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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 航空機S A R による地震災害の機動的かつ広域な把握(情報通信研究機構)

(広報誌「地震本部ニュース」平成25年(2013年)3月号)

 東日本大震災の大きな揺れを感じてすぐ、東京都小金井市にある情報通信研究機構(NICT)では、航空機搭載合成開口レーダ(Pi−SAR2)の観測の準備に取り掛かりました。
 まず、Pi−SAR2を搭載する航空機(ガルフストリーム2型機)を所有するダイヤモンドエアサービス社(以後、DAS)に連絡し、航空機の準備と機器搭載を依頼。その直後には電話が不通になりました。地震発生後から新幹線をはじめとする鉄道がすべて運休となっており、航空機のある名古屋への移動手段も困難となるなか、どうにか荷物運搬用のバンを借り受け、翌朝5時に名古屋空港に到着。朝7時から東北地方に向けて観測を開始しました。
 図1はその時に観測した仙台空港周辺の画像です。高度8,600mの高さから観測したもので、図は5km四方の領域になります。図の右側の黒い部分は海ですが、陸側の黒い部分は、津波により冠水した領域を示しています。この日は、この画像領域を含め関東から東北地方の太平洋岸を中心に広域の観測を行い、機上で画像にしたものをその日のうちにWeb上で公開しています。

 NICTは、我が国の経済の成長と発展、豊かで安心・安全な社会の実現の原動力である情報通信ICT分野の研究開発と事業振興を進める独立行政法人です。NICTの研究の柱のひとつが安心・安全な社会実現のための電磁波の利用技術であり、この立場からの研究のひとつとして、地震や火山などの災害時の把握に有効な航空機搭載合成開口レーダ(SAR)の開発をおよそ20年にわたって進めて参りました。
 SARの主な特徴は、雲の上からも地上を航空写真のように観測できること、夜でも昼間と全く同じ画像を取得できることです。冒頭のPi−SAR2(図2)は、5年前に実験運用を開始した二代目にあたり、30cmという識別能力(分解能)と2m以下の精度での高さを計測する機能(インターフェロメトリ)および偏波を用いた詳細識別能力(ポラリメトリ)を備えています。このレーダ装置はガルフストリーム2型の航空機に搭載し、通常は8,000m以上の高さから10kmの幅を連続して観測することができます。

 我が国で初めての本格的な航空機SARは、NICTが前身の通信総合研究所(CRL)時代に開発した1.5mの分解能とインターフェロメトリとポラリメトリを備えた(初代)Pi−SARです。Pi−SARは2000年に発生した北海道有珠山および三宅島の火山噴火災害において、噴煙や雲に遮さえぎられることなく、火口の形状や大きさ、3次元的な計測から得られた隆起や沈降の状況などを提供することができただけでなく、一般の人々にもSARの画像の有効性を示しました。
 実はこの観測に至るまでには苦い経験がありました。1990年に発生した雲仙普賢岳の噴火災害当時、CRLは海洋油汚染観測を目的として、海上・地上を観測できる実開口レーダ(R−SLAR)を開発していました。ところが、分解能は3,000mの高さから観測しても30mの分解能しかなく、肝心の山頂付近の溶岩ドームの形状までは計測が困難でした。分解能を高くできる合成開口レーダの開発はCRL研究者の悲願ともなりました。Pi−SARはこの状況を一変させ、火山災害においては有効性を発揮させたのです。
 ところが、2004年に発生した新潟県中越地震では、また苦い経験をすることになります。この地震では山岳部に震源があり、多くの小規模の土砂崩れ等により道路の寸断や河川がせき止められた土砂ダムが発生しました。Pi−SARは地震発生3日目には観測を行ったのですが、持ち帰ったデータを処理しても、大規模なものはともかくとして、多数で小規模の被害を判読することは困難だったのです。しかし、地震から半年たって被災現地にこのデータを持ち込んだところ、現地の方々はいとも容易に被害箇所を見つけることができたのです。
 このことがPi−SAR2を開発する契機となりました。Pi−SAR2では、1mよりも詳細に観測できること、観測データを現地に迅速に提供することを目標として開発を開始しました。

 こうして2008年にPi−SAR2は初飛行を行いました。Pi−SARの機能はそのままに30cmの高分解能化に加え、機上で画像再生処理を行うことのできる装置を備えました。それまでは大量で高速なSARデータをハンドリングすることは、地上の設備でしかできませんでした。機上で画像圧縮したデータは、衛星通信等によりライブ伝送することを目指しています。
 東日本大震災のとき、観測したデータの一部は機上で画像化し、着陸後にNICTに送ってWebにより公開しました。同様の手続きを、その直前まで観測していた霧島・新燃岳の観測でも行っていました。この時の画像は機上処理能力の制限から、ひとつの偏波データを用いた白黒の画像でした。全偏波を用いたカラー画像はデータをNICTに持ち帰ったあと、地上設備で作成し、Web公開しました。当時は新燃岳のインターフェロメトリによる3次元画像化(図3)に取り掛かっていたのですが、地震直後の緊急性と大量のデータをさばくことで精一杯で、画像の3次元化や判読・解析は後回しとなりました。
 新燃岳や大震災でも災害に教えられることになりました。処理時間が間に合わないことについては、3次元画像化やポラリメトリの多偏波合成カラー化も含めて高速処理を進め、今年度中には機上処理もカラー画像を提供できるよう高速化を実現しました。機上からのデータ伝送についても検討を進めています。

 NICTでは前身のCRL時代から、電波を用いた利用技術の研究成果を社会生活に密接に応用できるように心がけています。地震調査研究においては、1990年代にはVLBI技術を応用したキーストンプロジェクトにより、関東地域の地殻変動の様子を捉えました。現在NICTでは、本稿にあるようにSAR技術による地震災害への貢献を目標としています。今後も、さらに新しい技術の開発・発展と社会への応用を図っていきます。

(広報誌「地震本部ニュース」平成25年(2013年)3月号)

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