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(広報誌「地震本部ニュース」令和2年(2020年)夏号)
「海域における断層情報総合評価プロジェクト」は、2013年度から2019年度まで実施されたプロジェクトで、海域の断層の空間分布をマッピングし、防災・減災に貢献することが目的です。文部科学省の科学技術基礎調査等委託事業による委託業務として、国立研究開発法人海洋研究開発機構及び国立研究開発法人防災科学技術研究所が実施いたしました。これまで海域においては、海中で音波を発震するエアガンや海底下からの反射波を捉えるハイドロフォンストリーマーといった装備を用いて地下構造を調査する物理探査が行われてきましたが、海域の断層の全体像については把握できていませんでした。そこで、様々な機関等が取得した反射法地震探査と海底地形のデータを借用し、統一的なデータ再処理と解釈をして日本周辺海域の断層モデルを構築するプロジェクトを実施しました。
このプロジェクトは、様々な行政や研究機関、民間企業等が取得した反射法地震探査データや海底地形データを収集しデータの品質管理を行い、それらをデータベース化するサブテーマ1、現在の先端的なデータ解析と統一的な解釈を実施し断層トレースの空間分布をマッピングするサブテーマ2、断層の空間分布をもとに断層モデルを構築するサブテーマ3から構成されています(図1)。以下に詳細を示します。データ利用・借用に際し、海洋研究開発機構、経済産業省、石油天然ガス・金属鉱物資源機構、産業技術総合研究所、海上保安庁海洋情報部、国土地理院、東京大学、富山大学、沖縄県、石油資源開発株式会社、国際石油開発帝石株式会社、中部電力株式会社の各機関・会社にご協力いただきました。
図1 本プロジェクトの概要
サブテーマ1では、 反射法地震探査データと海底地形データを収集しました。しかし、その大部分が1980年代以前のGPS実用化前の電波航法を用いたものでした。それらの位置データの精度は現在のものより低いため、反射法地震探査データが示す海底地形と現在の海底地形データとの整合性を確認して、データ品質のチェックと管理を行いました。具体的には、紙やフィルムに記録されたアナログデータしかないケースでは、それらをスキャナーで読み取りデジタル化し、サブテーマ2に提供しました。また、海底地形データについては、海底の微地形を読み取り易いように、空間微分による赤色立体地図を作成しました。
サブテーマ1では、海底地形データや反射法地震探査データ、海底地殻構造データ、断層トレースデータ、地下のホライゾン(音波速度境界を示す反射面)データ、断層モデルなどを格納するデータベースも構築しました。このデータベースは、断層の空間分布の把握と根拠がわかりやすいように可視化部分に、反射断面の時間軸と深度軸の選択切替、反射断面のカラー表示切替、断層トレースの検索機能、断層トレースと断層モデルの同スケール表示、三次元速度構造表示、海底地形と震央分布との比較、ユーザーによる空間追跡、探査のメタ情報とのリンク等の様々な機能を備え、必要な海域の断層分布が確認できるシステムとして構築しました。
サブテーマ2では、収集したデータの再解析と断層の解釈を行いました。断層形状を求めるためには、浅部のP波(弾性波)速度を正確に求める必要があります。また速度構造をモデル化するためには、反射断面内の多重反射波の除去も必要です。この速度解析と多重反射波等のノイズ除去を主目的に先端的なデータ再処理を施しました。こうして再解析されたデータを用いて、互いに交差する複数の反射法地震探査の測線間の整合性を確認し、時間軸断面において全測線分の断層と反射面(地層境界面や速度境界面)を解釈しました。断層の解釈においては、海底地形や褶曲構造等の地質構造を確認しながら、反射記録断面上の不連続構造をトレースします。正断層や逆断層、横ずれ断層といった断層種別や、類似した地形、地質構造が連続すれば、複数の測線にわたって断層が分布するとして断層の空間分布を求めました。横ずれ断層ではしばしば、フラワーストラクチャーという地表近傍の断層が主断層に収斂する様子が見られますが、このような特徴も連続性確認の根拠としました。
