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  3. 海溝型地震と海域活断層の長期評価を公表しました

(広報誌「地震本部ニュース」令和4年(2022年)夏号)

 地震調査研究推進本部の下に設置されている地震調査委員会では、防災対策の基礎となる情報を提供するため、活断層で発生する地震や海溝型地震を対象に、将来発生すると想定される地震の場所、規模、発生確率について評価を行い、「長期評価」として公表しています。

 令和4年3月25日に、最新の知見を踏まえ改訂した「日向灘及び南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価(第二版)」、及び海域を対象とした活断層の長期評価としては初めてとなる「日本海南西部の海域活断層の長期評価(第一版)」を公表しました。

 日本は世界的に見ても非常に地震の多い国であり、日本国内では、地震の発生確率がゼロとなる地域は存在しません。地震はどこでも発生するということを念頭に置き、これらの評価を自治体等の防災対策や、各家庭での防災意識の向上に役立てていただければ幸いです。

 海溝型地震とは、2枚のプレート間のずれによって発生するプレート間地震と、沈み込む側のプレート内部で発生するプレート内地震を指します(図1)。日向灘及び南西諸島海溝周辺では、日本列島が位置する上盤側(陸側)のプレートの下方に、フィリピン海プレートが南東方向から沈み込んでいます。2つのプレートの境界やプレートの内部では、蓄積されたひずみを解放するために大きな地震が高い頻度で発生しています。これまでに得られた新しい調査観測・研究の成果を取り入れ、2004年公表の長期評価を改訂しました。今回の改訂では、不確実性を含む情報であっても、誤差等を検討した上で、評価に活用しました。また、現在の科学的知見の範囲で、発生し得る地震を評価しました。

 今回の評価では、プレート間地震(フィリピン海プレートと陸のプレートの境界で発生する地震)とプレート内地震(フィリピン海プレート内部で発生する地震)を評価対象としました。評価の対象とする領域は、評価する地震の発生様式(プレート間地震、プレート内地震)に応じて、図2のように設定しました。

 前述の地震について、日向灘及び南西諸島海溝周辺で発生し得る地震の規模とその発生確率を評価しました(表1)。「日向灘のひとまわり小さい地震(M7.0~7.5程度)」、「安芸灘~伊予灘~豊後水道の沈み込んだプレート内のやや深い地震(M6.7~7.4程度)」、「与那国島周辺のひとまわり小さい地震(M7.0~7.5程度)」、「南西諸島北西沖の沈み込んだプレート内のやや深い地震(M7.0~7.5程度)」は、いずれも「Ⅲランク(※)」と評価されています。なお、日向灘の巨大地震(M8程度)は、過去に発生したことは知られていませんが、1662年の地震(M7.6)は巨大地震であった可能性があります。先島諸島では、1771年八重山地震津波をはじめ過去に大きな津波が来襲したことが明らかになっています。それらの津波の原因となった地震像は解明されていませんが、津波が過去に複数回発生していた可能性を踏まえて、1771年八重山地震津波タイプについては、次の地震の規模をMt8.5程度と評価しています。

※地震の今後30年以内の地震発生確率が26%以上を「Ⅲランク」、3〜26%未満を「Ⅱランク」、3%未満を「Ⅰランク」、不明(過去の地震のデータが少ないため、確率の評価が困難)を「Ⅹランク」と表記。

 地震調査研究推進本部(地震本部)では、社会的・経済的に大きな影響を与えると考えられる、主要な活断層で発生する地震や海溝型地震を対象に、地震発生可能性の長期評価を実施してきました。一方、海域にも活断層が存在していることが知られており、これらが活動した場合にも地震動や津波により被害を及ぼす可能性があります。

 そのため、今回、陸域への地震動や津波による被害の可能性も踏まえ、M7.0以上の地震を引き起こす可能性のある断層長さ20km程度以上の海域活断層について評価を行い、対象とする海域ごとに地震発生可能性を評価する、「海域活断層の長期評価」を実施しました。評価を行う海域として、これまで長期評価が未実施の海域であり、かつ文部科学省の委託事業などで最新の研究成果が得られている日本海南西部(鳥取県~長崎県の北方沖)を評価対象海域としました。

 海域においては一般に陸域の活断層と同等のデータを得ることが難しいため、本評価では、主に反射法地震探査データを用いました。限られた情報に基づいて評価を行う必要があったため、陸域の活断層評価とは異なる新たな評価手法も取り入れています。

 日本海南西部は、他の日本列島周辺海域と比べれば地震活動度は低調ですが、過去には1700年対馬東水道の地震(M7.0程度)や1872年浜田地震(M7.1)、2005年福岡県西方沖の地震(M7.0)が発生しています。

 当該海域で実施された反射法地震探査データなどを基に、断層の位置や形状等を推定した結果、長さ20km以上の海域活断層が計37断層認定されました。それらについては、評価対象海域の東部、中部、西部にそれぞれ11断層、17断層、9断層が分布しています(図3)。東部、中部、西部で最長の海域活断層は、伯耆沖断層帯(94km程度)、須佐沖断層帯(49km程度)、第1五島堆断層帯(73km程度)で、それぞれM7.7~8.1程度、M7.7程度、M7.9程度の地震が発生する可能性があります。

 将来の活動の可能性については、反射断面から読みとった基準面の変位量のほか、評価対象海域で発生した地震の発震機構から推定したすべりの方向を用いて平均変位速度を推定し、個々の断層の平均活動間隔を算出しています。このように評価対象海域内を代表すると考えられる推定値を用いることで、個別の断層に特化した評価が困難な海域においても、地域単位での地震の発生確率を評価できます。

 評価対象海域に分布する活断層のいずれかを震源として、今後30年以内にM7.0以上の地震が発生する確率は、東部、中部、西部でそれぞれ3~7%程度、3~6%程度、1~3%程度、日本海南西部全体では、8~13%程度と評価しました(図4)。

 これまで公表してきた陸域の地域(九州北部7~13%程度、中国西部14~20%程度、中国北部40%程度、ただしこれらはM6.8以上の地震発生確率)と比べると相対的に小さく、一見安全のように思えるかもしれません。しかし、例えば火災で罹災する確率(0.9%程度)などと比べれば、決して無視できる確率ではないことが分かります。そして、そのような地震が一度発生すれば、海域周辺の広い範囲が、強い揺れだけでなく高い津波に見舞われる可能性があることから、決して安全であることを意味するものではありません。地域住民の方は、近隣の陸域の活断層で発生する地震だけでなく、周辺の海域で発生する地震についても、同時に想定し注意する必要があります。

 今回の海域活断層の長期評価では、これまで評価が難しかった海域の活断層について、主に海域の反射法地震探査データを活用し、日本海南西部の海域活断層で発生する地震の発生可能性について評価を行いました。ただし、評価に必要なデータは必ずしも十分ではなく、個別の活断層の評価に大きな誤差を含んでいる可能性や、浅い海域等に認定できていない活断層が存在する可能性もあります。このような課題があることも踏まえつつ、地域住民の皆さんには、海溝型地震や陸域の活断層による地震だけではなく、海域活断層の存在とそれらの活動によって引き起こされる災害のリスクを改めて認識し、地震は日本のどこでも発生し得ることを前提に、防災意識の向上や地震災害への備えをしてもらいたいと思います。

 今回公表した評価は、海域を対象とした活断層の長期評価としては初めてとなります。地震本部では、今後も海域活断層の長期評価を順次進めていきます。

(広報誌「地震本部ニュース」令和4年(2022年)夏号)

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