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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 富士川河口断層帯における重点的な調査観測

(広報誌「地震本部ニュース」令和2年(2020年)秋号)

富士川河口断層帯における重点的な調査観測

1.はじめに

 富士川河口断層帯は、駿河トラフのフィリピン海プレートと陸側プレート境界の陸上延長部に位置する大規模な活断層です。この断層帯で発生する地震像を明らかにするために、活断層帯の重点的な調査観測として、東京大学地震研究所を中心として、東京海洋大学・東海大学・防災科学技術研究所・地震予知総合研究振興会・東京工業大学・静岡大学などと研究チームをつくり、平成29年度の後半から令和元年度まで総合的に調査・観測を行いました。

2.プレート境界断層としての富士川河口断層帯

 地震像についての基本的な問題を解明するためには、この断層帯と東海地震の想定震源域である駿河トラフのプレート境界断層との関係を明らかにする必要があります。このため身延山地から駿河湾を横断し、伊豆半島西部に至る全長約60kmの区間で、地殻構造探査を実施しました。この探査では、陸上や海底に受振器を設置し、陸上ではボーリング孔での発破、海域でのエアガン発震を行いました(図1)。この結果、地殻深部を通過した地震波が捉えられ、駿河トラフ西側の海底断層は、西方に沈み込む伊豆-小笠原弧と陸側のプレート境界断層と直接連続していることが明らかになりました(図2)。この断層面を北方に延長すると、高分解能反射法地震探査によって断層の形状が明らかになった入山瀬断層(図3)に連続します。陸上では計5測線、合計29.6 kmに渡る区間で高分解能反射法地震探査を行い、変動地形学調査と合わせて、断層の位置・形状を明らかにしました。断層はいずれもプレート先端部に見られる低角度の逆断層で、一部は市街地側に伏在しています。
 震源断層であるプレート境界の三次元的な構造を明らかにするために、駿河湾において新たに海底地震観測を行い、防災科学技術研究所の陸上の地震観測網のデータと統合して、三次元地震波速度構造を明らかにしました。この速度構造を用いて再解析を行った過去の微小地震の発震機構解・繰り返し地震・低周波地震を用いて、震源断層の三次元形状を明らかにしました。得られた構造は、地殻構造探査の結果と一致し、震源断層モデルを構築することができました。
 こうした震源断層モデルとともに、強震動を予測するために、微動観測や海底地震観測データもあわせた地震観測データの解析により、表層までも含めた速度構造モデルを作成しました。速度構造モデルと震源断層の矩形モデルを用いて、プレート境界と富士川河口断層帯が連動したシナリオも含め現実的な強震動予測を実施しました(図4)。さまざまなシナリオが想定されますが、重要なことは強震動計算を可能にするモデルが構築できたという点です。

図1 富士川河口断層帯周辺の活断層と反射法地震探査測線
図1 富士川河口断層帯周辺の活断層と反射法地震探査測線
赤実線: 活断層[中田・今泉編, 2002: 「活断層詳細デジタルマップ」による]、
青実線: 反射法地震探査測線、Aは図3に対応、
黒実線:反射法・屈折法による地殻構造探査測線(図2)、
黒数字はCDP番号に対応、水色四角: 発破点。


図2 駿河湾横断反射法地震探査断面の解釈
図2 駿河湾横断反射法地震探査断面の解釈
数字は波線追跡法により求めたP波速度、紫破線: 地震波トモグラフィによるP波速度7 km/sの等速度線。


図3 富士川を横断する高分解能反射法地震探査断面の解釈
図3 富士川を横断する高分解能反射法地震探査断面の解釈
赤線: 断層、黒破線:推定した地質層準。


図4 想定地震の震源断層モデル
図4 想定地震の震源断層モデル
青い星印は破壊開始点。青線の矩形はアスペリティ領域、紫色の数字は断層面の上端深さ。


図5 地表面の計測震度分布図
図5 地表面の計測震度分布図
ケース番号の震源断層モデルは図4に対応。


3.富士川河口断層帯の過去の活動

 この断層帯で発生する巨大地震は、どの程度の切迫性があるのでしょうか。こうした疑問に答えるためには、富士川河口断層帯で長期間にどの程度のすべりを解消しているかを明らかにする必要があります。高分解能反射法地震探査によって明らかになった断層形状に基づいて、地形・地質データから断層に沿った実すべり速度を求めました。その値は年間約14mm程度となります。剛体プレートに基づく計算では、年間34mmの収束成分が求められており、概ね半分程度の収束成分が富士川河口断層帯で消費されていることになります。南海トラフでのフィリピン海プレートの収束成分が、全てプレート境界断層で消費されると考えると、南海トラフ沿いの地震の半分程度の割合で、富士川河口断層帯まで破壊が及んできた可能性を示唆しています。
 富士川河口部で実施した群列ボーリング調査によって、約700年前以降、富士川河口断層帯が活動した証拠を得ることができました。また、古い空中写真による航測図化や変動地形調査により、由比から蒲原にかけて海岸段丘を区分し、それらの離水年代から歴史時代における隆起イベントを抽出することができました。7世紀後半~8世紀末以前、10~11世紀以降・16世紀後半以前、17世紀半ば以前、19世紀以降に地震に伴う隆起運動があった可能性が高いことが分かりました。
 近世の地震史料には二次的な記述も多く、本事業ではとくに一次史料の抽出に注力して広域的に調査を行い、安政地震に伴う詳細な震度分布を明らかにしました。こうした震度分布は、強震動予測結果との対比により、過去の地震に伴って震源断層上でどのようなすべりが発生したかを理解する上で、重要な資料を提供しています。

4.おわりに

 こうした成果は、静岡市で開催した地域研究会を通じて、静岡・山梨県内の防災担当者に共有されました。本事業は、静岡県をはじめ各地方自治体や静岡県漁連などの支援と協力により実施することができました。以上の方々に深く感謝いたします。


文責

研究代表 佐藤 比呂志 (さとう ひろし)
東京大学地震研究所地震予知研究センター・教授専門は構造地質学。
1986年東北大学大学院理学研究科博士課程退学。
茨城大学理学部助手、東京大学地震研究所助手・同助教授、2004年より現職。

(広報誌「地震本部ニュース」令和2年(2020年)秋号)

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