パソコン版のウェブサイトを表示中です。

スマートフォン版を表示する

  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 全国を網羅する陸海統合地震津波火山観測網 MOWLAS

(広報誌「地震本部ニュース」平成29年(2017年)冬号)

調査研究機関の取組 全国を網羅する陸海統合地震津波火山観測網MOWLAS

●はじめに

 皆さんは、地震がどこで起こって震度いくつだったのか、緊急地震速報や津波警報がどのようなしくみで出されているのかご存じでしょうか。今日の天気や気温がどうであったのか、明日の天気がどうなるのかを知るために、全国くまなく気温・気圧や降水量を常に自動で観測するアメダスが設置され、そのデータを活用することで天気に関する様々な情報が私たちのもとに届けられています。同様に、地震に関しても全国くまなく観測が行われています(図1)。防災科学技術研究所(以下、「防災科研」)が全国に設置し運用しているMOWLAS(モウラス)はそのような仕組みの一つです。

図1 MOWLAS の観測点配置

図1 MOWLAS の観測点配置


●陸域の基盤観測網

 1995 年阪神・淡路大震災の発生により全国どこでも地震が起こる可能性があることがあらためて認識されました。それまでの観測体制では地震直後に迅速に事態を把握することが困難であったとの反省から、当時設置された地震調査研究推進本部の方針に基づき、防災科研により全国に基盤観測網が整備されることとなりました。
 基盤観測網は地震による被害の軽減と地震像の解明を目指し、地震発生の長期評価、地震活動の現状把握・評価、地震や津波のハザード評価、地震情報の早期伝達の四つを目的としています。基盤観測網の大きな特徴は、高精度で確実な観測を全国どこでも空間的にほぼ均質にカバーしていることです。
 一言に地震といっても、人が感じることのできないとても小さな地震から震度7のような被害を伴う大きなものまで様々な地震があり、様々な地震すべてを正確に観測するために我々は3 種類の道具立てを用いています。とても小さな揺れを測ることを得意とする高感度地震観測網Hi-net(全国に約800 地点)、逆にとても強い揺れを測ることが得意なのは強震(強い震動)網である全国強震観測網K-NET(約1050 地点)と基盤強震観測網KiK-net(約700 地点)、さらには、周期が数十秒以上に至る広帯域の地震波を測定することのできる広帯域地震観測網F-net(約70 地点)です。
 また火山噴火予測の実用化と火山防災をめざし、測地学分科会地震火山部会が定めた重点的に観測を行うべき全国で25 の火山を関係機関で役割分担し、防災科研では16 火山55 地点において基盤的火山観測網(V-net)を設置しています。

●海域の基盤観測網

 2011 年東日本大震災では、東日本の太平洋沖合における地震津波の観測体制の不足が津波警報の過小評価の一因であることなどが指摘されました。これを受け防災科研では、地震や津波の早期検知・情報伝達などを目的として、北海道沖から房総半島沖まで日本海溝沿いの海域150 地点において地震と津波をリアルタイムで観測するケーブル式の日本海溝海底地震津波観測網S-net を整備しました。
 また、近い将来巨大地震の発生が懸念される南海トラフ沿いの海域に海洋研究開発機構により整備された地震・津波観測監視システムDONET(51 地点)は、熊野灘沖をカバーするDONET1 と紀伊水道沖をカバーするDONET2 からなり、現在は防災科研に移管され運用されています。
 南海トラフの高知県沖から日向灘にかけては、巨大地震の発生が懸念される海域の西側であり、また現在観測の空白域であることから、今後の観測網整備が急がれる海域です。

●陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS)

