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  1. 地震・津波の知識
  2. コラム
  3. 災害軽減へ向けて理学・工学をつなぐ計算科学

1.はじめに

 先端的な観測が継続され、さまざまな観測データの蓄積が進められてきています。また、5G&ポスト5G及びIoTの進展に伴い、この蓄積がさらに加速されると期待されることから、多数の観測機器から得られたデータを蓄積し、大規模共通解析基盤を用いて多種多様なシミュレーションを駆使して過去・現在・未来を評価可能なデジタルツインを観測データとの融合により構築することで、理学から工学をシームレスに接続し、地震・火山に関する諸現象の科学的研究と直接又は間接に地震・火山に起因する災害の予防並に軽減方策を従来よりもさらに深く探究することが出来るようになると期待されます。

2.計算科学によるひとつのブレークスルー

 地震現象は複雑であり多種多様な現象を含んでいます。しかしながら、レングスケールや分解能は異なるものの、数理問題の観点からみると地震現象の多くの挙動は、静的/動的・非線形/線形の応答としてモデル化されるという共通項があり見通しが良くなります。対象とする現象によって「構成則」や「感覚」などは異なりますが、このような観点からは理と工をそこまで区別する必要はなく、多くの現象がこれらの順・逆解析をする問題に帰着されることになります。そのため、理学から工学までをシームレスに接続し俯瞰的な観点から災害軽減を目指すための共通解析基盤の構築が出来るのではと考えられます。
 一方で、このような共通解析基盤の構築には難題があります。(応力フリーの)境界条件や幾何形状が解に強く影響を及ぼす数理問題なので、非構造要素に基づく有限要素法を用いることとなりますが、対象としている問題のサイズが大きくかつ解の信頼性(収束性)を担保するための分解能が高いため、モノづくり分野等での従来の有限要素法で扱っている問題規模(100万自由度程度)よりも格段に大きな規模の問題(1億~1兆自由度)を解く必要があります。
 超大規模問題を有限要素法で解くためには、超大規模有限要素モデルの生成手法とこれを用いた解析手法が必要となり、計算科学の出番となります。三次元の複雑なモデルに対してロバストに、高精度な超大規模有限要素モデルを構築することは難題ですが、例えば、地殻変動、地震動、地盤震動解析で頻出する成層構造に対しては[1]の方法により1兆自由度を超える超大規模有限要素モデルの構築が可能となりました。一方で、この超大規模有限要素法を用いた解析はさらに難題です。超大規模問題であっても、京や富岳のような超大規模計算機を用いれば簡単に計算できると思われますが、実は有限要素法自体が最近の計算機機構と相性が悪い手法であり、超大規模計算機を用いたとしても超大規模問題を解くことは容易ではないのです。具体的には、有限要素法の計算の核となる部分がランダムメモリアクセス卓越型であることから生じるボトルネックの解決を図るとともに、超大規模計算機の超多数の計算機を効率的に連成させながら解く新たな手法の開発が必要となりました。
 ここ最近5年ほどのうちに上記を解決するひとつの計算科学的なブレークスルーがなされ、数百億自由度以上(最大2兆自由度)を扱うことが可能な超大規模高速有限要素法解析が実現されました(例えば[2]など)。これにより、理学から工学までのレングスケール、要求分解能、構成則が異なる、列島スケールの応力蓄積過程、M9クラスの震源過程、都市の揺れ、地盤・構造物の連成などの静的/動的・非線形/線形の挙動をこの単一の共通解析基盤により解析することが可能となりました(例えば、図1)。もちろん現時点では、ようやく解析できるようになったばかりであり、この精度・信頼性向上のために研究開発が必要なことは言うまでもありません。しかし、この共通大規模解析基盤開発により、理学から工学までの現象をシームレスに解析し、俯瞰的に理解できることの可能性が示されました。
 上記の計算科学による超大規模物理シミュレーションの実現だけでなく、計算科学と情報科学の融合による新たな可能性も解析能力向上を図る上で見逃せません。例えば、超大規模物理シミュレーションにより未経験の大地震をシミュレーションし、疑似的な超大規模稠密観測データを計算機上で観測し、これにより構築した人工知能(サロゲートモデル)により被害予測を行った事例もあります。また、対象とする微分方程式を学習した人工知能を用いることで大規模物理シミュレーション自体を高速化できる可能性(例えば、[3])など新たなアプローチも模索されています。

