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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 首都直下プロ3震災時における建物の機能保持に関する研究開発
 

 被災後の政治、経済、医療、情報発信等の社会活動の停止は、被害の拡大やその後の復興にも多大な影響を与えるため、これら都市施設・機能を災害後も継続させることも不可欠な課題であり、また最近では官公庁および民間機関において災害時等に備えたBCP(事業継続計画)の策定なども注目されています。
 防災科学技術研究所では、「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト」の一環として、大地震時の重要施設の機能保持の研究を進めることとし、特に救急救命、被災後の生命維持の拠点となる医療施設の機能保持性能向上を目的として、E −ディフェンスを用いた世界で初めての実大医療施設の震動実験を実施しました

 医療施設を模擬した鉄筋コンクリート造4階建ての試験体(写真1)(高さ約18m、各階床面積80㎡(8m×10m))を建設し、診察室、人工透析室、手術室、病室などを配置しました。室内には、人工透析装置、手術用機器、医療棚などの医療機器を、床・壁固定、床置き、キャスター付き機器についてはロックまたはフリー等、それぞれの通常の使用状況にあわせた方法で設置しました。

 構造形式として、建物を震動台に直接固定する“耐震構造”に加え、免震装置を介して建物を支持する“免震構造”の2つの形式を採用しました。
 入力地震動として、直下地震で観測された短周期地震動(JMA神戸波など)と海溝型地震で想定される長周期地震動(三の丸波)を用いました。

 耐震構造における長周期地震動の加振では、構造被害はほとんどなく、室内ではキャスターをロックしていない機器が50~80cm移動した程度の被害でした。一方、短周期地震動の加振では、構造には致命的な損傷は確認されませんでしたが、室内では、床や壁に金物等で固定されていない重量機器(CTスキャナ撮影部、手術台等)を含め、ほとんどの機器の移動、棚内に納められていた医薬品等の散乱、機器の転倒・落下等の被害が確認されました(写真2)。このような状況下では、高度な医療行為は当然のことながら通常の医療行為ですら即座に実施することは困難であると推測されます。

 免震構造における短周期地震動の加振では、高い免震効果が発揮され、構造を含め医療機能に大きく影響する被害は確認されませんでした。しかし、長周期地震動の加振では、免震構造でありながら、長周期地震動と免震構造の共振により最大応答加速度の増幅が確認されました。構造被害はほとんど見られませんでしたが、室内では、キャスターをフリーにした機器が走り回る状況が見られ、最大で3m以上移動した機器、移動中に転倒した機器もありました。また、移動した機器の手術室等の壁ボードへの衝突により発生した陥没は医療機能の継続を妨げる被害でした(写真3)。免震構造であるから大丈夫という過信が危険であることを印象づける結果でした。

 前項の実験結果をうけ、地震時における医療施設の様々な被害を軽減させるための対策を検討しました。機器類の確実な固定が最も有効な方法と考えられますが、医療現場において恒久的な機器類の固定は現実的でないとも考えられるので、使用状況も考慮し地震対策を検討しました。それらの対策を施した試験体による震動台実験を再度実施し、地震対策の効果と限界について確認しました。
 免震構造の場合、地震対策を適切に施すことにより、キャスター機器の大きな移動により発生した被害を軽減させられることが確認でき、極めて稀に発生する短周期地震動および長周期地震動においても、施設の機能は十分保持されることが確認できました(写真4(a))。
 一方、耐震構造に関しては、床応答加速度が600cm/s2 程度までであれば、地震対策を施すことにより、機器の移動、転倒、物品の散乱等はほとんどみられず、災害後の医療活動に支障がないことが確認されました。しかし、床応答加速度が1Gを超える階では、地震対策を施しても対策治じ具ぐの破損などにより機器の移動、物品の散乱等がみられ(写真4(b))、今回検討した地震対策の限界が明らかとなりました。

 地震対策を施していない耐震構造の医療施設が大地震に襲われた時、医療機器の移動や転倒、物品の散乱が発生し、医療機能を著しく低下させることが明らかになりました。また、地震対策を施していない免震構造の医療施設では、短周期地震動に対してはほぼ問題ないが、長周期地震動に遭遇した時、キャスターフリーの医療機器の移動により引き起こされる被害が顕著となり、医療機能が低下する深刻な被害が確認されました。
 一方、医療機器等に適切な地震対策を施した免震構造であれば、地震後においても十分医療機能を保持できるものと考えられます。また、地震対策を施した耐震構造では、稀に発生する地震動に対しては、医療機能に大きな問題となる被害は発生しませんでしたが、極めて稀に発生する地震動に対して機能を健全かつほぼ無損傷に保つためには、まだ多くの課題があるものと思われます。
 最後に、本研究で得られた成果は、「病院スタッフのための地震対策ハンドブック −あなたの病院機能を守るための身近な対策−」および地震対策啓発用映像として広く公表しています。
(独)防災科学技術研究所HP
 http://www.bosai.go.jp/hyogo/syuto-pj/index.html

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