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  1. 地震・津波の知識
  2. コラム
  3. 2020年度日本地震学会 論文賞受賞 2011年東北地方太平洋沖地震の震源域近傍の海洋プレート内部の応力・強度状態

 東北地方の沖合では、北米プレートの下に太平洋プレートが沈み込んでいます。沈み込みが始まる日本海溝の周辺では太平洋プレートがゆるやかに折れ曲がり、浅部側は水平に引き伸ばされ、深部側は押し縮められるような変形が生じています。この変形によりプレートの浅部、深部でそれぞれ水平引張、圧縮の応力が発達しています(以下、「折れ曲がり応力場」といいます)。2011年の東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)の発生後、太平洋プレート内で地震活動が活発化したことが明らかとなりました。一方で、東北沖地震によるプレート内の応力変化と折れ曲がり応力場の関係は詳しく分かっていませんでした。

 2012年12月7日、日本海溝近傍の太平洋プレート内で、2つのM7級の地震がほぼ同時に発生しました(図1)。まずプレート深部(深さ約60 km)でMw7.2の逆断層型地震が発生し、約10秒後に浅部(約20 km)でMw7.1の正断層型地震が発生しました。以降では、2つの地震をまとめてダブレット地震、それぞれの地震のことをサブイベントと呼びます。

 この周辺の海域では、東北沖地震の発生前から東北大学が継続して海底観測を行なってきました。ダブレット地震においても、周辺に展開された海底水圧計が津波を観測しました(図1a)。これまで遠地地震波記録を用いてダブレット地震を構成するサブイベントの震源過程を推定する研究も行われてきましたが、2つのサブイベントの地震波がほぼ同時に観測されるため、両者の破壊過程の分離、特に、後続の浅いサブイベントの震源過程を高精度に推定することは困難でした。一方で、震源の浅い地震は深い地震に比べて津波を効率的に励起するため、津波データは後続のサブイベントの震源過程の推定に非常に有効です。Kubota et al. (2019) では、震源域近傍の水圧計データ、および遠地地震波と余震分布データを統合的に解析して高精度かつ高信頼度な2つのサブイベントの震源断層モデルを推定し、太平洋プレート内部の折れ曲がり応力場を定量的に議論しました。

 解析によって推定された2つのサブイベントの断層を図1に示します。正断層型サブイベントの断層は、深さ約35 kmまで伸びていたことが分かりました。この深さは、東北沖地震直後の2011年、および2012年のダブレット地震直後に行われた海底余震観測にもとづく正断層型地震発生域の深さ下限ともよく対応していました(図2)。

 プレートの折れ曲がりによる浅部の伸び変形は、プレート中央付近では小さく、プレート表面付近で大きくなります。したがって、浅部ほど折れ曲がり応力は大きくなります(図3、青線)。プレート内の断層において、折れ曲がり応力が一定の値を超えると断層が耐えきれなくなり、ずれ運動、すなわち地震が起こります。この断層が耐えられる限界の応力の大きさを「せん断強度」と言います。せん断強度は深さに比例し、深い場所ほど地震を起こすのに大きな応力を要します(図3、緑線)。 プレート内の正断層型地震は、折れ曲がり応力がせん断強度を超える深さ範囲で発生します(図3、薄い青色の領域)。

 東北沖地震によって生じたプレート内部の引張応力増加量を計算したところ、約20MPaと見積もられました。東北沖地震後の太平洋プレート内の応力の深さプロファイルは、プレートの形状から得られる折れ曲がり応力場(図3、青線)に、この応力増加量を足し合わせたものとなります(図3、赤線)。正断層型サブイベントの断層が深さ約35 kmまで広がっていたことから、35 kmよりも浅い範囲では、東北沖地震後の応力がせん断強度よりも大きくなっている必要があります。このようにして得られたせん断強度プロファイル(図3、緑実線)にもとづいて断層を構成する岩石の摩擦係数を見積もったところ、一般的な岩石の摩擦係数よりも極端に低い0.2程度の値が得られました。私たちは、太平洋プレートに発達した正断層に沿って間隙流体が浸透することでプレート内断層での摩擦強度が極端に低くなっているのではないかと考えています。

 Kubota et al. (2019) では、2012年のダブレット地震の解析を通して、太平洋プレート内における応力・強度状態を定量的に明らかにし、プレート内に間隙流体が存在する可能性を指摘しました。これらは、今後発生が懸念されるアウターライズ域における巨大地震の発生メカニズムの解明や、太平洋プレートが沈み込んだ先にあるプレート境界の物理的性質の理解に資するものであり、いずれも、沈み込み帯における地震テクトニクスの理解にとって重要な貢献であると考えます。

引用:
Kubota, T., Hino, R., Inazu, D., & Suzuki, S. (2019). Fault model of the 2012 doublet earthquake, near the up-dip end of the 2011 Tohoku-Oki earthquake, based on a near-field tsunami: implications for intraplate stress state. Progress in Earth and Planetary Science, 6, 67. https://doi.org/10.1186/s40645-019-0313-y

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