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(広報誌「地震本部ニュース」令和4年(2022年)秋号)
航空機搭載合成開口レーダー(以後、「航空機SAR」と呼ぶ)は、航空機の進行方向に対して直角方向の斜め下方向の地表面に電波を照射し、散乱されて戻ってくる電波を受信して高分解能で画像化するセンサです。航空機SARは、大気の影響を受けにくい電波を使用することで、昼夜・天候に左右されることなく地表面を計測できます。今回紹介するPi-SAR X3は、2008年に開発した航空機SAR(以後、「Pi-SAR2」と呼ぶ。30cm分解能)よりも高い分解能(15cm)で地表面を観測することができます。Pi-SAR X3は、図1に示す環境・災害モニタリング分野や船舶・漂流物等の海面監視での利用が期待されています。
合成開口レーダー(以後、「SAR」と呼ぶ)は、高い空間分解能で地表面を観測するために合成開口処理とパルス圧縮処理を行っています。合成開口処理は、飛行方向の分解能を向上させる処理です。合成開口処理では、SARを搭載した飛翔体を直線飛行させて電波の送受信を連続的に行うことで得られる受信信号を合成処理することで、飛行方向の分解能を向上させます。合成開口処理による分解能は、受信信号の合成時間に反比例します。つまり、合成時間が長いほど、飛行方向の分解能を高めることができます。ただし、受信信号の合成時間の最大値は、アンテナのビーム幅の大きさに依存します。
一方、パルス圧縮処理は、飛行方向と直角方向(以後、「レンジ方向」と呼ぶ)の分解能を向上させる処理です。パルス圧縮処理では、送信する電波の周波数を線形変調させながら送信し、受信した電波を信号処理することで電力レベルの大きな単パルス波を形成することでレンジ方向の分解能を向上させます。パルス圧縮処理による分解能向上は、送受信する電波の帯域幅に比例します。つまり、帯域幅が広ければ広いほど、レンジ方向の分解能を高めることができます。
Pi-SAR X3は、レンジ方向の高分解能化のためにPi-SAR2の2倍の帯域幅(500MHz→1GHz、9.2GHz〜10.2GHz)を使用しています。帯域拡大のために、Pi-SAR X3では、新たに広帯域に対応したアンテナと送受信機を開発するとともに、広帯域化(高分解能化)に伴うデータ量の増加に対応した高速・大容量の観測データ記録装置(書き込み速度:4GB/s(Pi-SAR2の10倍)、容量:128TB(Pi-SAR2の8倍))を開発しました。Pi-SAR X3の機器は図1のような形態で航空機に搭載されています。なお、Pi-SAR X3は、機上で受信信号から画像を生成することができ、画像を確認しながら観測を行うことができます。
NICTは2021年12月にPi-SAR X3の技術実証試験を実施し、Pi-SAR X3の分解能が設計値の15cm分解能を満足していることを確認しました。図2は技術実証試験で得られた画像(石川県輪島市近郊の3km四方の画像)と赤枠内(田んぼ)の拡大図(拡大上図: 30cm分解能(Pi-SAR2相当)、拡大下図:15cm分解能)を示しています。30cm分解能の画像は、Pi-SAR X3の30cm分解能モードで観測したもので、15cm分解能の画像と時間差は約23分です。Pi-SAR X3は、Pi-SAR2で計測することが困難であった田んぼ内の轍を鮮明に観測することに成功しており、地震等の災害による地表面の変化をこれまで以上に詳細に観測することができるようになりました。これにより、被災時の円滑かつ効果的な救助活動や復旧作業への貢献が期待されています。
NICTでは2022年度から各種試験観測を行い、環境・災害モニタリングを効率的かつ効果的に実施するための観測技術の高度化や試験観測で得られたデータを用いて分析技術の高度化を進め、社会実装への取組を推進していく予定です。また、船舶や漂流物等の海面監視でのPi-SAR X3の利活用について検討して行く予定です。
(広報誌「地震本部ニュース」令和4年(2022年)秋号)
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