地震が起きると様々な周期を持つ揺れ(地震動)が発生します。長周期地震動とは、ゆっくり繰り返す長い周期の地震動のことです。マグニチュードの大きい地震ほど長周期の揺れを出し、短周期の揺れに比べて減衰しにくいため遠くまで伝わります。大都市では柔らかい堆積層が平野を厚く覆っているため、長周期の揺れが増幅されます。高層ビルは長周期の揺れに共振しやすい固有周期(揺れやすい周期)を持っているため、長時間大きく揺れ続けます。
気象庁では、地震発生後直ちに震度情報を発表していますが、震度は地表面付近の比較的周期の短い揺れを対象とした指標で、高層ビルの高層階における長周期の揺れの程度を表現するのに十分ではありません。このため、高層ビル内での的確な防災対応の実施に資するよう、概ね14~15階建以上の高層ビルを対象として、地震時の人の行動の困難さの程度や、家具や什器の移動・転倒などの被害の程度を基に揺れの大きさを4つの階級に区分した「長周期地震動階級」という指標を新たに導入しました。これを用いて、長周期地震動により高層ビル内で生じたと見られる揺れの大きさの程度や被害の発生可能性等についてお知らせする「長周期地震動に関する観測情報」の試行的な提供を平成25年3月28日から気象庁HPにて開始しました。
長周期地震動に関する観測情報は、施設管理者や低層階の防災センター等が高層階における被害の発生可能性等を認識し、防災対応を行うための判断支援、また、高層階の住民の方々が、震度とは異なる揺れであったことを認識して頂くことを想定しています。
図1 絶対速度応答スペクトルから長周期地震動階級を求めるイメージ。
この場合、長周期地震動階級は4。
長周期地震動階級は、地震計の観測データから求めた絶対速度応答スペクトル1)(減衰定数2)5%)の周期1.6秒から周期7.8秒までの間における最大値の階級をその地点の「長周期地震動階級」としています。図1では、長周期地震動階級は4となります。長周期地震動階級は、その場所に高層ビルがあれば高層階でどのような揺れになるのかを推計したもので、周辺の高層ビル等における建物内の被害状況把握の参考に出来るものの、個々の高層ビル等の特性や地盤条件まで表現しているものではありません。また、高層ビルの中でも、階や場所によって揺れの大きさが異なります。特に、建物の頂部の揺れ方は、発表した長周期地震動階級よりも大きくなる場合もあります。
また、それぞれの階級が推計された際に発生する可能性がある被害を記述した「長周期地震動階級関連解説表」を取りまとめています(表1)。
表1 長周期地震動階級関連解説表
1)絶対速度応答スペクトル−様々な固有周期をもつ対象物に対して、地震動がどの程度の揺れの強さ(応答)を生じさせるかを図に示したものを応答スペクトルといいます。絶対速度応答スペクトルは、様々な固有周期を持つ高層ビル高層階の床が動く速度(絶対速度)の最大値を示しています。
2)減衰定数−揺れが時間とともに弱まっていく程度を示す定数です。減衰定数が小さいほど、揺れが収まりにくいという特徴があります。設計用地震動など、応答スペクトルを示す多くの資料では減衰定数5%が用いられています。
全国を188に区分した地域での長周期地震動階級の最大値と、観測点毎の震度と長周期地震動階級を表示しています。 また、観測点における長周期地震動階級や、地動加速度、速度及び変位の最大値のデータをCSVファイルでダウンロード出来ます(図2)。
図2 長周期地震動に関する観測情報(試行)のトップページ表示内容(イメージ)
個別観測点のページ(図3)は、その観測点が震度1以上を観測した場合に掲載しています。震度と長周期地震動階級を表示すると共に、専門的知見を有する方等がより詳細な観測データを入手する事が出来るよう、周期帯毎の長周期地震動階級データの最大値、絶対速度応答スペクトルのグラフ等を表示しています。なお、石油タンクや免震建物への影響度合いなどを評価に活用できるよう、応答スペクトルは、0.5%、2%、5%、20%の減衰定数を選べるようにしています。
個別観測点のページからは、図の作成に用いた絶対速度応答スペクトル等のデータをCSVファイルでダウンロード出来ます。
図3 個別観測点の掲載内容(イメージ)
長周期地震動に関する観測情報の試行的な提供を気象庁HPで行いながら、利用者等からご意見を伺い、本格運用に向けた検討を進めていきます。また、関係機関と連携し、長周期地震動に関する情報の認知度の向上に向けた取り組みを行うとともに、長周期地震動による被害状況等の周知・啓発を進めて参ります。 また、高層ビル内等における安全の確保を目的として、将来「長周期地震動の予報」について発表することを検討しています。
(広報誌「地震本部ニュース」平成25年(2013年)12月号)