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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 地震計を使った社会活動のモニタリング

(広報誌「地震本部ニュース」令和4年(2022年)春号)

 地震計で観測される振動は地震動だけではなく、私たちには感じられないほど小さな振動(雑微動)が常に存在しています。特に1秒間に1回以上振動するような雑微動には、交通振動や工場など人々の様々な社会活動によって生じる振動が多く含まれています。そのため、平日の振動に比べて休日の振動が小さいことや、人が活動する日中に振動が大きくなることなど、私たちの生活に連動した振動の変動が観測されています。新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、ロックダウン等の行動制限が布かれると、これに伴って世界各国で振動レベルの減少が観測されました(Lecocq et al., 2020)。日本では、行動制限などの厳しい処置は行われませんでしたが、移動や活動の自粛を求める緊急事態宣言が発令され、これに伴って振動レベルの減少が観測されました(Yabe et al., 2020)。このような観測事例は、地震観測データから私たちの社会活動を観測できる可能性を示唆しており、地震計の新たな活用への発展が期待できます。本稿では、振動レベルの変化を時間帯・曜日別に計算し季節変動を除去することで、コロナ禍の社会活動の変化を調べた研究について紹介します。

 本研究では、首都圏地震観測網(MeSO-net; 防災科学技術研究所、2021)の常時地震観測データを使用しました(図1)。振動レベルは20-45Hzの振動を用いて計算しており、見たい時間帯に対して、10分毎に計算したパワースペクトル密度(PSD)の中央値としました。本稿では、コロナウイルス発生前の振動レベルの平均値に対する相対変化を示します。まず初めに、時間帯と曜日による振動レベルの変動の違いを調べました(図2)。

年末年始やお盆、ゴールデンウィークは年度毎に曜日や期間が異なるため、これらの期間は取り除いています。長期的な変動を見ると、コロナ禍以降時間帯や曜日による変動の違いが顕著になっていることが分かります。詳しく見てみると、一回目の緊急事態宣言では、日中の振動レベルの減少が大きく、二回目の緊急事態宣言では、日曜日の減少が大きいことが分かります。また、Go Toトラベルキャンペーン期間は振動レベルが増加傾向にあることが分かります。一方で、コロナ禍の振動レベルの落ち込みほどではないものの、年間を通して非常に大きな季節変動があることが分かります。

 コロナウイルス発生前の二年間のデータを使用して、季節変動のモデリングを行いました。季節変動は単純に使用した二年間の平均値としました。ただし、二年間の振動レベルが大きく異なるような観測点は、周期性がないものとして除去しました。図3に季節変動を除去した時間帯・曜日別のコロナ禍の振動レベルの変動を示しています。

 1回目の緊急事態宣言時(図3のオレンジ色の期間)に着目すると、平日・日曜日ともに日中の振動レベルが最も減少したことが分かります。一方で夜間はあまり変化していません。平日の日中の振動レベル(図3の青線)は、緊急事態宣言の解除に伴って回復し始めましたが、日曜日の日中の振動レベル(図3の赤線)はしばらくのあいだ低い状態が続きました。Go To トラベルキャンペーン(図3の水色の期間)が始まった10月頃には、平日・日曜日の日中・夜間ともに例年の水準まで振動レベルが回復しています。しかし、第三波の到来に伴って日曜日の振動レベルは減少傾向に転じています。夜間の活動自粛を求めた2回目の緊急事態宣言時(図3の薄赤色の期間)には平日の日中の振動レベルは減少しませんでした。また、2回目の緊急事態宣言が解除される前から平日・日曜日の日中・夜間ともに振動レベルが増加に転じている。

 このように、振動レベルの変化と実際の社会状況は関連があると考えられます。振動レベルの変化と人間活動の関連を示した研究として、振動レベルが国内総生産(GDP)と相関を示した例(Hong et al., 2020)や、振動レベルをコロナ禍の人の密集度を調べる指標として活用した例(Dias et al., 2020)などがあります。本研究では、平日の振動レベルの変動は主に経済活動を、日曜日の振動レベルの変動は主に余暇活動を反映していると仮定し、得られた振動レベルの変動を次のように解釈しました。

 平日の日中の経済活動は1回目の緊急事態宣言の解除後、直ちに回復しました。これに対して、日曜日の日中における余暇活動の回復が緩やかなのは、緊急事態宣言が解除された後も、多くの人が活動の自粛を続けたためだと考えられます。Go Toトラベルキャンペーン期間中における日曜日の振動レベルの減少は、多くの国民が感染者数などの情報に注目し、自らの判断で余暇活動を自粛したことを示唆しています。一方で、2 回目の緊急事態宣言下であっても新規感染者の減少に伴って、振動レベルは増加に転じています。これは、社会の意識に変化が表れた結果であると推測できます。

 今回の研究によって、地震計に観測された人間活動由来の振動を使って、大まかな社会活動を把握できることが分かりました。一方で、地震計データには様々振動が同時に観測されるため、どのような社会活動が変化したかは分かりません。今後は実際の交通量データなどを使った振動レベル変化の定量的な評価や、特徴的な振動を検出することで特定の人間活動を把握する研究を行っていきたいです。地震計を使った交通量調査などの人間活動をモニタリングする新しい活用方法を見出すことは、地震計の普及を促進し、レジリエントな社会づくりに貢献できます。

[引用文献]

Lecocq, T. et al. Global quieting of high-frequency seismic noise due to COVID-19 pandemic lockdown measures. Science 369, 1338-1343; doi:10.1126/science.abd2438 (2020).

Yabe, S., Imanishi, K., and Nishida, K., Two-step seismic noise reduction caused by COVID-19 induced reduction in social activity in metropolitan Tokyo, Japan. Earth Planets Space, 72, 167 (2020).

防災科学技術研究所 NIED MeSO-net, National Research Institute for Earth Science and Disaster Resilience (2021), https://doi.org/10.17598/NIED.0023.

Hong, T.-K., Lee, J., Lee, G., Lee, J. & Park, S. Correlation between Ambient Seismic Noises and Economic Growth. Seismol. Res. Lett. 91, 2343-2354 (2020); https://doi.org/10.1785/0220190369.

Dias, F. L., Assumpção, M., Peixoto, P. S., Bianchi, M. B., Collaço, B., & Calhau, J. Using Seismic Noise Levels to Monitor Social Isolation: An Example From Rio de Janeiro, Brazil. Geophys. Res. Lett. 47, e2020GL088748 (2020)

(広報誌「地震本部ニュース」令和4年(2022年)春号)

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