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(広報誌「地震本部ニュース」令和元年(2019年)冬号)
防災科研では文部科学省の補助事業として「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」(以下、「本PJ」)を2017年度より5か年計画で進めています。本PJでは「企業も強くなる首都圏も強くなる」を合い言葉に、「データ利活用協議会」(以下、「デ活」)を発足させ、研究から生まれた知見に基づき、産官学民が保有するデータを共有・活用することで、それぞれの組織の防災力を向上させることを目標にしています。(参照:https://www.jishin.go.jp/main/herpnews/2019/sum/herpnews2019sum.pdf)
デ活では、知見と情報を共有するために、年4回の公開シンポジウムを実施しています。初年度は本PJ全体の活動計画や先進的試みの紹介を、2年度目は社会科学・理学・工学の各分野からの最新の研究成果を紹介すると共に、デ活参加組織を中心として、企業・団体の独自の研究や防災の取組と、本PJの研究課題との関わりについて報告しました。そして、今年度は本PJと企業・団体が連携して取り組むテーマ別分科会活動の内容を紹介しています。
2019年12月16日に実施された第3回シンポジウム「企業も強くなる首都圏も強くなる~首都圏を襲う台風災害の怖さを改めて学ぶ」について報告します。
我が国で今年に起こった豪雨・台風により、首都圏を含み、同時多発広域災害が発生し、全国に長期的な影響を及ぼしています。例えば、台風15号では地方自治体等の危機管理能力が問題視されました。台風19号では140超の1級河川が決壊し、災害救助法の適用対象は14都県の391市区町村に及ぶなど、東日本大震災の際の10都県の241市区町村を更に超えました。これに追い打ちをかけて台風21号に見舞われる形となりました。
首都圏で震度7の地震が起きても、首都圏での被害のみならず、首都機能が停止し日本中に影響が起きる可能性がありますが、地震にしても台風にしても、発災後の対応プロセスの共通点は多く、地震も含めた広域災害にどう対応できるか、また、状況認識の統一の手法などを考えておくことは非常に重要となります。
そこで今回は、いつもの『基調講演』ではなく、『緊急報告』と題して始まり、防災科研が実践的に対応を進めている最新の取り組みについて紹介がなされました。防災科研理事長の林春男氏からは、ステークホルダーと直接関わるプロジェクトとして、首都圏レジリエンス研究プロジェクトに先行して進めてきた「気象災害軽減イノベーションセンター」についても触れ、地震災害だけではない展開への期待、ならびに、可視化した観測データに知恵を加えて人々の具体的な行動につなげられる情報プロダクツの提供に対する方向性などが語られました。
つづいて、3名の研究者からそれぞれ「SIP4Dを使った情報共有を充実させる」(取出研究員)、「衛星リモートセンシングを災害対応に活かす」(酒井研究員)、「豪雨のリスクを可視化する」(三隅研究員)と題した報告がありました。
まず、取出研究員からは、災害発生時に立ち上げる「防災科研クライシスレスポンスサイト(図1)」という災害情報を一元化してGIS上に表示するシステム、および、それに掲載するさまざまな災害情報をつなぐパイプラインとなっている仕組みであるSIP4Dについて説明がありました。そして、酒井研究員からは、水害被害の把握に有効であった国内外の衛星データの活用について、特に台風19号では、欧州から寄せられた東北地方の衛星データが役立ったことを説明しました。さらに、三隅研究員からは、防災科研で試験作成した「リアルタイム洪水・土砂災害リスクマップβ版」(図2)について、土砂災害危険度の推定や、内水氾濫が起こりやすい人口集中地区の表示などが可能であることが説明されました。台風19号では、内水氾濫は八王子市と相模原市、外水氾濫については多摩川とダムの緊急放流があった相模川のリスクが高かったことが示されました。
図1 令和元年台風19号に関する防災科研クライシスレスポンスサイト(災害救助法状況)
図2 レーダ雨量を用いた土砂災害危険度の推定(半減期72時間実効雨量)
デ活シンポの第2部では、前回の秋号(https://www.jishin.go.jp/main/herpnews/2019/aut/herpnews2019aut.pdf)でも紹介した「生活再建分科会」から台風19号の被害を受けた茨城県と福島県における「り災証明」発行のための取り組みが紹介された他、デ活の7つ目の分科会となる「インフラ分科会」ついてお披露目がなされました。
インフラ分科会長を務めるのは、首都圏レジリエンス研究プロジェクトのサブプロa分担責任者である岐阜大学工学部教授の能島暢呂氏です。能島氏からは「災害時に活かせる企業の情報、企業に活かせる災害情報」と題して講演がなされ、分科会員である首都高速道路㈱、東京ガス㈱、東京電力ホールディングス㈱、東京都水道局、東日本旅客鉄道㈱のメンバーも登壇しました。
大災害時は複数のインフラに同時に被害が発生することが見込まれ、重層的に関連するため1つでも途絶すると影響は多岐にわたります。そこで、道路・電気・ガス・水道および通信など災害対応において全てのインフラ情報を共有することは、災害対応の判断に不可欠となります。このインフラ分科会では、各種インフラの被害状況の集約と、分かりやすい復旧情報の発信に向けて具体的な議論を展開していきます。
さらに第3部のパネルディスカッションでは、「企業も強くなる首都圏も強くなる~首都圏を襲う台風災害の怖さを改めて学ぶ~」と題し、令和メディア研究所主宰、白鴎大学特任教授で元TBSキャスターの下村健一氏がモデレーターとなり、インフラ分科会の能島分科会長のほか、平田総括や第1部・2部で登壇した林理事長や田村統括がパネリストとなり、インフラ分科会で今後参画組織からどのようなデータがどのようにすれば提供可能か等について議論がなされました。
(広報誌「地震本部ニュース」令和元年(2019年)冬号)
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