文部科学省では、地震防災研究戦略プロジェクトの委託事業として、平成24年度から5年計画で「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」を推進しています。
ここでは、本プロジェクトについて5回のシリーズで紹介します。
我が国の観測史上最大のマグニチュード(M)9を記録した東北地方太平洋沖地震は、広範囲にわたる大きな揺れ、大津波をもたらし、大規模な津波災害と原子力発電所の事故をはじめとする未曾有の広域複合災害を引き起こしました。この地震は、長時間にわたる長周期地震動やM7を超える大余震が広域で繰り返し発生する等、これまでとは異なる地震像と新たな地震災害像を示しました。そして、今回の東日本大震災では、従来の防災や安全に対する考え方を見直す必要性も指摘されています。
首都圏においては、広域の液状化、多数の帰宅困難者、交通機関の麻痺、事業活動の停止、電力やライフラインの途絶、等々、都市特有の多くの課題が顕在化し、今後の大地震に対する備えの重要性が改めて認識されました。
多くの機能が集中・高度化し、社会経済活動の中枢であり、我が国の頭脳となっている首都圏は、災害に対する脆弱性を内在しており、予期せぬ大災害へ拡大するおそれのあることも否めません。また、東北地方太平洋沖地震以降、南関東全体の地震活動は活発な状態になり、余震活動や誘発される地震等について警戒が必要な状況が続いています。
このような中、首都圏をはじめとする都市の大地震に対する事前の検証と対策を施しておくことは、これまでにも増して重要かつ喫緊の課題となっています。
そこで、東日本大震災を教訓として、今後予想される首都直下地震や、東海・東南海・南海地震等に対して、都市の災害を可能な限り軽減することを目的に、新たな5カ年間の研究開発プロジェクトとして、「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」を実施することとしました。
本プロジェクトは、①首都直下地震の地震ハザード・リスク予測のための調査・研究、②都市機能の維持・回復のための調査・研究、③都市災害における災害対応能力の向上方策に関する調査・研究の3つのサブプロジェクトから構成されています。
各サブプロジェクトの委託先の下で複数の大学・独立行政法人・企業の研究機関が参加しています。また、プロジェクト全体を管理するために、統括委員会を設けています。
首都圏地震観測網(MeSO-net)による地震観測を継続し、首都圏のより正確な地下構造、地震動(揺れ)、地震像(場所、規模、頻度)の解明を進めるとともに、都市の地震災害の姿を予測するための地震被害評価技術の開発を進めています。
2012年11月24日に千葉県西部の深さ約72kmで発生したM4.8の地震(赤星印)の
ときにMeSO-netで観測された波形で計算した計測震度相当値。
(東京大学地震研究所 提供)
地震被害評価における先端可視化技術のイメージ図
(東京工業大学都市地震工学センター 提供)
実大三次元震動破壊実験施設(E−ディフェンス)を効果的に活用し、都市機能の維持・回復に資するため、「高層ビル等の都市の基盤をなす施設が完全に崩壊するまでの余裕度の定量化」と「都市の基盤施設の地震直後の健全度を即時に評価し損傷を同定する仕組みの構築」に関する研究を進めています。
鉄骨造の崩壊余裕度振動台実験による崩壊
(倒壊して防護フレームに寄りかかっている。)
(京都大学防災研究所 提供)
建物の健全度評価のためのモニタリングシステム
(京都大学防災研究所 提供)
高い災害回復力を持つ社会の実現に寄与するため、円滑な応急・復旧対応を支援する災害情報提供手法の開発及び防災に関する問題解決能力(防災リテラシー)の育成方策に関する研究を進めています。
都市地震防災ジオポータルのトップページ
(京都大学防災研究所 提供)
新宿駅西口地域の訓練 防災センターによる被災状況把握
(工学院大学 提供)
サブプロジェクト相互の協力・連携を図り、研究成果の社会還元の推進に努めます。例えば、サブプロジェクト1で開発する都市の地震被害評価技術は、サブプロジェクト2と連携し、地盤−基礎−建物系の地震動計測データの収集・蓄積を行い、個別建物シミュレーションの高度化を図るとともに、サブプロジェクト3に成果を渡し、災害対策能力の向上方策に役立てます。
(広報誌「地震本部ニュース」平成26年(2014年)1月号)