消防研究センターの前身である消防研究所は、昭和23年に国家消防庁の内局として設置され、その後自治省消防庁の施設等機関となり、平成13年に独立行政法人に移行しました。平成18年からは再び総務省消防庁の施設等機関として、消防の科学技術に関する研究・調査等を行っています。現在の研究官の定員は26人と大変小さな組織ですが、私たちの研究領域・対象は、火災・燃焼の物理化学、消火、都市・建築物の防火安全、物質の火災危険性の評価、石油タンク等危険物施設の防火・耐震安全、火災・地震等の事故・災害発生時の消防防災活動、救急・救助など、非常に幅広い範囲にわたっています。また、これらの研究・調査に加えて、消防法の規定による火災・危険物流出事故の原因の調査や、事故・災害発生時の消防活動に対する技術的支援も行っています。ここでは、消防研究センターにおける地震防災に関する研究開発の一端として、石油タンクのための長周期地震動予測の研究と石油コンビナート地域における強震観測に関する取組を紹介します。
石油タンクなどの危険物施設の耐震基準は消防法令に基づく技術基準で定められており、その中で大型石油タンクの耐震安全性照査用の長周期地震動のレベル(液面揺動の設計水平震度)が規定されています。平成15年十勝沖地震の際、北海道苫小牧市では、当時の技術基準で定められていたレベルを大きく上回る長周期地震動が観測され、市内の大型石油タンクでは大きなスロッシング(液面揺動)が発生して、火災・浮き屋根沈没等の甚大な被害が発生しました。これを受けて、平成17年に技術基準が強化され、液面揺動の設計水平震度が引き上げられました。その際、消防研究センターにおける長周期地震動予測の研究成果が採用されました。 消防研究センターでは、長周期地震動予測の研究にK−NET等の全国稠ちゅう密みつ強震観測網が整備される以前からいち早く取り組んでいました。消防研究センターでは、約40年という長い期間にわたってデータの蓄積がある気象庁1倍強震計記録等を独自に数値化して分析し、各地の長周期地震動の増幅特性を周期別に調べ、その結果に基づいて、震央地とマグニチュードを与えることにより将来の大地震発生時の長周期地震動のレベル(スペクトル)を経験的に予測する方法を開発していました(図1)。この予測結果等に基づき、平成17年の技術基準改正では、それまで全国一律で周期と無関係に定められていた液面揺動の設計水平震度が、地域と周期による長周期地震動の増幅特性の違いを考慮して引き上げられることになりました。 このように、消防研究センターの研究成果は「ルール・メイク」に活用されています。
平成15年十勝沖地震後の取組として、消防研究センターでは、石油コンビナート地域(石油コンビナート等特別防災区域)で強震観測を行っています。これは、石油コンビナート地域には基本的には強震観測点がなく、平成17年の技術基準改正において、将来の大地震で特に大きな長周期地震動が予測される地域として長周期地震動に係る設計水平震度が引き上げられた石油コンビナート地域については、詳細な長周期地震動特性の把握が必要であるとして開始された取組です。現在、20の石油コンビナート地域に23台の強震計を設置して観測を行っています。
消防研究センターでは、石油コンビナート地域における強震観測を、地震時応急対応にも活用できるよう、独立行政法人防災科学技術研究所との共同研究により、「石油コンビナート等特別防災区域地震動観測情報システム」(図2)の開発に取り組んでいます。このシステムは、地震後すみやかに石油コンビナート地域の揺れの情報を収集・処理し、どの石油コンビナート地域の震度・長周期地震動レベルが大きいかをわかりやすく表示するものです。現在、全国に石油コンビナート地域は85ありますが、消防研究センターが強震計を設置していない65の石油コンビナート地域については、直近のK−NET観測点の強震記録を利用して全国の石油コンビナート地域をカバーするようにしています。消防庁では、大地震発生時に全職員が参集して被害情報等の収集や緊急消防援助隊の派遣に関する任務にあたりますが、このような場面においてこのシステムを活用すれば、どの石油コンビナート地域を優先して情報収集すべきかを判断できるなど、迅速・的確な情報収集活動にとって役立ちます。また、収集された揺れの情報はスロッシング高さなど石油タンクの被害の推定に利用することが考えられ、消防研究センターではそのための研究開発も行っています。このシステムは、石油コンビナート地域を所管する各地の消防防災機関にも活用してもらえるようにしたいと考えています。
以上、消防研究センターにおける地震防災研究について、危険物施設に関するものを紹介しました。これ以外にも、消防研究センターでは、地震時の火災、地震被害想定、石油タンクの津波被害、津波浸水域における消防活動等、東日本大震災で浮き彫りとなった消防における地震防災上のさまざまな課題に取り組んでいます。消防研究センターにおける最近の研究開発成果については、平成23年版消防白書や平成24年版消防白書をご覧ください。消防白書は消防庁のホームページでご覧いただけます。
(広報誌「地震本部ニュース」平成25年(2013年)2月号)