図1 開発した数百億自由度以上(最大2兆自由度)の超大規模高速有限要素法解析による、列島スケールの応力蓄積過程からM9クラスの震源過程、都市の揺れから地盤・構造物の解析例。これらを連成することで理学~工学までのシームレスなシミュレーションが可能となる。

図1 開発した数百億自由度以上(最大2兆自由度)の超大規模高速有限要素法解析による、列島スケールの応力蓄積過程からM9クラスの震源過程、都市の揺れから地盤・構造物の解析例。これらを連成することで理学~工学までのシームレスなシミュレーションが可能となる。

3.おわりに

 ここ最近5年ほどの計算科学によるブレークスルーにより、災害軽減へ向けて理学から工学までをシームレスにつなぐことを目的とした大規模共通解析基盤の開発が進みました。貴重な観測データをより活用できる解析能力向上がさらに進められることで、観測の意義がより明確化されつつ更なる先端的な観測がなされるとともに、Society5.0時代におけるBig Data & Extreme Computingを用いた都市・社会・地球の次世代デジタルツインによる理工連携の進展により災害軽減がさらに進むと期待されます。

謝辞)本研究の一部は、ポスト「京」重点課題3 「地震 ・ 津波による複合災害の統合的予測システムの構築」、「『富岳』成果創出加速プログラム:大規模数値シミュレーションによる地震発生から地震動・地盤増幅評価までの統合的予測システムの構築とその社会実装」、JSPS科研費 JP18H05239、JP18K18873の助成を受けたものです。

引用)
[1] Tsuyoshi Ichimura, Ryoichiro Agata, Takane Hori, Kazuro Hirahara, Chihiro Hashimoto, Muneo Hori, Yukitoshi Fukahata, An elastic/viscoelastic finite element analysis method for crustal deformation using a 3-D island-scale high-fidelity model, Geophysical Journal International, 206, 114-129, 2016.
[2] Tsuyoshi Ichimura, Kohei Fujita, Pher Errol Balde Quinay, Lalith Maddegedara, Muneo Hori, Seizo Tanaka, Yoshihisa Shizawa, Hiroshi Kobayashi and Kazuo Minami, Implicit Nonlinear Wave Simulation with 1.08T DOF and 0.270T Unstructured Finite Elements to Enhance Comprehensive Earthquake Simulation, SC15: International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage and Analysis, Article No. 4, 2015.
[3] Tsuyoshi Ichimura, Kohei Fujita, Muneo Hori, Lalith Maddegedara, Naonori Ueda, Yuma Kikuchi, A Fast Scalable Iterative Implicit Solver with Green’s function-based Neural Networks, 2020 IEEE/ACM 11th Workshop on Latest Advances in Scalable Algorithms for Large-Scale Systems (ScalA), 61-68, 2020.

著者プロフィール

市村 強 (いちむら つよし)

東京大学地震研究所計算地球科学研究センター長 教授。専門は、計算科学、応用力学、地震シミュレーション。2001年東京大学大学院工学系研究科社会基盤工学専攻博士課程修了 博士(工学)。2001年東北大学大学院工学研究科土木工学専攻助手、2005年東京工業大学大学院理工学研究科土木工学専攻助教授を経て、2009年東京大学地震研究所 現在に至る。京コンピュータ・富岳コンピュータプロジェクトなどに従事しつつ、新たな計算科学・応用力学的アプローチの創成とこれらを用いた防災減災に資する地震シミュレーションの高度化に取り組んでいる。

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