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(広報誌「地震本部ニュース」令和元年(2019年)夏号)
地震調査研究推進本部(以下「地震本部」という。)は、平成7年に発生した阪神・淡路大震災を契機として、地震に関する調査研究を政府として一元的に推進するために設置されました。平成11年4月には「地震調査研究の推進について―地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策―」(以下「総合基本施策」という。)を策定し、平成21年4月には、総合基本施策の策定以後10年間の環境の変化や地震調査研究の進展を踏まえた「新たな地震調査研究の推進について -地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策-」(以下「新総合基本施策」という。)(平成23年3月に発生した東日本大震災において地震調査研究に関する多くの課題等があったことから平成24年9月に改訂)を策定し、関係機関(関係行政機関、国立大学法人及び関係する国立研究開発法人。以下同じ。)は、この方針の下で地震調査研究を推進してきました。
地震本部は、その設置以来20年以上の期間にわたって活動を行ってきており、地震調査研究と、その成果の活用について一定の成果を上げてきています。他方、平成23年3月に発生した東日本大震災では甚大な被害が発生し、また、南海トラフ沿い、千島海溝沿い、相模トラフ沿いでは今後大きな被害を及ぼすと想定される大地震の発生確率が高いと予測されています。これらを踏まえると、地震・津波に関する諸現象を解明・予測するための地震調査研究を進め、その成果を明確かつわかりやすい形で社会に示し、災害による被害軽減に貢献していくという取組の重要性は、より一層増してきています。そこで、地震災害から国民の生命・財産を守り、豊かで安全・安心な社会を実現するという国の基本的な責務を果たすため、この10年間の環境の変化や地震調査研究の進展を踏まえつつ、将来を展望した新たな地震調査研究の方針を示す「地震調査研究の推進について―地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策(第3期)―」(以下「第3期総合基本施策」)を地震本部において策定することとしました。本施策は、今後の地震調査研究の基本となるとともに、地震本部の活動等の指針となるものです。以下、概略を紹介します。
地震調査研究は、「総合基本施策」及び「新総合基本施策」にしたがって、関係機関が連携・協力した体制の下で進められてきました。これまでの主な地震調査研究の進捗状況等を以下に示します。
地震本部が策定した「地震に関する基盤的調査観測計画」等に基づき、陸域を中心に、高感度地震観測網やGNSS観測網等、世界的にも類を見ない稠密かつ均質な基盤観測網が全国に整備されるとともに、その観測データの幅広い流通・公開が実現しました。このような基盤観測網で得られた地震観測データ等については、文部科学省と気象庁の協力の下、一元的に収集・処理され、地震調査委員会における地震活動の評価等に提供されています。
主要な海溝型地震及び活断層を対象とした調査観測・研究が実施されました。地震本部は、これらの調査観測・研究から得られた結果等に基づき、関係機関の協力の下、地震調査委員会において地震の長期評価を行い、順次評価結果を公表してきました。また、長期評価と強震動評価等の結果を結合した「全国地震動予測地図」を公表してきました。
緊急地震速報について、平成19年から一般向けの提供を開始しました。その後、同時多発地震や巨大地震にも対応できる新たな手法の導入や、関係機関の観測網のデータを新たに取り込むこと等により、緊急地震速報の迅速化、高精度化を図りました。
海域の観測網やGNSS観測網等を活用した津波即時予測技術の開発及び社会実装の試みが関係機関において精力的に実施されています。
陸域に基盤観測網が整備されたことにより、プレート境界において、大地震を発生させる固着域の周囲で様々な継続時間を持つスロースリップイベントが繰り返し発生していることが明らかになりました。また、海域における観測では、海底地殻変動を観測するための様々な技術開発が実用化に向けて進み、順次観測が行われており、海溝型地震の発生メカニズムの解明に資する様々な知見が蓄積されてきています。
東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえ、史料や観測記録だけでなく地質痕跡等の科学的根拠に基づき、低頻度の超巨大地震も想定して評価する手法へ改善を図ることとなりました。また、熊本地震の教訓を踏まえ、地震本部では新しい防災上の呼びかけのための指針として、平成28年8月に「大地震後の地震活動の見通しに関する情報のあり方について」をとりまとめ、地震発生直後においては、最初の大地震と同程度の規模の地震への注意を、一週間程度後には発生直後と平常時を比較した場合の地震発生確率に基づいた数値的見通しを提示するなど、注意の呼びかけを行うことなどが示されました。
中央防災会議が平成29年9月にとりまとめた「南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対策のあり方について(報告)」では、確度の高い地震の予測は現在の科学的知見では難しいことや、被害をより軽減するため、現在の科学的知見を十分に活用し、あらかじめその対応を考えることが重要であることが述べられており、それを踏まえ、新たな防災対応が定められるまでの当面の対応として、平成29年11月から「南海トラフ地震に関連する情報」の発表を開始するなど、不確実ではあるものの、大規模地震発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まっていると評価された際の防災対応へと方向性が大きく変わってきています。
