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(広報誌「地震本部ニュース」令和5年(2023年)夏号)
今年2023年は、大正関東地震(関東大震災)からちょうど100年になります。今回の地震本部ニュースでは、大正関東地震について振り返るとともに、南関東で次に起きる大地震はどのように予測されているのかということについて紹介します。そしてこの記事を、地震への備えの再確認に役立てていただければと思います。
大正関東地震は、1923年9月1日に発生したマグニチュード(M)7.9 の大地震です。震源域は相模湾~神奈川県全域~房総半島南部の広い範囲に広がっており、フィリピン海プレートと陸のプレートの境界で発生したと考えられています。この地震による災害が「関東大震災」と呼ばれています。大正関東地震では、関東地方の南部を中心として広範囲に強い揺れを生じ、当時の震度階級で震度6が観測されました(図1)。当時の震度階級は6までしかありませんでしたが、近年の研究によると、家屋の倒壊状況などから相模湾沿岸の地域や房総半島南端付近では、現在の震度7相当の揺れであったと推定されています。各地で家屋の倒壊、山崩れ、崖崩れなどが生じたほか、沿岸部を津波が襲いました。津波の高さは静岡県の熱海で12m、房総半島の相浜(館山市)で9.3mとなり、震源域に近い熱海では地震発生後約5分で津波が到達しました。
また、地震後に発生した火災が被害を大きくし、当時の東京府、神奈川県を中心として、死者・行方不明者合わせて約10万5千名などの被害が生じました。このうち、火災による死者は約9万2千名と推定されています。
大正関東地震を契機にして、地震学や震災予防の研究を進めるため、1925年に東京帝国大学(現在の東京大学)に地震研究所が設立されたほか、大正関東地震(関東大震災)が発生した9月1日は、現在「防災の日」とされていて、全国各地で防災訓練などが行われています。
南関東で次に起こる大地震はどのように予測されているのでしょうか。地震調査研究推進本部では、海溝型地震や活断層で発生する地震について、過去の地震の発生履歴などを基に将来の地震の発生確率を予測する「長期評価」を実施しており、この地域においては「相模トラフ沿いの地震活動の長期評価」「関東地域の活断層の長期評価」としてまとめています。今回の地震本部ニュースでは、大正関東地震のようなプレート境界で発生する地震についても評価を行っている「相模トラフ沿いの地震活動の長期評価」について、その主な内容を紹介します。
「相模トラフ沿いの地震活動の長期評価」では、(1)フィリピン海プレートと陸のプレートの境界付近で発生するM8クラスの地震と、(2)南関東地域の直下でプレートの沈み込みに伴い発生するM7程度の地震の2つのパターンの地震について、長期的な視点で地震の発生の可能性について評価をしています。
関東地方南方の海域では、日本列島が位置する陸のプレートの下に、南方からフィリピン海プレートが沈み込んでいて、海底に相模トラフという溝状の地形を形成しています(図2)。そして、このプレートの沈み込みに伴ってひずみが蓄積されていて、ひずみがある程度までたまると、陸側のプレートが跳ね返り、大地震を起こします。相模トラフ沿いにおけるこのような地震の直近の事例が、1923年の大正関東地震(M7.9)(図3 左側の黄色★)です。また、その一つ前の相模トラフ沿いにおけるプレート境界で発生した大地震は、歴史資料の分析などにより、1703年に発生した元禄関東地震(M8.2)(図3 中央下の黄色★)と考えられています。しかし、それ以前については、関東地方で被害を伴った地震があったという歴史資料はいくつかあるものの、相模トラフ沿いのプレート境界地震の発生履歴ははっきりとは分かっていません。一方、地震に伴う地殻変動によって房総半島に特徴的な地形が形成されていることなどから、相模トラフ沿いのプレート境界でM8クラスの地震が繰り返し発生していること自体は確実であると考えられています。
地震調査研究推進本部では、1923年の大正関東地震や1703年の元禄関東地震といった大地震の発生履歴や、その他の歴史記録、地形・地質データなどから、次に発生する相模トラフ沿いのM8クラスのプレート境界地震の今後30年以内の発生確率を、ほぼ0%~6%と評価しています。
南関東地域直下では、南側から沈み込むフィリピン海プレートの下に、東側の日本海溝から太平洋プレートが沈み込んでいて、非常に複雑な地下構造をしています。そのため、地震の発生様式も多様(図4)で、「相模トラフ沿いの地震活動の長期評価」の「プレートの沈み込みに伴い発生するM7程度の地震」では、図4の②~⑤で発生する地震を一括に取り扱っています。(①の活断層等で発生する浅い地震は「関東地域の活断層の長期評価」で取り扱っているため、「相模トラフ沿いの地震活動の長期評価」では評価対象外。②のうち、M8クラスの地震は(1)を参照)
また、地震の発生場所も様々であるため、(1)のM8クラスの地震のように、同じ場所で繰り返し発生する地震として扱うことは困難です。そのため、震源の場所は特定せず、図3に示した太赤線で囲む領域内のどこかで地震が発生するものとして、次に発生する地震を評価しました。この地域で次に発生する地震を評価する上で、発生履歴のデータとして使った過去の地震は、元禄関東地震以降の9個のM7クラスの地震(図3 青●)です。このうち、元禄関東地震から大正関東地震までの220年間に8回発生していることから、地震調査研究推進本部では、この地域でM7程度の地震が今後30年以内に発生する確率を、70%程度と評価しています。
地震調査研究推進本部では、「私の住んでいる場所が震度6弱以上の揺れに見舞われる確率はどの程度なのか」が分かる、全国地震動予測地図を公表しています。また、防災科学技術研究所が運営する地震ハザードステーション「J-SHIS」(https://www.j-shis.bosai.go.jp/)では、全国地震動予測地図や、そのより詳細な情報をウェブブラウザ上で確認することができます。
図5は相模トラフ沿いの地域において最大クラスのプレート境界型地震(M8.6)が発生した場合の想定震度です。また、図6はその一部領域を震源とするM8クラスの地震が発生した場合の想定震度です。このように、いくつかの想定パターンの震源域とその時の想定震度を調べることができます。これらは、ウェブサイト上部の「条件付き超過確率」のタブから利用することができます。
しかしながら、関東南部に強い地震動を与える地震は相模トラフ沿いの地震だけではありません。活断層の地震もあれば、南海トラフ地震や、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)のような日本海溝沿いで発生する地震でも、その規模が大きければ関東南部にも強い揺れを生じ、被害が発生する可能性があります。このような様々な地震を考慮した上で、「30年以内に私の住んでいる場所が震度6弱以上の揺れに見舞われる確率はどの程度なのか」というものを示した地図もJ-SHISで表示できます(図7)。この地図はウェブサイト上部の「確率論的地震動予測地図」から表示することができます。地図は自由に拡大・縮小して表示することができるほか、「震度6強以上の確率」「震度5強以上の確率」なども表示することができます。
このほか、J-SHISでは、活断層の位置やその活断層が地震を起こす確率なども表示することができます。
地震はいつどこで発生するか分かりません。J-SHISなどを活用して、地震の発生確率や大きな揺れに見舞われる確率、活断層の位置などを調べていただき、地震に対する意識と備えを再確認していただければと思います。
(広報誌「地震本部ニュース」令和5年(2023年)夏号)
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