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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 南海トラフの長期評価

(広報誌「地震本部ニュース」平成25年(2013年)7月号)

 地震調査研究推進本部地震調査委員会では、これまでに、海域に発生するプレート間地震(海溝型地震)について、長期評価を行い公表してきました。しかし、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震のような超巨大地震を評価の対象とできなかったことを始め、海溝型地震の長期評価に関して様々な課題が明らかとなったことから、現行の長期評価手法を見直し、新たな手法の検討を行うこととしました。新たな長期評価手法については検討を継続中ですが、南海トラフの大地震は、広範囲に大きな被害が懸念されるため、早急に防災対策を進める必要があります。そのため、これまでに得られた新しい調査観測・研究の成果を取り入れ、南海トラフの地震活動の長期評価を改訂し、第二版としてとりまとめました。

 2001年に公表した前回の長期評価(以下、前回評価)以降、数多くの知見や観測データが蓄積されています。これらの成果により、南海トラフで発生する大地震は、従来考えられていたよりも、多様かつ複雑であることが明らかになってきました。このため、南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)(以下、新評価)では、以下の点に留意し評価を行いました。 ① これまで考えられてきた固有地震モデル(ほぼ同じ領域で、ほぼ同じ規模の地震が周期的に繰り返す、というモデル)に基づく評価ではなく、発生しうる最大クラスも含めた地震の多様性を考慮した評価を試みる。 ② 不確実性が大きくても防災に有用な情報は、これに伴う誤差やばらつき等を検討した上で、評価に活用する。 ③ データの不確実性などにより、地震の発生確率などは、解釈が分かれる場合がある。そのように解釈が分かれるものについては、複数の解釈について併記する。

 前回評価では、南海トラフで発生する地震を、南海地震及び東南海地震に区分し評価を行っていました。新評価での評価対象領域は、地形(幾何形状)の変化、力学条件の変化、既往最大地震の震源域、現在の地震活動などを考慮し、以下の範囲としました。(図1)
東端:富士川河口断層帯の北端付近
西端:日向灘の九州・パラオ海嶺が沈み込む地点
南端:南海トラフ軸
北端:深部低周波微動が起きている領域の北端

 標準的な手法に基づき、最大規模の津波だけでなく、比較的発生頻度が高く繰り返し発生し得る津波についても評価を実施します。評価にあたっては、後述のニーズや課題等も踏まえた情報を提供できるよう検討を行います。また、我が国の周辺海域で発生する地震だけでなく、遠地で発生する地震による津波についても対象とする予定です。さらに、様々な海域で発生する地震による津波を総合的に評価し、全国の沿岸域における津波ハザード評価を実施することについても検討する予定です。

図1 南海トラフの評価対象領域とその区分け


 図2は、歴史資料から明らかになった、南海トラフで発生した大地震の震源域の時空間分布図です。発生した年が古い大地震については、歴史資料の不足により見落としている可能性がありますが、正平(康安)地震(1361 年)以降は、見落としはないと考えられます。図2より、過去に南海トラフで発生した大地震は、その震源域の広がり方に多様性があることが分かります。また、中には慶長地震(1605 年)のように揺れが小さいが、大きな津波が記録されている特異な地震も含まれています。 また、海底堆積物や津波堆積物の地質学的な証拠から、歴史資料からはわからなかった白鳳(天武)地震(684年)より前にも南海トラフで大地震が繰り返し起きていたことも分かりました。これらの痕跡から既往最大といわれている宝永地震クラスの大地震は、300〜600年間隔で発生していることや、高知県の蟹ヶ池で見つかった津波堆積物の痕跡より、約2,000年前に、四国の太平洋沿岸に宝永地震よりも大きな津波が押し寄せた可能性も指摘されています。 このように、南海トラフで発生する大地震は、多種多様なパターンの地震が起きていることが分かりました。これは、南海トラフの大地震には、前回評価で仮定されたような、「ほぼ同じ領域で、ほぼ同じ規模の地震が周期的に繰り返す」という固有地震モデルが適用できないことを示しています。

図2 南海トラフで過去に起きた大地震の震源域の時空間分布(石橋,2002もとに編集)


 前述のように、過去に南海トラフで起きた大地震は多様性があるため、次に発生する地震の震源域の広がりを正確に予測することは、現時点の科学的知見では困難です。 歴史記録の多くは、南海地域(評価対象領域のうち、潮岬より西側の領域)で発生する地震、東海地域(評価対象領域のうち、潮岬より東側の領域)で発生する地震、両域でほぼ同時に発生する地震、に大別できます。地震が同時に発生しない場合でも、数年以内の差でもう一方の領域で地震が発生しています。繰り返し間隔の長さと比較すると、これらはほぼ同時に活動しているとみなせます。そこで、本評価では、南海トラフを、南海・東南海領域という区分をせず、南海トラフ全体を一つの領域として、地震発生の可能性を評価しました。 次の地震が発生するまでの間隔については、時間予測モデル(用語解説参照)が成立すると仮定し、室津港(高知県)の隆起量をもとに88.2年と推定しました。昭和東南海・南海地震の発生から既に約70年が経過しており、次の大地震の切迫性が高まっていると言えます。 大地震の発生確率については、震源域の多様性などの複雑な発生過程を説明するモデルは確立されていないため、従来の評価方法を踏襲して、計算を行いました。この結果、今後30年以内の地震発生確率は60~70%となりました。


(広報誌「地震本部ニュース」平成25年(2013年)7月号)

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