地震の揺れを事前に知る、というのは、長い間地震学者の大きな目標だった。科学技術の発達と地震学の進歩によって、私達は「緊急地震速報」という形で事前に知ることができるようになった。緊急地震速報は、地震の揺れをできるだけ早くキャッチし、地震動の初めの部分からその地点での最大の揺れ、あるいは遠方の揺れを予測するシステムである。2007年10月から一般市民に向けて提供さ
れるようになり、テレビやラジオ、携帯電話で速報を受信することができるようになった。
緊急地震速報を広く一般に周知するきっかけとなったのが、東日本大震災である。東日本大震災では、P波検知から8.6秒後に緊急地震速報を発表し、東北地方の携帯電話に速報を配信した。しかしながら、特に人口の集中する関東地方には、予測震度が小さかったために配信せず、大きな混乱をもたらした。さらに、本震直後に多数の余震が同時に遠く離れた地域で発生したため、緊急地震速報のシステムがうまく機能せず、ごく小さい地震でも緊急地震速報を発表してしまう誤報が続いた。これらの問題は、地震の震源の広がりを考慮したり、地震の震源をひとつに決めずに複数の震源を想定することで改善することが可能である。(詳細は2012年11月号参照)
リアルタイム地震学は、観測データをリアルタイムで解析することにより、地震情報をいち早く決定し、ユーザーに向けて発信することによって、防災や地震災害軽減に役立てる学問である。このような地震情報は、構造物の振動制御や危険作業からの退避等、様々な利活用法が期待される。今後は、情報の迅速化や精度向上は言うまでもなく、地震の破壊過程の理解や強震動予測の最新の成果を取り入れたり、工学分野の新しい活用方法を開拓するなど、他の研究分野と連携しながら学問を発展させていくことが重要である。
(広報誌「地震本部ニュース」平成25年(2013年)3月号)