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  1. 地震・津波の知識
  2. コラム
  3. 「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」

調査研究レポート 南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト(実施期間:2013年度~2019年度)

はじめに)プロジェクト代表金田 義行

 「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」は、南海トラフ域から南西諸島に至る広域連動の可能性の検討も含め、地震像の解明課題と被害軽減のための防災課題を併せて実施された文部科学省の科学技術試験研究委託事業です(図1)。本プロジェクトは防災分野、調査観測分野ならびにシミュレーション分野の3つの研究分野で構成されています。
 図1に示されるように、1)防災分野は、減災技術開発研究と地域連携および災害情報活用研究など、2)調査観測分野は、広域な地震活動・地下構造調査研究および津波履歴調査研究による地震像の解明など、3)シミュレーション分野は、シミュレーションと文献調査による発生シナリオ研究および推移予測研究などの推進を目的として実施されました。
 詳細な研究成果を次に示します。

南海トラフ広域地震防災プロジェクト

図1 南海トラフ広域地震防災研究プロジェクトの概要

1)防災分野福和 伸夫

 本分野では、東日本大震災の教訓を南海トラフ地震対策に生かすとともに、南海トラフ地震の被害様相をマクロな視点とミクロな視点で予測する方法を開発し、それらを活用して被害軽減に資するとともに、事前復興計画なども含め的確な災害対応や復旧・復興施策に生かす方策を考え、さらに、その成果を的確に情報発信することで、社会が自律的に対策を進めるよう誘導することを意図しました。

 まず、東日本大震災教訓活用研究では、東日本大震災における災害の実態や震災直後の対応、災害後の復旧・復興に関するアーカイブを整備して、その課題や教訓を整理し、南海トラフ地震の被害軽減に生かすことを目指しました。さらに、研究期間中に発生した熊本地震などの記録も合わせてアーカイブ化を行い、教訓を活用しやすいデータベースにまとめました。成果は、「震災教訓文献データベース」、「3.11からの学びデータベース」、「動画でふりかえる3.11」として公開しました。さらに、研修プログラムや教科書に成果を反映させています(図2)。

地震の経験をアーカイブ化し教育や研修に活かすまでのフロー図

図2 東日本大震災教訓活用研究の成果の概要

 地震・津波被害予測研究では、広域ハザード・リスクをマクロな視点で統計的に評価する「広域リスク評価」と、基礎自治体での具体的な対策に資するミクロな視点での「地域リスク評価」を行いました。
 広域リスク評価では、確率論的な地震・津波ハザード情報に基づいて、2015 ~2065 年を対象に各時点での建物被害・人的被害を評価しました。その際には、時間経過による地震発生確率の変化、将来人口、年齢構成、人口移動、建物改築や建物の劣化・滅失などを考慮しました。
 一方、自治体の防災対策では、リスクの各要因について因果関係やボトルネックを明らかにし、効果的な対策に繋げる必要があります。そこで、産業集積地・西三河地域の玄関口の碧南市をモデル地域として、本プロジェクトで開発した被害予測ツールを用いて、オーダーメイド型の被害予測を実施し、市役所の各担当課に被害様相を具体的に提示しました。評価項目の設定に当たっては、市役所の担当者の意見を踏まえ、評価結果は市の減災施策・アクションプラン策定等に活かされました(図3)。

地震・津波被害予測研究の成果の概要図

図3 地震・津波被害予測研究の成果の概要

 災害対応・復旧復興研究では、東日本大震災後の復興計画策定、復興プロセスの分析を踏まえ、発災前に復興計画を作成する手法の開発を行いました。事前復興計画の策定は4つのステップで行われます。まず、対策の目標「復興ビジョン」を設定し、その後、災害や人口減少がまちに与える影響を検討し、理想と現実のギャップを埋める方策を考えて、事前復興計画を策定し、具体的な土地利用計画に落とし込みます。土地利用計画の策定では、仮設住宅用地と公営住宅建設用地が重複しないように発災直後からの土地利用の検討を行います(図4)。

災害対応・復旧復興研究の概要

図4 災害対応・復旧復興研究の概要

 防災・災害情報発信研究では、東日本大震災教訓活用研究、地震・津波被害予測研究、災害対応・復旧復興研究で得られた成果に加え、並行して進んだSIPの成果を取り入れて、南海トラフ広域地震災害情報プラットフォーム(https://nankai-bosai.jp/v1.2/)を開発し、研究成果が閲覧できるようにしました。一般市民向け、行政向け、研究者向けに情報提供されており、災害対応組織における事前研修会等での閲覧利用や、災害対応に役立てられています。

