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(広報誌「地震本部ニュース」令和2年(2020年)夏号)
全国の主要活断層帯で生じる大地震・巨大地震の発生予測を高度化するため、産総研では平成29年度から令和元年度の3ヶ年にわたり、文部科学省研究開発局による標記の委託事業を実施してきました。日本には、複数の活断層で構成され、長さが80kmを超える長大な活断層帯が分布しています。地震本部による「活断層の地域評価」では、複数の活断層が同時に活動する連動型地震について、発生時の地震規模は評価していますが、その発生可能性や連動確率は評価できていないのが現状です。そのため、産総研では地質、地形、地震、計算工学など複数の異なる専門分野の研究者が連携して、難題とされる連動型地震の発生可能性や連動条件の把握に努めてきました。
今回の事業では、連動型地震を生じ得る主要活断層帯の中から糸魚川―静岡構造線断層帯を対象としました。その理由は、1)複数の活動区間から構成される、2)地震発生可能性が高い(Sランク)と評価されている区間を含む、3)連動型地震発生時に社会的影響が大きいなどといった条件を考慮したものです。同断層帯の北端付近では2014年に長野県北部の地震(M6.7)が生じ、地表地震断層と約1mの上下変位を伴うものでした。しかし、この地震の震源断層は長さ20km程度であり、残りの140km程度の区間はいまだに地震発生可能性が高い可能性があります。そのため本事業では、次にまた大地震が起こってしまった場合、どの区間が連動しやすいのかを把握することを意識して調査研究を実施しました。
図1 本事業で対象とした糸魚川―静岡構造線断層帯の活動区間(北部〜中南部区間)
今回の事業によって、活断層帯から生じる連動型地震について、いくつかの新たな知見が得られました。活断層調査ではこれまでに蓄積された活動時期や履歴を活かして、三次元的なトレンチ調査等により地震変位量を複数回明らかにし、過去の連動型地震と非連動の(単独区間の)地震を判別する手法を整理・構築しました。その結果、ポアソン過程に基づき区間毎の連動確率を初めて試算することが可能となりました。微小地震解析では、長野県北部の地震やその後に生じた微小地震を対象に、速度構造不均質を考慮した震源再決定をおこないました。これにより、糸魚川―静岡構造線断層帯周辺の精緻な応力場や震源断層面が高角であることを明らかにしました。推定された断層形状を踏まえて、三次元有限要素法による断層モデルの構築と高度化に新たに取り組み、断層面間の相互作用の有無に応じて地表変位量やその空間分布がどのように異なるかを数値計算結果として提示することが可能となりました。さらに、これらの知見を総合して動的破壊のシミュレーションを実施して、破壊の伝播方向による連動/非連動となる条件などを明らかにすることができました。
このように本事業の調査研究によって、これまで難しい課題とされてきた活断層帯で生じる連動型地震の発生予測や評価手法の改良に一定の成果を挙げられたものと考えています。まだ細かい部分ではそれぞれの研究項目で課題も残っていますが、これらの成果をプロトタイプとして、引き続き改良を加えながら地震調査委員会の評価手法や様々な地震ハザード評価に採用/実用化されるよう努力したいと思います。
末筆ですが、調査時にご協力頂いた長野県及び市町村、地権者の方々、外部評価委員の皆様、地震・防災研究課の関係各位に御礼申し上げます。
図2 本事業の4つの研究グループと構成
(広報誌「地震本部ニュース」令和2年(2020年)夏号)
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