関する協力等の業務を総合的に行うことにより海洋科学技術の水準の向上を図るとともに、学術研究の発展に資することを目的として、2004年4月1日、前身の海洋科学技術センターから、独立行政法人として新たなる一歩を踏み出しました。
当機構は、前身組織時代を含めて、一昨年に設立より40周年を迎えましたが、この間、有人潜水調査船「しんかい6500」の開発、運用、「地球シミュレータ」が世界最速の演算性能を達成したコンピュータとなったこと、地球深部探査船「ちきゅう」が世界初のライザー式科学掘削船として完成し、巨大地震発生のしくみ、地球規模の環境変動、地球内部エネルギーに支えられた地下生命圏、新しい海底資源の解明など、人類の未来を開く様々な成果をあげることを目指して運用されたことなど、その時々の最先端の研究、技術開発を実施し、組織として成長させて頂きました。
このような組織変遷の歴史を持つ当機構は、現在、研究部門、開発・推進部門、運営管理部門の3つの部門に分かれ、3つの研究領域、2つのリーディングプロジェクト・研究所・ラボ、4つのセンターの組織に区分して研究、技術開発などの多様な事業を運営しています。
なお、8隻の研究調査船をはじめとする、有人潜水調査船、無人探査機、そして、リーディングプロジェクトのひとつである地震津波・防災研究プロジェクトが構築、運用しているDONETなどの船舶、海洋観測設備等を有し、陸上では地球シミュレータ(ES2)などの研究設備を設置、運営しています。
また、拠点として、神奈川県横須賀市に本部を構え、横浜、高知、むつ、名護のそれぞれの地に研究所、センターを配置しています。
このような当機構の組織の中で、リーディングプロジェクトのひとつに位置付けられた地震津波・防災研究プロジェクトは、組織の目標である「中期計画」の中で、「総合海底観測ネットワークシステム技術開発 ケーブルで結んだ多数のセンサーから構成されるリアルタイム総合海底観測システムに関する研究開発およびそれらの運用を行う。これにより、プレート境界域における地震等の地殻変動および深海底環境変動を海中・海底において、継続的に観測することを可能とする。」と掲げ、研究開発を推進しています。
この目標の下、当プロジェクトでは文部科学省からの補助事業等として構築・運用を進めている「地震・津波観測監視システム(DONET)」の技術開発、設置・構築を担当する「技術開発グループ」、DONET・他観測機器・設備等を活用して地殻構造イメージング、地殻活動モニタリング、巨大地震発生サイクルシミュレーション、地震波伝播シミュレーションを実施する「データ解析グループ」、DONET の保守・運用、他観測機器・システム等からのデータを運用管理、データベース構築を実施する「システム運用・データ管理グループ」、これら3つのグループの活動を業務支援する「研究企画グループ」の4つのグループ体制にて、プロジェクト・リーダー(金田義行)のもとで運営しております。
当プロジェクトでは、南海トラフの地震・津波を常時観測監視するため、平成18年より文部科学省受託研究として研究開発を進め、紀伊半島沖熊野灘を中心に、稠ちゅう密みつなリアルタイム観測を行う海底ネットワークシステムを構築するとともに、集中的に地震調査研究を行っています。私たちは、防災への貢献、地震予測モデルの高度化、世界最先端の技術開発という3つの柱を持つこの“海底ネットワークシステム”を地震・津波観測監視システム(DONET)と呼称し、三重県尾鷲市古江町に陸上局舎を整備して、そのシステム運用を2011年8月に開始しました。
また、同省受託研究「東海・東南海・南海地震の連動性評価研究」からも提唱されている海溝型地震の連動性の解明とともに、地震動予測、津波予測の高度化を目的として、新たに潮岬沖から室戸岬沖の南海地震想定震源域で地震・津波観測監視システムの整備を『DONET 2』として開始しています。
残念ながら、私たちは地震の発生を止めることはできませんが、事前の準備によって地震被害を最小限に留めることは可能です。DONETとDONET2の両システムが完成すると、南海トラフで発生する巨大地震とそれに伴う津波の早期検知に貢献できると思われます。(DONET及びDONET2についての詳細は、2012年4月号をご参照ください。)
地震津波・防災研究プロジェクトでは、DONETの他にも相模湾初島沖深海底総合観測ステーションをはじめとして、高知県室戸岬沖、北海道釧路・十勝沖、愛知県豊橋沖の各海域で海底ケーブル型リアルタイム深海底観測システムを運用しています。
相模湾初島沖 深海底総合観測ステーション
当機構が1993年に設置した最初のシステムです。地震観測(海底地震計、津波計)のほか、ビデオカメラ、ハイドロフォン(水中マイク)、水温・塩分・圧力計(CTD)、音響層別流速計(ADCP)など、多数の観測機器を装備し、深海環境を多面的に観測する機能を備え、総合観測ステーションとして活躍しています。
室戸岬沖 海底地震総合観測システム
このシステムでは、南海地震などを引き起こす四国沖南海トラフを観測し、繰り返し発生している巨大地震に関する研究を行っています。我が国の基盤的地震観測網の整備計画の一環として、1996年度、室戸岬沖に「海底地震総合観測システム」1号機として設置されました。多数の観測機器を搭載した先端観測装置(地中温度計、流向流速計、音響層別流速計(ADCP)、水温・塩分・圧力計(CTD))ならびに地震計・津波計をケーブル中間に備えています。
釧路・十勝沖 海底地震総合観測システム
室戸岬沖システムと同様に、先端観測装置(ビデオカメラ、地中温度計、流向流速計、音響層別流速計(ADCP)、水温・塩分・圧力計(CTD)、ハイドロフォン)ならびに地震計・津波計から構成されているシステムであり、我が国の基盤的地震観測網の整備計画の一環として、1999年度、釧路・十勝沖に「海底地震総合観測システム」2号機として設置されました。
2008年に十勝沖で発生した地震では、本システムが海岸の験潮所より30分早く津波を観測しました。これは本システムが津波警報の早期発信等に有効であることを意味しています。
各システムで得られたリアルタイム観測データは、気象庁をはじめとする各機関へ配信されるほか、Webを通じて公開されています。また観測システムを基盤とする各種観測装置の技術開発が行われています。
(データ公開先:http://www.jamstec.go.jp/scdc/top_j.html)
当プロジェクト・リーダー金田義行が、2012年4月号にて「最後に海底観測網は整備することが目的ではなく、長期間にわたり拡張性を組み込んで安定的に運用し、観測網から得られるデータ・情報を広く配信し、いろいろな分野で活用することで、南海トラフ巨大地震・大津波に対する減災研究、予測研究に貢献することが最終目標です。」と述べているとおり、地震津波・防災研究プロジェクトでは、こうした地震や津波による被害の軽減を目的とした調査研究・技術開発を行っています。
(広報誌「地震本部ニュース」平成24年(2012年)12月号)