「小学生のとき、この建物の前まで遠足で来ました。当時、中には入れませんでした。60年の念願が叶いました」、「ガイドさんの説明が上手でよくわかりました」。これらは、京都大学防災研究所阿武山観測所が実施している一般公開に訪れてくださった方々の感想の一部である。
「満点計画」(次世代型稠密地震観測計画)の中核となって現役の観測施設としても機能すると同時に、設立当時の超大型地震計から最新の研究成果まで、地震研究について一般の方にわかりやすくお伝えするサイエンス・ミュージアムとして観測所が再生して、まだ2年余り。しかし、おかげさまで、現在では、月に何度も公開日やイベントが設定され、多くの方でにぎわうようになった。 上記の「ガイドさん」とは、観測所主催の研修会を修了した一般のボランティア説明員のことである。この仕組みは、ミュージアムの運営そのものに一般の方に参画してもらうことを意図している。しかも、見学者対象のアンケートによると、観測所スタッフが説明役になったときよりも解説に対する満足度が高いなど、思わず苦笑いしたくなるような結果も出ている。
最初のイベントは、2011年4月初頭。3.11の直後で、開催を先送りすべきかとも考えた。しかし、ご存じのように、「社会の中の地震学」が問われている時だからこそ、こうした取り組みが必要ではないかと考えて、予定通りスタートさせた。
約80年前の設立以来、研究施設には不相応と思われるほど立派な外観をもつ建物(国威発揚のためだったとも伝えられる)は、遠足の小学生など相手にもしなかったのかもしれない。しかし、今では、「満点計画」の一翼を担って地震計を保守している小学生たちが定期的に訪問したり、昭和モダンな建物が功を奏して映画等のロケ地となったりするなど、随分とオープンな施設に変貌してきた。
「地震調査研究の最先端」は、このような方向にも戦線を拡大しつつあることを知っていただければ幸いである。
矢守 克也(やもり・かつや)
京都大学防災研究所巨大災害研究センター教授(阿武山観測所兼任)。人と防災未来センター上級研究員などを兼務。博士(人間科学)。専門は防災心理学、防災教育学。ヨハネス・ケプラー大学客員教授などを経て、2009年より現職。
(広報誌「地震本部ニュース」平成25年(2013年)5月号)