 防災・減災対策研究では、東海地域、関西地域、四国地域、九州地域で地域研究会を毎年開催し、各地の様々なステークホルダーと研究成果を共有すると共に、地域課題をあぶりだすことで、新たな研究課題を発掘し、研究成果の社会還元を行うことで地域の自律的な防災施策の展開に繋げてきました。

2)調査観測分野小平 秀一

 本分野ではシミュレーション分野等での活用を念頭に南海トラフ地震発生帯の地震像の解明や、強震動・津波評価の為、調査観測データ・試料に基づき南西諸島から南海トラフを含んだ広域的な地震発生帯モデルの構築と、長期的な地震発生履歴の研究を進めました。
 地震動・津波評価や地震発生帯のプレート固着・すべりの現状把握と推移予測のためには、現実的な3次元地下構造モデルが必要です。本プロジェクト開始前は地震・津波の予測研究で使われてきた地下構造モデルは各研究によって異なり、また深部や海域については多くの仮定が含まれるものでした。そこで、本プロジェクトでは、新たに取得したデータやこれまでに得られた各調査域の地下構造モデルに基づき、南海トラフ全域について、詳細かつ高精度な3次元地下構造モデルを構築、公表しました(図5)。このモデルは、南海トラフ地震の地震動・津波評価に活用できるもので、地震本部による長周期地震動予測地図の作成に用いられている地下構造モデルに対して海域の情報を提供しました。また、3次元プレート形状モデルについては南西諸島海溝域まで拡張した上で、スロー地震の分布、プレート境界の凹凸度分布等を統合することにより、予測研究に必要なプレート固着の不均質性を表現するモデルを作成しました。

南海トラフの3次元地震発生帯構造モデル

図5 本プロジェクトで構築した南海トラフの3次元地震発生帯構造モデル (Nakanishi et al. 2018)

 さらに本プロジェクトでは海底堆積物や津波堆積物などの地質痕跡の調査を実施し、過去の地震によって生じた諸現象の解明を進め、南海トラフから南西諸島にかけて歴史・先史時代の地震・津波履歴の情報を取得しました(図6)。駿河湾から四国までの沿岸陸域における調査(おもに津波堆積物調査)で得られた地震・津波履歴は、再来間隔が400~1000年であり、歴史地震の間隔より長く、また1つ1つのイベントのタイミングが東海・東南海の領域と南海の領域とで必ずしも一致しないことが分かりました。さらに、これらの津波の規模を評価するため、最大クラス想定津波浸水域で地質痕跡の分布を調べましたが、いわゆるL2規模の津波が起きた証拠はこれまでに見つかっていません。日向灘から南西諸島においても海陸で調査を行いましたが、琉球海溝沿いとの大連動地震を示唆する地質痕跡は今のところ確認できていません。

本プロジェクトで実施した地震履歴調査地点

図6 本プロジェクトで実施した地震履歴調査地点

3)シミュレーション分野古村 孝志

 本分野では、南海トラフ地震の震源像を明らかにし、想定される強震動と津波の予測と災害軽減に資するために、史料、地震データ解析、そして地震・津波シミュレーションに基づく研究を進めました。
 研究開始当初は、史料の精査による過去の発生パターンの明確化を期待していましたが、地震・津波記録や史料を精査したところ、これまで南海トラフ地震と考えられていたものの中には、南西諸島海溝沿いの地震と疑われるものや、内陸地震の可能性が高いものが含まれていることが分かりました(図7)。1605 年慶長地震(津波地震)が、遠地の地震であった可能性もあり、これまで以上に多様性が大きいことが明らかになってきました。

