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(広報誌「地震本部ニュース」令和2年(2020年)春号)
防災科研では文部科学省の補助事業として「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」(以下、「本PJ」)を2017年度より5か年計画で進めています。本PJでは「企業も強くなる首都圏も強くなる」を合い言葉に、「データ利活用協議会」(以下、「デ活」)を発足させ、研究から生まれた知見に基づき、産官学民が保有するデータを共有・活用することで、それぞれの組織の防災力を向上させることを目標にしています。(参照:https://www.jishin.go.jp/main/herpnews/2019/sum/herpnews2019sum.pdf)
デ活では、知見と情報を共有するために、年4回の公開シンポジウムを実施しています。初年度は本PJ全体の活動計画や先進的試みの紹介を、2年度目は社会科学・理学・工学の各分野からの最新の研究成果を紹介すると共に、デ活参加組織を中心として、企業・団体の独自の研究や防災の取組と、本PJの研究課題との関わりについて報告しました。そして、今年度は本PJと企業・団体が連携して取り組むテーマ別分科会活動の内容を紹介しています。
今年度の締めくくりとなる令和元年度成果報告会は、新型コロナウイルス感染症をめぐる国内情勢から実施の可否も含めた検討を重ね、最終的に、政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が2月24日に公表した見解を受け、予定通り2月28日に東京都文京区の東京大学伊藤国際学術研究センターにおいて開催するが、無聴衆での開催とする決断をしました。登壇者およびスタッフ用に、市場で入手困難になっていた手指消毒用アルコールやマスクを研究所のストックから供出したほか、受付にて報道関係者を含む全員から問診表の記入および非接触型の体温計・赤外線サーモグラフィによる検温など、出来うる限りの対策を実施しました。当日の様子(図1)を収録したビデオは、順次、Youtubeを通じて公開予定です。
今回はその令和元年度成果報告会『データ利活用力向上のため「励むべきこと」は何か』について報告します。
冒頭の挨拶には、文部科学省研究開発局長の生川浩史氏が登壇し「社会のレジリエンス力を向上させるためには、各ステークホルダーの保有する防災に資する情報を社会で共有し、活用できる環境を構築していくことが重要。これをいかにして実現するかが重要になっている」と語った上で、デ活の取り組みについて「今年度が3年目となり、5カ年計画の折り返し地点を通過した。本年度の成果を踏まえつつ、来年度は最終年度を見据えて成果を具体的にまとめていく段階になる。本プロジェクトの成果が企業や自治体の防災力を高め、首都圏、ひいては我が国の防災力向上に資することを祈念する」と期待を述べられました。
図1 当日の様子
第1部の基調講演では、平田総括が「首都圏を中心としたレジリエンス総合力プロジェクトの3年目の成果」と題し、デ活の組織構成や各サブプロジェクトの取り組み概要について説明しました。データ利活用協議会が初年度の発足から3年が経ち、既に1,000人を超える方がこのデ活シンポジウムに参加し、67の企業、13の個人がデ活の正式な会員として活動をするに至ったことや、今年度からテーマ別に深い議論を進めるための分科会を立ち上げ、活動の成果が上がりつつあることに触れました。
続く基調講演として、JIPDEC常務理事の坂下氏(図2)が「民間とのデータ連携の問題点と課題」と題し、「Society5.0」や「スーパーシティ」構想に触れ、その実現に向けて、異なる主体間でのデータの相互運用性が課題になることを指摘しました。防災科研による研究活動と、民間企業のエンジニアリング・デザイン活動を「ブリッジ」する存在の重要性に言及し、幅広く民間活動に広げようとしているのがデ活であると期待を述べました。
図2 JIPDEC常務理事の坂下氏
第2部は「デ活およびプロジェクトにおける本年度の成果と注目研究」ということで、デ活および3つのサブプロジェクトから報告がなされました。こちらも登壇者が所属する組織の方針を受け、一部予定されていた発表内容を事務局で代読するなどの対応を行いました。
1つ目のデ活全体:「データ利活用協議会の活動」では、サブプロ(a)統括で首都圏レジリエンス研究センターの上石副センター長が全体像を説明しました。7つの分科会と1つのワーキンググループの活動を紹介しながら、それぞれがバラバラに取り組むのではなく、今後は、『ゆれの状況を把握する』『被害の状況を見積もる』『事態を沈静化する』『社会の状況を把握する』という4つの共通テーマで連携を深めていくことを強調しました。
2つ目のサブプロ(a):社会科学分野については、デ活メンバー企業のニーズに合った情報提供の基盤づくりに取り組むために法律面や技術面、セキュリティ面の課題解決が必要であることに触れました。また、実際に発生した地震災害を通じて、被災後の回復力の観点からインフラを評価する「フラジリティ関数」の改善や、ドローン空撮画像のAI解析により被害状況を迅速に判定・把握する手法等について紹介がありました。
3つ目のサブプロ(b):理学分野については、サブプロ(b)の青井統括ならびに酒井統括から、約300の観測点からなる首都圏地震観測網MeSO-netによるデータ収集を目的とした観測網の安定運用に加え、収集したデータと感震ブレーカやエレベータ、ビル内地震観測、コンビニなどから得られる民間データを統合して首都圏における詳細な地震動の情報を配信するマルチデータインテグレーションシステムの開発を進めている現状等が紹介されました。
4つ目のサブプロ(c):工学分野については、サブプロ(c)の西谷統括から、構造物の破壊時のデータを把握し継続使用の可能性を探る取り組みに対し、兵庫県三木市の「E-ディフェンス」で行った今回新提案の工法によるRC造3 階建てでの実大振動台実験の結果として、かなり強い加振でも柱の表面や垂れ壁等へひびが入るに留まったことや、さらにもう一段強い加震でも倒壊せずに建ち続けていたことから、災害拠点として十分な耐震性能を有することを確認できたこと等が紹介されました。
第3部のパネルディスカッションでは、「データ利活用力向上のため『励むべきこと』は何か」と題し、令和メディア研究所主宰、白鴎大学 特任教授で元TBSキャスターの下村健一氏がモデレーターとなり、第1部で登壇したJIPDECの坂下氏と平田総括がパネリストとして登壇しました。3者は前段の議論を踏まえ、データ利活用の促進に向けて契約の在り方、プライバシーやセキュリティのルールなどの課題をいかにクリアし、合意形成の壁を乗り越えられるかを中心に意見を交換しました。最後に坂下氏は「(データ利活用の促進は)サイエンス(研究者)だけでは厳しく、エンジニアリング(民間企業)の人たちの知恵がどうしても必要。それらをブリッジする場を防災科研が作っているということがとても重要。ここでの議論を活発にすることで社会は変わると思う」とエールを送りました。
※ 令和2年度もデ活シンポと成果報告会を合わせて4回程度実施することを企画調整中です。日程等詳細につきましては、決まり次第、本PJの公式サイトで公開してまいりますので、ぜひご確認ください。
(参照:https://forr.bosai.go.jp/ )
(広報誌「地震本部ニュース」令和2年(2020年)春号)
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