地震調査研究推進本部(地震本部)では、長期評価、強震動評価、地震動予測地図など、私達が日本全国の地震環境や地震ハザードを理解するのに役立つ様々な検討を実施し、成果を公表しています。それらの中から、強震動評価の概要について、5月号と6月号の2回にわたり紹介します。
地震が発生すると地面や建物が揺れます。もう少し 丁寧に説明すると、「地震」とは、地中深くの岩石の 中に徐々にたまった力やひずみが限界に達し、そこで すべり破壊が生じる現象です。地震が発生すると、地 中あるいは地表を伝わる「地震波」が発生します。地 震波が伝わってきたある地点での地面や地中の揺れを 「地震動」と呼びます。図1を見ながら、今の説明をも う一度読み直してみましょう。 日常用語としては、この地震動のことが地震と呼ば れることもありますが、地震本部では、このように、 地震・地震波・地震動という言葉を区別して扱います。 特に、地震動の中でも揺れの大きいものは、しばしば 「強震動」と呼ばれています。
自然現象である地震動の特性は、地震の震源断層でのすべり破壊の特徴、地震波の伝わり方、対象地点付近での地盤の揺れやすさ等に左右されます。地震動の特性は、振幅( 揺れは、どの程度大きいか? )・経時特性( 揺れは、時間と共にどう変化するか、どのぐらい長く続くか? )・周期特性( 揺れ方は、小刻みに素速いか、ゆったりと遅いか?)の三要素によって表現することが出来ます。
地震動の強さは、地震の規模(マグニチュード)が大きいほど大きく、震源からの距離が近いほど大きくなります。この特性を地震動の「距離減衰特性」と呼び、地震動の強さを地震規模や震源距離などの関数として整理したものを「距離減衰式」と呼びます。地震の規模が大きいと、より広い地域、より遠くの地域まで、強い揺れに見舞われます。
地震の震源は現実には点ではなく、地中の広大な震源断層面上をすべり破壊が進みます。このように震源断層が面的に破壊する様子をモデル化したものを「断層モデル」と呼びます。実際の震源断層の面上でのすべりは一様ではなく、特に「地震動」を支配するような地震波が発生する主要な破壊領域のことを「アスペリティ」と呼びます。
地域においてある程度の広がりを有し高層建物をも支持し得るような堅固な地盤を「工学的基盤」と定義し、その上に堆積している層を取り除いたと仮定したときの工学的基盤の表面での地震動を計算したり分析したりすることが多いようです。工学的基盤以浅の表層地盤の増幅特性は局所的に大きく変化するため、それについては、個々の地点の条件を別途考慮した方が良いことが多いからです。
自然現象としての地震は複雑です。図2を見ながら、考えてみましょう。震源断層の三次元的な形状や破壊の仕方、三次元的に変化する地下構造の影響を受ける地震波の伝わり方、表層地盤による増幅等の局所的な条件の影響により、地震動の性状は左右されます。実際には、私達が入手し活用することが可能な情報の質・量や地震動の活用目的に応じて、それらの特性をモデル化して扱うことが多いのです。例えば、地震本部による強震動評価や全国地震動予測地図の作成に用いられている地震動予測手法は、ハイブリッド合成法に基づく「詳細法」と距離減衰式に基づく「簡便法」とに大別されています。
以上、まずは地震・地震動の基本知識と地震動予測の基本的な考え方を紹介しました。引き続き6月号では、強震動評価の手順や評価結果の見方を紹介します。
(広報誌「地震本部ニュース」平成24年(2012年)5月号)