
文部科学省が、平成24年度から5年計画で「地震防災研究戦略プロジェクト」の委託事業として進めている「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」の内、サブプロジェクト1(首都直下地震の地震ハザード・リスク予測のための調査・研究)について紹介します。本サブプロジェクトでは、構造物の大規模シミュレーション数値解析に基づいて、都市の詳細な地震被害評価技術を開発して災害軽減策の検討に役立たせることを目標としています。従来の被害予測の手法では、過去の地震被害の調査に基づいて揺れの強さと建物倒壊率等の被害の程度を結び付ける経験則(損傷度曲線:フラジリティ曲線)を求めて被害を予測していました。しかし、建築物の高さや構造、築年代によって同じ揺れに対して異なる被害が発生するため、データのばらつきが大きいのが現実です。そこで、計算機の中に現実の建物の高さや構造などを考慮した都市の建物数値モデルを作り、仮想的な首都圏の建物を揺らして被害を評価する新しい手法を開発することにしました。そのためには、大地震とそれによる地震動を科学的に予測する必要もあります。
東北地方太平洋沖地震の発生後、日本列島の力のバランスは大きく変化し、各地で地震活動が活発になりました。首都圏もその一つです(図2)。東北地方太平洋沖地震の関東の地震活動への影響を定量的に調べるには、地震観測・地下構造探査に基づく弾性体のモデルと、現実的なレオロジーモデルに基づく粘弾性モデルを作る必要があります。このモデル化には岩石学的な考察も必要です。最終的には、MeSO-netで観測された地震活動を再現できる弾性・粘弾性モデルを開発します。
図1.MeSO-netで観測された2011年東北地方太平洋沖地震の揺れ。
計測震度相当値をカラーで示した。6+:茨城南部・北部、
6-:茨城県中部、千葉県北西部、埼玉県南部、5+:東京都中部、
千葉県北東部・南部、埼玉県北部、神奈川県道部

図2 関東地方の地震活動の変化。棒グラフは地震数。線は積算数。
図3.1600年以降1703年元禄地震までに関東及びその周辺で発生した顕著地震。
この17の地震を歴史文献学的に精査している。
図4.MeSO-netのデータによって明らかにされた関東の下のQpの分布。
(a) 深さ30kmのQp分布の平面図、 (b) (a)図のA-B断面のQp分布。
千葉県西部に低速度、高減衰域がある。
そのために、地震動・地震応答の大規模数値解析手法を開発し、さらに、その大規模数値解析結果の先端可視化技術を開発しています。例えば、首都圏の約100万棟の建物の数値モデルを地図データ等から自動的に作り出す技術や、それらの建物が揺れる様子を可視化技術する技術が必要です。100万棟規模の首都圏スケールから一棟一棟のスケールまで(マルチスケール)、自由な角度からの視線で見ること(3次元視)ができる技術が開発されつつあります。
図5.地下から伝播する地震波が都市の建物を揺らす大規模シミュレーションの概念図
国立大学法人東京大学地震研究所・教授
1978年東京大学理学部地球物理学科卒。1982年同大学大学院地球物理学博士課程退学。理学博士。
同大学理学部助手、カリフォルニア大学ロサンゼルス校研究員、千葉大学理学部助教授、東京大学地震研究所助教授を経て、1998年より現職。前地震研究所長。科学技術・学術審議会委員。
(広報誌「地震本部ニュース」平成26年(2014年)2月号)