地震の年表

図7 史料の精査による南海トラフ地震の発生履歴の見直し

 多様性の原因として、近年の陸域・海底地殻変動データ解析から示されるように、プレート間の固着強度の地域性が考えられます。固着が強い場所にプレートのすべり遅れ(ひずみ)が蓄積して大地震が起きますが、近接領域との相互作用により発生間隔が変動すると考えられます。
 これを確認するために、構造探査結果を用いて地震発生サイクルシミュレーションを行い、数千年間の地震の再現を試みました(図8)。結果、100~200年間隔の繰り返しの中で、数百年に一度、宝永地震級の大規模地震が起きる様子が確認できました。これは、歴史資料や津波痕跡等から推定された巨大地震の発生間隔とも整合します。周囲で起きた地震で誘発され、時期が早まるケースも確認されました。この時、地震は小規模化し、次の大規模地震までの間隔が延びることがわかりました。
 また、明治時代からの水準測量データ等を用いて、昭和東南海・南海地震以後のすべり遅れの蓄積を推測して、今後起きる可能性の高い地震シナリオを検討しました。断層破壊シミュレーションに基づき、震源をいくつか仮定して地震の起きやすさと震源域の拡大の様子を調べました。得られた複数の地震シナリオの強震動と津波シミュレーションから、最小~最大の幅を持つハザード評価を試みました。
 さらに、将来のリアルタイム観測データに基づくプレート間の状態変化の把握と、今後の推移、そして大地震の発生予測に向け、物理モデルに基づく地震活動・地殻変動モニタリングシステムの研究開発を進めました。

地震発生サイクルシミュレーションの図 地震発生サイクルの変化を示している

図8 地震発生サイクルシミュレーションによる南海トラフ地震発生パターンの評価

まとめ)プロジェクト代表金田 義行

 ここまでは一部の詳細な研究成果を述べました。調査観測分野とシミュレーション分野では、南海トラフから南西諸島に至る3次元地下構造モデルの構築、南西諸島域での地震発生帯の詳細解析、南海トラフ地震発生帯の東海側と西側の四国側での地震津波発生パターンの多様性、推移予測精度向上のためのデータ同化手法の開発、低周波地震等の活動の多様性などの重要な成果が得られました。一方、防災分野では東日本大震災の教訓活用、詳細被害評価、地域連携、復興計画ならびに情報共有プラットフォーム構築といった各サブ課題の研究成果を統合した試行実験を愛知県碧南市で実施し、今後の災害対応のモデルと課題を提案しました。
 今後は南海トラフ地震に関する臨時情報などに貢献するために、より信頼性の高い推移予測のための詳細なリアルタイム情報発信の課題、ならびに防災課題の試行実験で明らかになった課題の解決など推進すべき研究課題も残されています。
 最後に本プロジェクト関係者、運営委員会委員、地域研究会等に協力いただいた皆様に深謝いたします。

著者プロフィール 金田 義行(かねだ よしゆき)

香川大学四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構副機構長、地域強靭化研究センター長、特任教授。海洋研究開発機構上席技術研究員。1979年東京大学理学系研究科大学院地球物理学専攻修士課程修了。理学博士。海洋研究開発機構で地震津波・防災研究プロジェクトリーダー等を務め、名古屋大学減災連携研究センター特任教授を経て、2016年より現職。地下構造研究、地震津波モニタリング研究、シミュレーション研究、減災科学研究に取り組んでいる。

著者プロフィール 福和 伸夫(ふくわ のぶお)

名古屋大学減災連携研究センター長・教授。専門は建築耐震工学、地震工学。1981年名古屋大学大学院工学研究科修了。工学博士。清水建設(株)で10年間勤務の後、1991年名古屋大学工学部助教授、1997年同先端技術研究センター教授、2001年同環境学研究科教授、2012年より現職。現在、地震調査研究推進本部政策委員長。

著者プロフィール 小平 秀一(こだいら しゅういち)

海洋研究開発機構海域地震火山部門 部門長・上席研究員。専門は海域地球物理学。北海道大学理学研究科地球物理学専攻で博士(理学)を取得。その後、北海道大学理学部を経て海洋研究開発機構(当時の海洋科学技術センター)に着任。2019年度より現職。海域地球物理観測によりプレート境界での地震、火山など変動現象とそれらに起因するハザードに関する研究を進めている。

著者プロフィール 古村 孝志(ふるむら たかし)

東京大学地震研究所災害科学系研究部門主任・教授。専門は地震学。1992年北海道大学理学研究科地球物理学専攻博士課程修了。博士(理学)。北海道教育大学講師、助教授を経て、2000年東京大学地震研究所助教授、2008年東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター教授、2015年より現職。地震調査研究推進本部強震動評価部会委員他を務める。

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