最終的に断層の深度分布を求めるためには、海底下の速度構造が必要です。ここでは、過去に行われてきた海底地震計を用いた屈折法探査による速度構造研究成果と、上記の反射法地震探査データを用いた速度解析から求めた浅部速度構造を組み合わせて、沈み込む海洋プレートも含めた三次元速度構造モデルを構築しました。このモデルを用いて、解釈した各断層トレースを深度分布に変換しました。なお、空間的に15km以上の長さを持つ断層については、断層の種別、長さや走向、傾斜等の情報をリスト化して、サブテーマ3に提供しました。
サブテーマ2で構築した断層トレースに基づいて断層モデルを構築しました。ここでは、海底面近くにまで達している断層に絞ってモデル化しましたが、全ての断層パラメータが解釈作業で把握できるわけではありません。そのようなケースでは、既往断層の設定方針をもとに、「震源断層を特定した地震の強震動評価手法(レシピ)」に準拠してパラメータを決定しました。
断層は矩形で近似されますが、断層トレースが長く走向が変化する場合、複数の矩形を作成しモデル化しました。断層下端が上部地殻内に達しているケースでは、断層の下端はコンラッド面とし、海域によって断層の不確定性を考慮し、モホ面まで達する可能性も視野に入れてモデル化しました。太平洋プレート上では沈み込みに伴う正断層が海溝海側で発達していますが、自然地震観測研究の成果から、その下端を上部マントル内に設定しました。断層パラメータの設定は、深部で明瞭に確認できないため、上記レシピに準じて、傾斜角・すべり角を設定しました。すべり量は断層面積を基にスケーリング則を基本としています。
これらの矩形断層が連動発生すると考えて、様々に組み合わせて沿岸域に達する津波の高さ・分布を計算し、過去の津波履歴とその最大値がある程度整合的であることを確認しています。
このような解釈作業やモデル構築を日本海海域、九州西方~南西諸島海域、南海トラフ海域および伊豆小笠原海域を対象に行ってきました。特に、陸上から海域に連続していることがわかっている断層や陸域に近い断層は、沿岸域に比較的大きい地震動と津波をもたらす可能性があります。日本海溝域や千島海溝域、オホーツク海が未作業領域として残っていますが、今後、それらの海域を含めて、わが国周辺海域に発達する断層にも、防災・減災上で配慮頂きたいと考えています。
金田 義行 (かねだ よしゆき)
香川大学四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構副機構長、地域強靭化研究センター長、特任教授。海洋研究開発機構上席技術研究員。1979 年東京大学理学系研究科大学院地球物理学専攻修士課程修了。理学博士。海洋研究開発機構で地震津波・防災研究プロジェクトリーダー等を務め、名古屋大学減災連携研究センター特任教授を経て、2016 年より現職。地下構造研究、地震津波モニタリング研究、シミュレーション研究、減災科学研究に取り組んでいる。
高橋 成実 (たかはし なるみ)
防災科学技術研究所地震津波火山ネットワークセンター副センター長、海洋研究開発機構上席技術研究員。専門は海洋地球物理学。1995 年千葉大学大学院自然科学研究科を修了。博士(理学)。東京大学海洋研究所(当時)COE 研究員を経て、1996 年海洋研究開発機構、2016 年防災科学技術研究所、現在に至る。
藤原 広行 (ふじわら ひろゆき)
防災科学技術研究所マルチハザードリスク評価研究部門長。1989年京都大学大学院理学研究科中退。博士(理学)。科学技術庁国立防災科学技術センター入所。全国強震観測網K-NET の整備、全国地震動予測地図の作成、リアルタイム地震被害推定システムの開発などに従事。
(広報誌「地震本部ニュース」令和2年(2020年)夏号)
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