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  3. 「屏風山・恵那山断層帯及び猿投山断層帯(恵那山-猿投山北断層帯)における重点的な調査観測」:開始に当たって

(広報誌「地震本部ニュース」令和2年(2020年)秋号)

「屏風山・恵那山断層帯及び猿投山断層帯(恵那山-猿投山北断層帯)における重点的な調査観測」 :開始に当たって

1.概要

 「屏風山・恵那山断層帯及び猿投山断層帯(恵那山-猿投山北断層帯)における重点的な調査観測」(令和2~4年度、代表:国立大学法人東海国立大学機構(名古屋大学・岐阜大学))が開始されました。
 本断層帯は恵那山地から知多半島に至る総延長100kmを超える長大な活断層帯で、周辺には名古屋市や豊田市などの都市が位置しています。本事業は断層帯北部(主に恵那山-猿投山北断層帯)について、地震発生長期評価および強震動予測の精度の高度化のための調査を実施します。
 従前の長期評価において、恵那山-猿投山北断層帯はランクA*、屏風山断層帯はランクA、猿投-高浜断層帯はランクZなどとされていますが、活動履歴や断層構造に関するデータは乏しい状況です。既存の活断層地図にも活断層の認定に相違があり、活断層相互の連続性は明確ではありません。
 本研究は1)変動地形調査、2)活動履歴調査、3)地下構造調査を行い、震源断層シナリオ(とくに活動区間)を再検討します。また4)強震動予測を高度化させ、さらに5)予測情報の適切な取扱に関する地域社会と協働した検討を行います。以上により、断層分布が複雑で活動区間の想定が容易でない地域における活断層評価手法・強震動予測手法の提案を目指します。


図1
図1 対象とする活断層と検討課題

2.サブテーマ1
   震源断層シナリオ評価のための詳細位置形状・変位量調査

●分担:名古屋大学
●協力:岡山大学、法政大学、東洋大学、東京大学、広島大学
 複雑な分布パターンをもつ恵那山-猿投山北断層帯等がどのような地震を起こすか予測するために、変動地形学的手法および試掘調査・極浅層探査を併用して、活断層線の詳細な位置・形状、変位量等の分布を調べることが重要です。サブテーマ1はLiDAR(レーザーレーダ)計測等により詳細な地形標高モデルを作成し、これに取り組みます。
 最終的にサブテーマ2と3の成果も考慮して、①想定される活動区間、②平均変位速度、③強震動予測の際のアスペリティ(断層面の中で強い地震波を出す領域)の位置、④断層の地下形状等を、信頼度やデータ充足度にも留意して取り纏めることを目指しています。

図2 研究テーマ関連図
「屏風山・恵那山断層帯及び猿投山断層帯(恵那山−猿投山北断層帯)における重点的な調査観測」研究テーマ関連図

図2 研究テーマ関連図

3.サブテーマ2
   地震発生予測のための活動履歴調査

●分担:産業技術総合研究所 ●協力:信州大学、富山大学
 将来の活動を予測するためには過去の断層活動の繰り返しを明らかにすることが重要です。サブテーマ2は、トレンチ掘削調査を複数地点で行い、過去の活動の際の活動区間、およびずれ量などを解明します。知見を他のサブグループと共有することで当該断層の活動像を明らかにしたいと思います。

4.サブテーマ3
   断層の三次元地下形状把握のための調査観測

●分担:名古屋大学
 断層の地下形状を明らかにすることは、強震動予測のためにも、活動区間や連動の可能性を検討する上でも重要です。サブテーマ3は、複数の断層の接合部付近を対象に物理探査を実施します。また、当該地域における過去数十年間の地震活動は高くないものの、微小地震が頻発した期間もありました。これに注目しての震源メカニズムを再解析して、 当該地域の地震活動の把握に努めます。

5.サブテーマ4
   断層近傍および都市域における強震動予測向上のための調査

●分担:防災科学技術研究所
 サブテーマ4は、強震動による被害が予測される震源断層ごく近傍や、周辺の大都市域を対象として、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)などの成果に基づいて構築された強震動予測のための広域地盤モデル(浅部・深部統合地盤モデル)に修正を加えます。また、地表断層や地下浅部の震源断層が強震動発生に及ぼす影響も考慮したいと思います。他のサブテーマの成果を詳細に聴き取り、予測の不確実さも考慮し、強震動の平均値だけでなく、予測幅についても提示することを目指したいと思います。

6.サブテーマ5
   不確定性を有する地震予測情報に関する情報発信の
   あり方に関する調査研究

●分担:名古屋大学、岐阜大学
●協力:関西大学、東濃地球科学研究所
 活断層調査に基づく地震発生可能性の長期評価は、そもそも大きな不確実性をもっており、信頼性、分かり易さ、活用方法等について検討の余地があります。サブテーマ5は、従来の評価の改善点を整理し、ハザード情報のより良い発信のあり方およびハザード情報活用の方向性を見出すことを目指します。地域社会と豊富な連携実績を活かし、地域社会と双方向で取り組みたいと思います。

著者プロフィール

鈴木 康弘

鈴木 康弘 (すずき やすひろ)

名古屋大学減災連携研究センター教授
1961年愛知県岡崎市生まれ。東京大学理学部卒。同大学院理学系研究科地理学専攻博士課程修了、博士(理学)。2004年より名古屋大学教授。専門は活断層・変動地形学、地理学。日本学術会議連携会員、地震調査研究推進本部専門委員。 著書に「活断層大地震に備える」(筑摩書店, 2001)、「原発と活断層」(岩波書店, 2013)、「防災・減災につながるハザードマップの活かし方」(岩波書店, 2015)、「レジリエンスと地域創生」(明石書店, 2015)、“Disaster Resilient Cities:Concepts and Practical Examples”(Elsevier, 2016)、「おだやかで恵み豊かな地球のために-地球人間圏科学入門」(古今書院, 2018)“Active Faults and Nuclear Regulation: Background to Requirement Enforcement in Japan” (Springer, 2020)など。

(広報誌「地震本部ニュース」令和2年(2020年)秋号)

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