シリーズの5回目では、平成26年5月14日に東京大学伊藤謝恩ホールにおいて開催された本プロジェクトの中間成果報告会「都市の脆弱性が引き起こす地震災害」(主催:東京大学地震研究所、京都大学防災研究所、文部科学省)について報告します。
これは、本プロジェクトが今年度で5か年計画の中間となる3年目を迎えるに当たり、広く防災に関心を持つ市民、学術コミュニティ、国や自治体、民間企業の防災関係者などを対象に、これまでの成果を報告するとともに、今後の社会への活用の促進を図ることを目的とするものです。当日は約400人の方々が参加し、会場は熱気に包まれました。
冒頭、磯谷桂介文部科学省大臣官房審議官(研究開発局担当)による開会挨拶が行われ、中間成果報告会の目的について、最前線の研究内容を参加者と共有し、役立てていただくとともに、本プロジェクトが行政や企業、市民の防災・減災対策につながる成果を挙げるよう、今後の研究の方向性についても充実した議論を期待したい旨の発言がありました。
中間成果報告会開催パンフレット
1部では、3つのサブプロジェクトの研究代表者から、各サブプロジェクトのこれまでの成果などについて報告が行われました。
(1)サブプロジェクト①
(平田直・東京大学地震研究所教授)
「東日本大震災後の首都圏の大地震とその災害像」と題して、首都圏地震観測網(MeSO-net稠密)の継続的な地震観測などに基づく首都圏のより正確な地震像の解明及び都市の地震災害の姿を予測する新たな評価技術の開発について報告されました。特に、1855年に発生し、7,000人の被害を出した安政江戸地震について、首都圏における地震像の1つのモデルとして、当時の江戸と現在の東京の被害イメージを大規模シミュレーションにより評価する手法を中心に紹介されました。
(2)サブプロジェクト②
(中島正愛・京都大学防災研究所教授)
「鉄骨高層建物の崩壊余裕度と損傷判定に関わる大型振動台実験」と題して、高層ビル等の都市の基盤をなす施設が完全に崩壊するまでの余裕度の定量化、及び地震直後の健全度をモニタリングする仕組みの構築に関する研究について報告されました。特に、昨年12月に行った「鉄骨造高層建物の崩壊までの挙動を検証したE-ディフェンスが振動台実験」について、梁の破断や柱の座屈による崩壊過程や損傷評価の状況などの実験結果を、実際の動画を交えて紹介するとともに、この実験で用いたモニタリングシステムによる損傷評価結果との比較もあわせて示されました。
講演風景
(3)サブプロジェクト③
(林春男・京都大学防災研究所教授)
「大規模被害の発生を前提とした災害からの回復力の向上」と題して、災害発生時に円滑な応急・復旧対応を支援するICT技術を活用した災害情報提供手法の開発及び防災に関する問題解決能力(防災リテラシー)の育成方策に関する研究について報告されました。報告では、被害の発生を前提とした対策の必要性、特に公的機関の対応の限界と自助力・公助力の重要性を踏まえ、研究の初年度から最終成果として位置づけている「ジオポータルオンライン」「防災リテラシーハブ」等の5つのコンテンツの現状や今後の展望に焦点を当てて紹介されました。
本プロジェクトの統括委員会委員長である前川宏一教授(東京大学大学院工学系研究科)に司会進行のもと、各サブプロジェクト代表に加え、外部パネリストとして以下の3名の方に参加いただきました。
伊藤哲朗 氏
(東京大学生産技術研究所客員教授 元内閣危機管理監)
小室広佐子氏
(東京国際大学副学長 元テレビキャスター)
本田茂樹 氏
(株式会社インターリスク総研 特別研究員)
最初に、外部パネリストの方から各々の経験を踏まえた本プロジェクトに対する意見の発表がありました。
伊藤氏からは、危機管理に当たり、リスクの蓋然性を認識した対策が重要で、災害が発生した時には、被害がどの程度になるかをイメージできることが重要であること、また、本プロジェクトの推進に当たり、最も脆弱な部分から被害が拡大するため、電気・通信・水道・ガスなどの社会インフラの被害想定から脆弱な部分を把握し、その後の対応に役立てるようにすることが重要であるとのコメントがありました。
続いて、小室氏からは、従来は災害を防ぐ「防災」の観点からの研究が多かったが、被害を前提とした災害の「軽減化」を本プロジェクトがテーマに掲げていることは意義があるとの期待が示されました。また、災害情報に関するリテラシーは発信者と受信者の双方に必要であるが、特に発信者のリテラシーの重要性についてコメントがありました。
また、本田氏からは、民間企業の事業継続計画(BCP)の策定割合がまだ十分ではないことや、東日本大震災から3年が経過し、国民の防災意識が低下しているとの認識が示されました。このような問題点を克服するためにはリスクコミュニケーションが重要であり、自助の意識を高めることが必要であるとのコメントがありました。
これらの発言を受けて、会場の参加者から質問カードにより頂いた意見や質問も加えて、それぞれの立場から活発な議論が行われ、「被害想定の検討においてインフラの被害についても把握することが重要」、「研究者は最先端の研究をしていただきたいが、成果のアウトプットまで工夫をして責任を持って欲しい」、「省庁間の連携、特に内閣府(防災担当)との連携が重要」といった課題や提案が挙げられました。
最後に、各パネリストからは、発災時に現在何が起きていて、将来何が起きるのかを正確で無くても伝えることが重要だが、そうしたリスクコミュニケーションやクライシスコミュニケーションの研究はまだ十分でないこと、研究者及び文部科学省が本プロジェクトの成果を社会に効果的にアウトプットすることへの期待などが改めて示され、盛況のうちに終了しました。
文部科学省では、中間成果報告会で頂いた意見や提案を踏まえ、本プロジェクトの一層の推進を図ってまいります。
パネルディスカッション風景
(広報誌「地震本部ニュース」平成26年(2014年)夏号)