今後、南海トラフ沿いの地震、千島海溝沿いの地震、相模トラフ沿いの地震といった甚大な被害が想定される海溝型地震が、高い確率で発生すると見込まれています。また、陸域における地震についても、その震源は浅い場合が多いため、今後も熊本地震のような大きな被害が想定される地震の発生のおそれがあります。
このような状況を踏まえ、地震本部は、地震災害から国民の生命・財産を守り、安全・安心な社会の実現に貢献するため、将来発生し得る地震に関して、一般国民や防災関係機関の期待を踏まえた形で、更に精度の高い地震発生予測、津波即時予測及び津波予測(津波の事前想定)、地震動予測及び地震動即時予測を実現し、その成果を適切に一般国民、防災関係機関等に提供する取組を推進していきます。
近年のIoT、ビッグデータ、AIといった情報科学分野を含む科学技術の著しい進展も踏まえ、従来の技術による地震調査研究に加え、新たな科学技術を活用して、防災・減災の観点から社会に対して更なる貢献をしていくことが期待されています。
また、地震本部の成果を多様な主体における活用につなげることで、我が国全体の地震の被害軽減に貢献するため、地震本部は、防災・減災への対応を担当する政府機関、地方公共団体、民間企業等とのコミュニケーションをより緊密に行い、これら各関係者の有する地震本部への期待やニーズを踏まえた上で、地震の調査研究を推進していくべきです。
このような取組を推進し、「社会の期待を踏まえた成果の創出~新たな科学技術の積極的な活用~」を実現することにより、我が国における地震分野の防災・減災に貢献していくことが、これからの地震本部の重要な役割となります。
海溝型地震の発生予測手法を高度化し、長期予測の精度向上に貢献していくとともに、海溝型地震発生後の地震活動の推移予測手法の高度化に取り組むことが重要です。
地震の評価について、一定の地域を設定して地震発生確率を算出する地域評価を全国において早急に完成させるとともに、既知の活断層及びそれ以外の震源断層について、断層モデルの構築等による評価手法の研究を推進することが重要です。
地震動及び津波の即時予測は、観測網の充実や予測手法の高度化により、更なる迅速化及び高精度化を実現できることから、防災関係機関や地方公共団体からの期待も高く、地震本部として、これを推進していくことが重要です。
海溝型地震の発生予測手法について、プレート間固着・すべりの状況やスロースリップ現象に関するリアルタイムでの観測手法の開発等を目指し、各種観測データの充実や予測手法の高度化が必要です。これにより、将来的に、海溝型地震の発生の予測精度を向上させるとともに、プレート間固着・すべりの現状把握やその後の地震活動推移予測に貢献していくことが重要です。
津波即時予測については、より迅速に、より高い精度で津波警報等を更新する技術が期待されるとともに、沿岸地域における津波の遡上予測手法の高度化等についても、更なる災害軽減の観点から重要です。
また、津波予測技術の高度化を図り、津波予測情報の提供を行うことが重要です。
活断層に関する調査研究手法等について、現行の調査手法を高度化しつつ、最新の知見も踏まえながら、より効果的、効率的な調査手法を開発することが重要です。
陸域・海域の地震について、統計地震学の手法を用いた、前震―本震―余震型の地震の発生確率の評価に向けた研究や大地震発生後の揺れの空間分布の予測に向けた研究を推進することが期待されています。
地震動即時予測の高精度化、迅速化の推進や、引き続き運用機関と研究者が連携して地震動即時予測の高度化に取り組むことが期待されます。また、長周期地震動についても、その即時予測技術についての高度化や社会実装に向けた技術開発が望まれます。
防災・減災への対応を担当する政府機関、地方公共団体、民間企業等とのコミュニケーションをより緊密に行い、各関係者の有する地震本部への期待やニーズを踏まえた上で調査研究を推進すること、そして、理学、工学、社会科学の分野の研究者が連携して、ICTを含む新たな科学技術の活用により調査研究を進めることが重要です。
基盤的かつ重要な観測設備について、引き続き維持、運用しつつ、更新に向けた準備を進めていく必要があります。
また、全国的に展開することは困難であるものの、実施することが非常に有効であると考えられる調査観測についても充実、強化を図る必要があります。
また、これらの基盤観測等から得られる観測データについて、円滑なデータの流通・公開を促進するとともに、リアルタイム地震情報を利活用可能とする技術の開発及び体制構築を推進します。
地震調査研究の成果や魅力をわかりやすく伝えるための資料の提供など、地震本部のみならず関係機関、研究者による積極的なアウトリーチ活動を推進します。
地震本部の成果が、防災対応の担い手のニーズを踏まえた形で、また、現段階において科学面からわかる部分を明確にした上で情報提供され、適切に活用されることが重要です。
地震本部の成果が国際的に活用されるよう、観測データの幅広い流通・提供、二国間及び多国間の協力枠組みによる成果の発信、展開を推進します。
また、地震調査研究について、国際共同研究・海外調査を推進します。
第3期総合基本施策で設定した基本目標を確実に達成するため、関係機関は、地震調査研究の推進に必要な予算の確保に向けて、最大限努力します。
地震本部は、関係機関の地震調査研究関係予算の事務の調整を適切に行うとともに、第3期総合基本施策に基づき、地震調査研究の着実な推進が図られるよう、我が国全体の地震調査研究関係予算の確保に努めます。
(広報誌「地震本部ニュース」令和元年(2019年)夏号)
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