断層の位置・形状から強震動をある程度予測できますが、地震によるリスクを評価するには過去にどれくらい発生したかも重要な情報です。
そのための基礎資料として、陸域では、新潟地域の活構造を検討するために、空中写真判読やボーリング調査を行い、堆積物の年代測定などを行いました。陸域の地殻構造調査の結果も考慮し、活断層・活褶曲における上下変位速度を明らかにしました(図1)。
図1 活構造の上下変位速度(赤数字、単位はmm/年)。
白数字は既往研究。
海域では、新潟県から山形県の沿岸域において海域音波探査と堆積物採取を実施し断層の上下変位速度を明らかにしました。
また、歴史資料などを調査することによっても、過去にどれくらい発生したかを見積もることが出来ます。現在の山形県・新潟県・長野県におけるひずみ集中帯で、近世(安土桃山時代~江戸時代)以前に発生した古地震(歴史地震)や津波などについて、歴史学・地質学・地震学に関係する記録の収集と解析を実施し、データベースを構築しました。
(図2、URL:
http://seismology.jp/eri_eqdb/)
図2 「史資料データベース」のページ。
また、近世以降明治・大正・昭和等の日本海東縁部周辺で発生した地震に関する資料を収集し、震度等を検討した解析を行い、震源域を推定しました(図3)。その結果、秋田市の沿岸と沖合部分では、最近400年間は被害地震が発生しなかったことがわかりました。
図3 近世以降の主な被害地震の震源域分布。 黄色楕円が空白域。
ひずみ集中帯がどうしてこの地域に形成されるのか、という課題については、本研究で回答が得られたわけではありませんが、メカニズム解明に役立つ成果はいくつか得られています。 まず、日本海東縁部では、図4のような調査海域を設定しマルチチャネル反射法探査と海底地震計を用いた地震波屈折法探査を行い、新潟沖から青森沖に至る海域で地殻上部の詳細な反射波断面と4測線での上部マントルにおよぶ地震波速度構造断面を得ました。その結果、ひずみ集中帯とその地殻構造との関係では以下のことがわかりました。
図4 調査海域図。実線:地震探査測線(太線:海底地震計による地震探査測線)、
★印測線:既往研究、黒線:逆断層、赤点:震源、灰色:日本海東縁ひずみ集中帯の分布。
赤太線部:島弧地殻、緑太線部:遷移地殻、青太線部:海洋地殻。
・日本海東縁の地殻構造は、主に島弧地殻、遷移地殻、海洋地殻の3つタイプに分けられること。
・日本海東縁で指摘されてきたひずみ集中帯は、
①島弧地殻領域に分布しているもの、
②遷移地殻と島弧地殻との境界に近い部分に分布しているもの、
③遷移地殻と海洋地殻との境界付近に分布しているもの、の3つのタイプに区分されること。
このように深部まで詳細に明らかになった地殻構造は、ひずみ集中帯の地震テクトニクスを明らかにする上で基本的な情報となります。
また、新潟地域で実施していたGPS観測により東北地方太平洋沖地震前後の地殻変動をとらえることができ、地殻の粘弾性的特性に関する重要な知見が得られました。
新潟地域以外のひずみ集中帯の地域についてもひずみ集中メカニズムの解明に役立つ知見を得ました。
たとえば、東北地方では、ひずみが集中している領域が、脊梁山地と宮城県北部と日本海沿岸の3箇所にあります。脊梁山地と宮城県北部については、下部地殻から上部マントルにかけて、地震波の伝わる速さが遅い領域が広がっておりこのような領域は、岩石が柔らかいために、東西から押されると変形しやすく、そのためにひずみが集中している、と考える「下部地殻軟化モデル」(図5)で説明できます。そこで、日本海沿岸にある庄内平野周辺に高密度の臨時地震観測網を展開して、このモデルが日本海沿岸でも成立するかどうかを調べ、その結果、この地域でも「下部地殻軟化モデル」で説明できることがわかりました。
これ以外にも、北海道地方、中部地方、近畿地方、九州地方などで、ひずみが集中している地域や火山の調査結果を見てみると、地殻またはマントル最上部の流体がひずみ集中帯の形成に重要な役割を果たしている可能性があることがわかりました。今後もこの流体に注目してゆくことが重要と思われます。
図5 東北地方脊梁山地のひずみ集中帯を説明する
本研究では、陸域では新潟地域を中心に、地殻構造などを明らかにしてきました。今後は、ひずみ集中帯の他の地域の構造を明らかにする必要があります。
(詳しくは、「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」年度成果報告書または総括成果報告書をご覧下さい。これらの報告書は、「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究」紹介ホームページ:
http://www.hizumi.bosai.go.jp/でご覧になれます。図はこれらの報告書より引用しました。)
(広報誌「地震本部ニュース」平成25年(2013年)7月号)