 先に紹介した7つの観測網はいずれも防災を目的としたものであり、2017 年11 月より全国の陸から海域までを網羅する2100 以上の観測点からなる「陸海統合地震津波火山観測網」の本格的な統合運用が開始されたことを機に、公募により愛称を「MOWLAS」(Monitoring of Waves on Land and Seafloor:モウラス)とし、シンボルマークを制定しました。また、多くの皆さんにMOWLAS について知っていだだき、防災への関心を持っていただくことを目的に、シンポジウムなどを開催しました。
 地震は陸域でも海域でも発生し、また、海域の地震で発生したエネルギーは地震波として陸へ到達して被害を起こします。観測を陸域と海域に分けているのは観測技術の問題に過ぎず、陸域と海域の観測データを可能な限り統合的に解析できるよう研究を進めていくことが重要です。図2に示したのは陸海の観測データの統合処理による震源決定の一例です。左図に示したのは陸域のHi-netのデータから推定した地震、右図に示したのはそれに加え海域のS-net のデータを加えて解析した結果です。検知された地震の数Nが6437個から8194個へと3割近くも増加しているのみならず、日本海溝を挟む領域(赤枠内)で多くの地震が発生していることがわかります。

図2 S-net が加わったことによる地震検知への貢献

図2 S-net が加わったことによる地震検知への貢献

 

 阪神・淡路大震災を契機に整備された地震観測網のデータは防災科研、気象庁、大学などの関係各機関で一元化され、地震防災の強化に役立てられています。大きな地震が起こると、一元化されたデータをもとに気象庁により即座に緊急地震速報が発表され、約一分半後に各地の震度が、そして3 分後には津波警報が発表されます。これらに活用されているデータの収集やアーカイブなどのデータセンター機能は防災科研が担っており、一元化されたデータは様々な形態でユーザーに提供されています。
 また、陸域と海域の両方で地震や津波を捉えることにより、緊急地震速報や津波警報をより迅速に、あるいは高精度に出すことができるようになります。図3は2016 年に三陸沖で発生した地震を例に、陸域のHi-netのみを用いた場合に比べ海域のS-net を統合することで地震を捉える時間が22 秒早くなる様子を示したものです。地震や津波の早期検知という観点からは、海域における観測は人が住んでいない場所で先回りして現象を検知し、より早く警報を出すことを可能とします。地震が発生する場所にもよりますが、地震動で30秒、津波では20 分程度最大で検知が早くなることが期待されます。これらのデータを企業と連携して社会に実装し安全安心に活かすため、JR三社と協定を結び協力を進めています。地震の早期検知により、最大30秒早い新幹線の停止が可能となることが見込まれ、東北新幹線や上越新幹線の一部ではこのようなシステムがすでに稼働しています。

図3 2016年8月の三陸沖の地震における、(左)地震動の広がり、(右上)S-netによる地震波形、(右下)Hi-netによる地震波形

図3 2016年8月の三陸沖の地震における、(左)地震動の広がり、(右上)S-netによる地震波形、(右下)Hi-netによる地震波形

●おわりに

 日本列島は地震や津波、火山の噴火に備え、世界でも類を見ない規模の観測網MOWLASで全国が網羅されています。そこから得られるデータは広く共有されており、世界中で研究開発に活用され、また、緊急地震速報や津波警報、地震工学など震災の軽減に貢献しています。被害を伴う地震、津波や火山噴火の発生は低頻度とはいえ、観測網を長期にわたり安定的に維持し、災害に備えることが重要であり、また、さらなる利活用技術の研究開発と、観測体制が十分とはいえない一部の地域の充実化も今後の重要な課題といえます。

青井 真(あおい・しん)

青井 真(あおい・しん) 国立研究開発法人 防災科学技術研究所 地震津波火山ネットワークセンター長、レジリエント防災・減災研究推進センター 研究統括(戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の研究開発課題「津波被害軽減のための基盤的研究」研究責任者)、京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士課程修了、博士(理学)。専門は、地震観測・強震動地震学・数値シミュレーション。1996 年防災科学技術研究所に入所、地震津波火山観測網MOWLAS運用の統括、地震や津波に関するリアルタイム防災情報の研究、波動伝播に基づく地震動の大規模数値計算手法の開発に従事。

(広報誌「地震本部ニュース」平成29年(2017年)冬号)

このページの上部へ戻る

スマートフォン版を表示中です。

PC版のウェブサイトを表示する

パソコン版のウェブサイトを表示中です。

スマートフォン版を表示する