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(広報誌「地震本部ニュース」令和元年(2019年)冬号)
2011年の東北地方太平洋沖地震は甚大な津波災害を引き起こし、津波対策は緊急の課題となりました。太平洋側ではプレート境界の断層が主要な津波波源となりますが、日本海には多数の断層が分布し、どのような規模の津波が発生するのか充分に解明されていません。こうした背景で、文部科学省の委託事業として、平成25年度から日本海地震・津波調査プロジェクト(研究代表:篠原雅尚)が開始されました。このプロジェクトでは、日本海とその沿岸地域において地殻構造探査を実施し、震源・波源断層モデルを構築し、津波・強震動のシミュレーションを実施しています。こうして得られた知見は、日本海側の道府県で開催する地域研究会を通じて、地震・津波災害に対する対策やリテラシーの向上に役立てられています。
日本列島に分布する活断層の長期評価は、基本的にはその断層の活動履歴に基づいて行われています。しかしながら日本海や沿岸の活断層については、ほとんどの断層について活動履歴が明らかにされていません。一方、プレート境界で発生する巨大地震と、M7クラスの内陸被害地震とは密接な関係があることが指摘されています。東北地方太平洋沖地震後に発生した日本列島が位置する陸側プレート内での大規模な地殻変動やプレート内部に作用する力の変化は、こうした指摘を裏付けるものです。東北地方太平洋沖地震の前には、2003年から2008年にかけて東北日本から北陸地方において被害地震が集中して発生しています。こうした関連性について、物理的なモデルを通じて説明できないか、またそうしたモデルを利用して日本海とその沿岸に分布する断層について、活動性(地震の起こり易すさ)の評価ができないかという研究を、このプロジェクトの中で続けてきました。このようなアプローチは、多くの人々が生活する平野下に伏在する活断層の長期評価にとっても重要なものです。ここでは、近年、内陸被害地震が発生した西日本を例として(図1)、震源断層にかかる応力の計算による地震の起こりやすさの評価事例について、紹介したいと思います。
断層面の形状としては、日本海地震・津波調査プロジェクトにおいて、地下構造探査から推定されたものを使用しています。また、2016年熊本地震を引き起こした布田川断層帯・日奈久断層帯においても応力を計算しました。
近年、コンピューターによる数値計算手法の発達により、地殻変動や地下の応力(断層などの面にかかる力を数学的に表現したもの)を直接計算することが可能になってきました。日本列島には1995年の兵庫県南部地震を契機として、1200点以上のGNSS(GPS)観測点が展開され、時々刻々と地殻変動が観測されています。そこで、地表の地殻変動データにコンピューターによる地殻変動計算を合わせることで、地下の応力も正確に推定することが可能になります。
図1に数値計算に用いたモデルを示しました。このモデルでは、日本列島下に沈み込む太平洋プレートとフィリピン海プレートの形状が表現されています。また、図2には、使用した西南日本の地殻変動データを示します。
図2 1998年から2010年の間の地殻変動。
図3に応力計算によって得られた結果を示します。応力がかかることによって地震が発生しやすくなるかどうかが、断層面の色によって表示されています。黄色-赤色であれば地震が発生しやすく、水色-青色であればその逆であるということを意味します。特に、地震が発生しやすいという結果が出た2005年福岡県西方沖地震と2016年熊本地震の震源断層で、実際にM7クラスの地震が発生したことは注目に値します。このことは、ここで示した応力計算により、被害地震を引き起こうる震源断層を絞り込むことができるということを示唆しています。日本海南部の断層については、大局的に、南北走向の横ずれ断層では地震が発生しやすく、東西走向の逆断層では地震が発生しにくいという結果になりました。
ここでは、地殻変動データとモデル計算を組み合わせて、日本海南部の震源断層にかかる応力を計算する手法を紹介しました。結果はM7クラスの2005年福岡県西方沖地震と2016年熊本地震の発生をよく説明するものとなっています。
図3に見られるように、同じような応力を受けている隣同士の断層でも形状の違いによって異なる結果を取りうることがわかります。したがって、震源断層のより正確な形状を、反射法探査などによって求めていくことが重要です。また、本研究では、それぞれの断層面の物性の違いが地震の発生しやすさに与える影響を考慮しませんでした。今後、活断層の平均変位速度などのデータを活用することで、より現実に近い、動き易い断層の絞り込みが可能となります。
(広報誌「地震本部ニュース」令和元年(2019年)冬号)
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