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(広報誌「地震本部ニュース」令和3年(2021年)秋号)
国土地理院では、GNSS衛星(GPSやみちびき等の測位衛星の総称)からの測位信号を24時間連続で観測している電子基準点という施設(写真1)を全国に設置しています。その数は約1,300点にのぼり、世界でも類を見ない高密度なGNSS連続観測網です。1996年の運用開始から20年以上にわたり絶え間なく観測を継続し、測量の基準点や地殻変動の監視、更には各種位置情報サービスの基盤としてユーザーを支えています。
全ての電子基準点の座標値(緯度・経度・高さ)は、毎日国土地理院で解析され、「電子基準点日々の座標値」としてホームページ等で公開されています。地震や噴火等の自然災害の際には、地殻変動を伴うことがあり、災害の状況を把握する資料として活用されます。この、「電子基準点日々の座標値」の計算方法を2021年4月に12年ぶりに更新しました。本報は、「電子基準点日々の座標値」を用いた地殻変動の観測や、新しい解析の特徴について説明します。
地球の表面を構成する地殻には、さまざまな力が加わり、さまざまな変動が生じています。この変動を地表面の変形として捉えたものを地殻変動といいます。地殻変動にはさまざまなタイプがあり、地質学的な長期間にわたって山脈が隆起したり、平野が沈降したり、プレートが移動するようなものから、短時間に生じる地震時の変動など、さまざまな時間的・地域的スケールを持っています。
毎日の「電子基準点日々の座標値」を長期間監視することで、定常的なプレート運動を調べることができます。また、地震前後の値を比較することで、地震による地殻変動を把握し、その大きさ等から、地震を発生させた断層の位置等を調べることができます。これらの情報は、地震調査委員会に提出され、地震活動の評価に役立てられます(図1)。
「電子基準点日々の座標値」を求める解析手法は、測地技術の発展に従い、不定期に更新されてきました。2021年4月に、解析手法を12年ぶりに改定し、新しい解析手法による「電子基準点日々の座標値」を公開しました。1996年から最新までの全ての電子基準点観測データを、新しい手法で解析し、その結果(座標値)を公開しています。新しい「電子基準点日々の座標値」の特徴は次の3点です。
(1)新しい国際地球基準座標系と整合した高精度な位置情報を算出
「電子基準点日々の座標値」を計算する際の位置の基準(XYZ座標の原点や軸の方向)は、国際地球基準座標系(ITRF:International Terrestrial Reference Frame)を採用しています。従来の「電子基準点日々の座標値」はITRF2005という座標系を基準としていました。しかし、ITRFは、最新の宇宙測地データを使って更新されるものであり、最新の基準はITRF2014と呼ばれ、ITRF2005とはわずかに異なります。図2は、電子基準点「新十津川A」(北海道)において、IGS(International GNSS service)という組織がITRF2014に準拠して計算した日々の座標値(2019年1年分)と、同じデータを使用して計算した、従来手法(ITRF2005)、新手法(ITRF2014)それぞれの「電子基準点日々の座標値」をプロットしたものです。従来の「電子基準点日々の座標値」は、IGSが計算した座標とは3cm程度離れていましたが、新しい手法によるものは、似たような位置にプロットされ、新しい「電子基準点日々の座標値」はITRF2014に整合した位置を推定することができるようになりました。
(2)日々の座標変化のばらつきを抑制(高さ成分)
GNSS衛星から飛来する電波の解析には様々な誤差が含まれます。この原因の1つに、大気中の水蒸気等によって電波の進行が遮られ、受信機への到達が遅れる現象があり、対流圏遅延と呼びます。大気中の水蒸気量は天候等の影響で地域によって変わるため、一律にこの遅延を補正することは難しいため、解析では、座標値と同時にこの対流圏遅延量を推定します。従来の解析では、1日を8分割し、3時間ごとの値を推定していましたが、新しい解析ではこの間隔を短くし、1時間ごとの値を推定しています。これにより、大気中の水蒸気量の変化をより現実的に評価することができ、特に高さ成分のばらつきが減少しました。図3は、電子基準点「小松」(石川県)を基準とした、「三隅」(島根県)の高さの変化を示したグラフです。特に大気中の水蒸気が多くなる夏季に値がばらつく傾向がありますが、新しい解析では、その程度を抑えることができます。
(3)新しいGPS衛星の解析
「電子基準点日々の座標値」は、主にGPS衛星から取得したデータを用いて解析を行います。一方で、GPS衛星も老朽化等により毎年新しい衛星が打ち上がります。従来の解析に使用していたソフトウェアが古く、新型のGPS衛星(ブロックIII)に対応することが難しくなりつつありました。そこで、今般新しい解析手法に更新するにあたり、解析ソフトウェアも更新し、近年打ち上がっている新型のGPS衛星に対応できるようになりました。
本報では、新しい「電子基準点日々の座標値」について、簡単に解説しました。より詳細な解説は国土地理院時報を参照ください。国土地理院では、今後も「電子基準点日々の座標値」を用いた国家座標の維持管理や地殻変動の監視に努めてまいります。
参考文献
国土地理院時報「新しい GEONET 解析ストラテジによる電子基準点日々の座標値(F5解・R5解)の公開」
https://www.gsi.go.jp/REPORT/JIHO/vol134-abst.html#134-3
(広報誌「地震本部ニュース」令和3年(2021年)秋号)
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