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(広報誌「地震本部ニュース」令和4年(2022年)秋号)
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下、「産総研」という)地質調査総合センターでは、地震発生を評価する際に必要な応力の情報をまとめた日本内陸部のストレスマップを作成しました。このストレスマップは、小地震の震源メカニズム解から推定したもので、緯度・経度ともに0.2度ごと(概ね20km程度の間隔;マグニチュード7程度の地震の大きさに相当)のグリッドでできています。
地震発生に関わる要素の一つである応力は様々な方法で調べられており、世界中の応力情報はWorld Stress Mapとしてまとめられています(Heidbach et al., 2018)。日本全国のストレスマップも作られてきました(Terakawa & Matsu'ura, 2010; Yukutake et al., 2015)。今回われわれは、2011年東北地方太平洋沖地震以降の時期を含む2003年~2020年に発生した、大量の小地震の震源メカニズム解(断層面とすべりの方向に対応)を利用して、できるだけ隈なく詳しく応力を推定しました。
詳細は論文(Uchide et al., 2022)に記載しております。水平主圧縮軸方位などの情報は地殻応力場データベース
(https://gbank.gsj.jp/crstress/)でご覧いただけます。また、応力場と震源メカニズム解のデジタルデータは内出ほか(2022a)にて公開しております。
震源メカニズム解は、その地震を発生させた応力を反映しており、応力の推定に利用できます。震源メカニズム解の推定に必要なものは、震源の位置と、各地の地震計で記録されたP波が上下のいずれの方向に動き出したかを示す「P波初動極性」です。私たちは、既存のデータで学習させたニューラルネットワークモデル(Uchide, 2020)を使って、P波初動極性を読み取りました。内陸または海岸線から50km以内の20km以浅で、2003年~2020年に発生したマグニチュード0.5~3.0の地震660,332個についての合計9,348,165本の地震波形を対象に解析を行いました。
精度よく推定できた216,528個の震源メカニズム解を用いて、応力の推定を行いました。本研究では、応力の大きさや応力の等方成分に関する情報を得ることができませんが、主応力軸方向と応力比が推定できました。水平主圧縮軸方位(図1)は全体的には東西圧縮を示していますが、東北地方・関東地方の太平洋側や伊豆半島周辺などの一部地域では南北圧縮を示しています。
図1 震源メカニズム解に基づいて作成したストレスマップ。ここで、水平主圧縮軸方位の誤差が15度以内のもののみを表示しています。産総研プレスリリース「日本内陸部のストレスマップをオンライン公開」(2022年6月14日掲載; https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2022/pr20220614_2/pr20220614_2.html)の図1を改変。
得られた応力場は主要活断層を滑らせやすい方向を向いているようです。Yukutake et al. (2015)によるスリップテンデンシーの値が概ね高かったことがその根拠です(図2)。ただし、計算結果は断層面の傾斜角によって大きく変わりますので、このような評価には断層の地下における姿を明らかにすることが必要です。
今回得られたストレスマップでは、水平主応力圧縮軸方位が地質境界周辺で変化する例が見られました(図3)。九州地方では、2016年熊本地震の震源となった布田川断層・日奈久断層の辺りを境に、北側は東西圧縮、南部は北東―南西圧縮となっています。四国地方では中央構造線断層帯を、静岡周辺では糸魚川―静岡構造線を境に、それぞれ水平主圧縮軸方位が異なります。東北地方では、北上高地の南部が南北圧縮、北部が概ね東西圧縮となっており、その境界が三陸海岸におけるリアス海岸の北限に対応しているように見えます。これらの空間的な対応を作り出したメカニズムはまだわかっていません。
今回作成したストレスマップは、産総研が文部科学省から直接委託または再委託を受けた「奈良盆地東縁断層帯における重点的な調査観測」(令和元年度~令和3年度)、「連動型地震の発生予測のための活断層調査研究」(令和2年度~令和4年度)において活用されており、令和4年度より開始した「森本・富樫断層帯における重点的な調査観測」においても活用する予定です。そのほかにも、ぜひ様々な方法で地震研究やテクトニクス研究に生かしていただければと思います。
本研究では機械学習を活用することで大量のデータを処理することができました。そのような地震研究における機械学習の応用は近年急速に進んでいます。令和3年度からは、文部科学省「情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-Eプロジェクト)」により、産総研を含む5つの大学・研究機関を中心に、情報科学分野との共同研究が進行しています(地震本部ニュース令和3年秋号・冬号・令和4年春号参照)。既存の研究手法に加えて、機械学習などの情報科学の手法を取り入れることで、これまで蓄積した地震波形データや測地データを活用して地震現象の解明を進め、地震防災に資する研究成果を挙げていきたいと考えています。
本研究では、国立研究開発法人防災科学技術研究所の高感度地震観測網(Hi-net)及び気象庁の地震観測網で得られた地震波形データ、気象庁の一元化処理震源カタログを使用しました。本研究は産総研エッジランナーズの支援を受けました。本研究では産総研ABCIを利用しました。
参考文献
Heidbach, O., et al. (2018). Tectonophysics, 744, 484-498. https://doi.org/10.1016/j.tecto.2018.07.007
Terakawa, T., & Matsu'ura, M. (2010). Tectonics, 29, TC6008. https://doi.org/10.1029/2009TC002626
Uchide, T. (2020). Geophysical Journal International, 223, 1658-1671. https://doi.org/10.1093/gji/ggaa401
Uchide, T., Shiina, T., & Imanishi, K. (2022). Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 127, e2022JB024036. https://doi.org/10.1029/2022JB024036
内出崇彦・椎名高裕・今西和俊 (2022a). 地質調査総合センター研究資料集, no. 738, 産業技術総合研究所地質調査総合センター, 6p. https://www.gsj.jp/publications/pub/openfile/openfile0738.html
内出崇彦・椎名高裕・今西和俊 (2022b). IEVGニュースレター, Vol. 9, No. 3, 1-5. https://unit.aist.go.jp/ievg/katsudo/ievg_news/vol.09/vol.09_no.03.pdf
Yukutake, Y., Takeda, T., & Yoshida, A. (2015). Earth and Planetary Science Letters, 411, 188-198. https://doi.org/10.1016/j.epsl.2014.12.005
(広報誌「地震本部ニュース」令和4年(2022年)秋号)
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