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  3. 2020年度日本地震学会論文賞受賞 角田・弥彦断層海域延長部の活動履歴 ─ 完新世における活動性と最新活動 ─

(広報誌「地震本部ニュース」令和3年(2021年)冬号)

 日本地震学会2020年度論文賞に選ばれた私たちの研究論文では、主要活断層帯である長岡平野断層帯の海域延長部を対象として、新潟沖の沿岸海域に分布する活断層の正確な位置と、そこで発生した過去の地震について明らかにしました(大上ほか、2018)。この研究は、文部科学省の委託を受けて「内陸及び沿岸海域の活断層調査」の一環として実施したものです。この場をお借りして、私たちの調査研究についてご紹介させていただきます。

 活断層帯で発生する大地震(たとえば、1995年兵庫県南部地震、2016年熊本地震)は、市街地等が分布する陸域直下で発生し、甚大な地震災害を引き起こしてきました。活断層帯は海岸線を越えた海域にも分布しており、2005年福岡県西方沖地震、2007年能登半島地震、2007年中越沖地震、2019年山形県沖の地震のように、海底活断層を震源とする大地震によって臨海地域に地震災害が生じる可能性があります。そのため、地震災害を予測・軽減する上で、陸域に分布する活断層帯と同様に、沿岸海域に分布する活断層帯で地震が発生する可能性・確率を明らかにすることが重要です。しかしながら、沿岸海域に分布する活断層帯については、陸域に分布する活断層帯に比べて、断層の正確な位置や、過去の活動について十分に明らかになっていませんでした。こうした背景のもと、産総研地質調査総合センターでは「沿岸域の地質・活断層調査」によって沿岸域における地質情報の整備を、文部科学省では「沿岸海域における活断層調査」や「内陸及び沿岸海域の活断層調査」によって沿岸海域に分布する活断層帯の活動性を明らかにするための調査研究を推進してきたところです。

 長岡平野西縁断層帯は、新潟県の新潟市の沖合から小千谷市にかけて南北に分布する活断層帯で、最大でマグニチュード(M)8.0程度の地震を発生させる可能性があります。この断層帯の最北部(角田・弥彦断層)では、海域延長部を構成する海底活断層の正確な位置や、地震発生確率の計算に必要な過去の活動時期が十分にわかっていませんでした。

 海底での活断層調査では、陸域のように、地形・地質の直接的な観察や、トレンチ掘削調査が実施できません。そのため、高分解能音波探査によって地下構造を調べたり、海底面下の堆積物を採取して地層の年代を調べたりして、過去に発生した地震の痕跡を探ります。私たちは、角田・弥彦断層の海域延長部が推定される海域において高分解能音波探査(総延長166km)を実施して、海底活断層の正確な位置(図1)と、断層の近くの地形や地層の変形(図2、図3)を明らかにしました。さらに、海底面下の地層が形成された時期を調べる目的で、堆積物を採取調査や、以前に実施された海上ボーリング調査で得られたデータの再分析を実施しました。

 音波探査によって得られた海底の断面図(図2)を見ると、最近1万年間に形成された地層が、幅2 km程度の範囲で撓(たわ)むように変形していることがわかります。変形に着目すると、深くにある地層ほど大きく撓んでいて、海底面付近では撓みが小さくなっています。活断層帯で地震が発生する(断層がずれる)毎に海底面が数mずつ撓むとすれば、「深い(古い)地層ほど撓みが大きく、浅い(新しい)地層ほど撓みが小さい」という系統的な変形は、海底活断層が何度も地震を繰り返して発生させてきたことを物語っています。

 もっと分解能が高い音波探査の記録(図3)を見てみると、深い(古い)地層が「変形軸」に沿って系統的に変形しているのに対して、浅い(新しい)地層は変形していないことが確認できました。このことは「変形が確認できる地層」ができた後、「変形していない地層」ができる前に地震が発生したことを示しています。私たちは「変形が確認できる地層」と「変形していない地層」ができた年代を調査して、この海底活断層が最後に地震を発生させた時期が2,100年前より後、 900年前より前であることを明らかにしました。また、断層のずれによる「地層の撓み」をモデル化することによって、1回の地震によって海底活断層が上下に約7.5 mずれた可能性があることがわかりました。さらに、地層の成長速度のサイクリックな変化から、過去1万年間に3回程度の地震が発生した可能性があることがわかりました。

 このように、長岡平野西縁断層帯の海域延長部における過去の地震活動について、海底活断層が最後に地震を発生させた時期、地震が発生した時の「ずれ」の量、地震の発生頻度について、精度良く解読することに成功しました。これらの結果はこれまでの陸上における調査結果と整合的であり、私たちの調査結果の精度・信頼性が十分に高いことを裏付けています。

 私たちは、沿岸海域の活断層調査において現状で考えられる調査・解析手法を網羅的に展開することによって、活断層評価に必要なパラメーターをもれなく取得できることを実証しました。このことは、地震調査推進本部における活断層の長期評価に貢献する成果であることに加えて、今後の沿岸海域活断層調査のスタンダードを示したものである、と評価いただきました。この研究で得られた知見を発展させながら、これからも地震災害の予測・軽減に資する調査研究に取り組んでいきます。最後となりましたが、本調査研究の立案や現地調査の実施にご理解・ご協力いただいた皆様に、心からの感謝を申し上げます。

(広報誌「地震本部ニュース」令和3年(2021年)冬号)

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