東北地方太平洋沖地震による東日本大震災では未曾有の大被害がもたらされました。震源から離れた首都圏においても長周期の揺れが長く続き、湾岸域における液状化の発生、高層ビル等での什器類の転倒とエレベータ停止、ライフラインの長期間停止等により、事業や生活の継続に支障がきたされ、大都市の脆弱性が浮き彫りにされました。首都直下地震や将来発生の可能性が高いとされる東海・東南海・南海地震などの際には、大都市圏は今回以上の強震動に見舞われることが確実視されており、来るべき大地震に備えて適切な予防策を講じることが必須であることも明らかになりました。
東日本大震災の教訓を踏まえれば、都市機能の観点からは、「想定を上回る地震動に対する対処」と「事業や生活の継続と速やかな回復」が不可欠と言えます。これら2つの教訓に対する工学的見地からの処方箋として、「高層ビル等都市の基盤をなす施設が完全に崩壊するまでの余裕度の定量化」と「都市の基盤施設の地震直後の健全度を即時に評価し損傷を同定する仕組みの構築」が挙げられます(図1)。
文部科学省委託業務「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト(平成24年度−平成28年度)」の一環である、サブプロジェクト②「都市機能の維持・回復のための調査・研究」では、これら2つの研究課題に取組んでいます。ここでは、2013年12月に実施した「鉄骨造高層建物の崩壊までの挙動を検証したE−ディフェンス振動台実験」と、本サブプロジェクトの今後の展望について報告します。
図1 震災からの“教訓”と本サブプロジェクトの成果目標
実験目的
鉄骨造高層建物の試験体を振動台上で加振し、破壊を徐々に進行させて最終的には崩壊させる実験を行いました。この実験の目的は以下の通りです。
1) 「鉄骨造高層建物の崩壊余裕度の定量化」(建築基準法での要求以上の地震動に対して、建物の余力はどの程度あるのか)
2) 「建物健全度評価のためのモニタリングシステム開発」(被災建物が健全か否かを速やかに判断するには、どのような方策が有効であるか)実験方法
1980~90年頃に設計施工された鉄骨造18層建物(1×3スパン)を想定し、その1/3サイズの試験体を製作しました(平面5×6m, 高さ25.3m, 重量420t)。振動台実験での試験体としては世界最大規模になります。この試験体を実大三次元震動破壊実験施設(E−ディフェンス)において「南海トラフ三連動地震動」を想定した作成波(基準波)をベースに加振を行いました。基準波は大都市圏における南海トラフ三連動地震の地震動として概ね平均的と考えられる強さの模擬地震波です(周期0.8s以上での擬似速度応答スペクトル(減衰定数5%) 110cm/s、継続時間約8分)。
はじめに、建築基準法で要求される地震動相当で加振し、試験体の基本的振動特性と設計入力での応答を確認し、さらに、三連動平均レベルの基準波、その1.64倍(三連動最大級レベルに相当)、2倍、2.3倍、…と徐々に大きくして、最終的な試験体の崩壊に至るまで実測データを収集しました。
同時に、徐々に進行する建物破壊が、新たに開発した“健全度即時評価モニタリングシステム”によって的確に検知できるかを確認することも行いました。
実験結果
現時点で得られた知見は以下の通りです。
・1980~90年頃の標準的な18階建程度の超高層ビルの場合、三大都市圏における南海トラフ地震の平均レベル(基準波)に対しては、構造上ほぼ継続使用可能な状態に留まる。
・南海トラフ地震の最大級レベルを超える地震動(基準波の2倍)でも、一部梁端の破断は生じるものの、倒壊までには十分な余裕がある。
・基準波の3.1倍の地震動に対しては、梁端の破断や柱の局部的な座屈が生じ、構造的な安全性の限界に近い状態になる。さらに基準波の3.8倍で完全な崩壊に至る(写真1)。
写真1 最終崩壊形
また、モニタリングシステムにより、最終倒壊までの各種計測データを収集することができ、層の塑性化状況や部材の損傷状況を把握するためのシステム構築に関する貴重なデータが得られました。今後、詳細な検討により、多くの新知見が得られ、超高層ビルの設計や地震動に対する安全性の評価に大いに役立つことが将来期待されます。
尚、実験結果の速報と実験時の動画の一部はhttp://www.toshikino.dpri.kyoto-u.ac.jp/
にて公開しております。
図2に研究フローを示します。冒頭の2つの研究課題のために、来年度以降も、RC造建物の崩壊余裕度定量化、モニタリング(地盤)、モニタリング(連成システム)の振動台実験を予定しています。また、サブプロジェクト①で展開する首都直下地震観測網(MeSO-net )を有効利用するべく建物系での地震観測をリンクし、観測記録との照査により連成系応答評価法の高度化を目指しています。
図2 研究フロー
京都大学工学部建築学科卒業、米国リーハイ大学大学院土木工学研究科修了、Ph.D./建設省建築研究所、神戸大学を経て、2000年から京都大学防災研究所教授/日本建築学会副会長、世界地震工学会議筆頭副会長他を歴任
(広報誌「地震本部ニュース」平成26年(2014年)3月号)