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  3. 文部科学省委託業務 『平成28年熊本地震を踏まえた総合的な活断層調査』プロジェクトの概要と成果

調査研究レポート 文部科学省委託業務 「平成28年熊本地震を踏まえた総合的な活断層調査」プロジェクトの概要と成果

1)プロジェクトの背景と目的

 平成28年熊本地震(以下「熊本地震」という)は、マグニチュード(M)6.5と7.3の2つの地震が発生し、熊本県益城町で震度7を記録するなど、九州中部域に大きな被害をもたらしました。この熊本地震は、M6.5とその後のM6.4の地震で日奈久断層帯の一部が、M7.3の地震で布田川断層帯の一部が主に活動したものであり、今後も同断層帯において内陸地震の発生が懸念されます。
 このため、本プロジェクトでは、4つの調査項目:「活断層の活動区間を正確に把握するための詳細位置・形状等の調査及び断層活動履歴や平均変位速度の解明のための調査観測」(主実施機関:産業技術総合研究所)、「断層帯の三次元的形状・断層帯周辺の地殻構造の解明のための調査観測」(主実施機関:九州大学・鹿児島大学)、「断層帯周辺における強震動予測の高度化のための研究」(主実施機関:京都大学)、および「関係自治体との連携による調査成果の普及と活用の実践的研究」(主実施機関:熊本大学)について調査研究を実施し、布田川断層帯と日奈久断層帯の基本情報の高度化を図り、それらに基づいて強震動予測の高精度化をめざしました。

2)布田川断層帯および日奈久断層帯の位置・形状と活動履歴

 図1に布田川断層帯・日奈久断層帯の分布と本プロジェクトによる活動履歴調査地点を示します。布田川断層帯は、九州中西部を東北東-西南西方向に延びる断層帯であり、布田川区間、宇土区間、宇土半島北岸区間に区分されています。また、日奈久断層帯は、北東-南西方向の断層帯であり、高野-白旗区間、日奈久区間、八代海区間に区分されています。このうち、熊本地震に伴って、布田川断層帯・日奈久断層帯の一部において地表に地震断層が現れました(図1の赤線の部分)。

布田川断層帯・日奈久断層帯の分布と活動履歴調査地点

図1 布田川断層帯・日奈久断層帯の分布と活動履歴調査地点

 熊本地震の地震断層(図2)は、総延長約31-33km、幅2-3kmの断層帯を形成しており、布田川断層帯では右横ずれ2.5m程度、南東側隆起2m程度の変動が生じたことが明らかになりました。また、日奈久断層帯の高野-白旗区間では横ずれ0.7m、北西側隆起0.2mの変位が生じたことが明らかになりました。さらに、主要な地震断層の周辺には、変位量が0.2m以下の副次的な地震断層がおおよそ35km四方の範囲に生じたことが確認されました。一方、阿蘇谷西部の黒川沿いの低地に出現した幅狭い地溝を伴う断裂群は地震断層ではなく、大規模な側方流動に伴うものと考えられます。

熊本地震に伴う地震断層と側方流動の分布

図2 熊本地震に伴う地震断層と側方流動の分布

 布田川断層帯における古地震調査は、阿蘇カルデラ内と上益城郡益城町島田の2箇所(図1)で実施されました。このうち阿蘇カルデラ内の南阿蘇村沢津野におけるトレンチ調査の結果、最新活動は1800~1300年前、平均活動間隔は最長で約2800年と見積もられました。一方、宇土区間の益城町島田の調査地点では、熊本地震に伴い地震断層が出現しましたが、地震断層を横断するトレンチ調査の結果、明瞭な地層の変形は認められませんでした。しかし、過去の断層活動イベントが認定され、その時期は約16000年前以降で約2800年前以前と推定されました。
 日奈久断層帯における古地震調査は、高野-白旗区間1地点(上益城郡甲佐町白旗山出)と日奈久区間2地点(宇城市小川町南部田および八代市川田町)の計3地点(図1)で実施されました。その結果、高野-白旗区間の山出地点の最新活動時期は約1400~1100年前であり、平均活動間隔は最長で約2800年と見積もられました。一方、日奈久区間の南部田地点の最新活動時期は約1900~1100年前、平均活動間隔は最長で約3400年と見積もられました。同じく日奈久区間の川田町西地点では、最新活動時期は約3100~1000年前であると見積もられました。八代海区間については、八代海津奈木沖(図1)の断層について、反射データとボーリング試料の解析から、最新活動時期がおおよそ1600年前であり、活動間隔は2800年程度と推定されました。
 布田川断層帯と日奈久断層帯の活動履歴について、本プロジェクトによる調査結果を既存の調査結果と合わせてまとめたものを図3と図4に示します。図3から、布田川断層帯布田川区間(阿蘇カルデラ区間を含む)では、おおよそ2~3千年に1回以上の頻度で地震をくり返してきたと推定され、熊本地震前の地震調査研究推進本部による評価(8100~26000年)より頻繁に活動している可能性があります。また、布田川断層帯宇土区間については、布田川区間と比較すると活動性が低い可能性があります。図4から、日奈久断層帯でも、おおよそ2~3千年に1回の頻度で活動していることが読み取れますが、宇城市小川町付近以南の日奈久区間については、約5700年と活動間隔が他区間よりも長い可能性があります。
 日奈久断層帯については、地形学的な情報に基づき、区間分けについても検討を行い、従来の境界に加えて、八代市東部と八代海区間の北端付近の走向の屈曲を構造境界として提案しました。それにより、高野―白旗区間(長さ約16km)、日奈久区間北部(同約18km)、日奈久区間南部(同約25km)、八代海区間(同約24km)の4区間に区分しました(図1、図4)。

布田川断層帯の活動履歴
図3 布田川断層帯の活動履歴
縦軸は暦年較正年代、横軸は調査地点。
島田地点、沢津野地点は本研究による。*1:電力中央研究所(2018)、*2:電力中央研究所(2018)、*3:熊原・他(2017b)、*4:熊原・他(2017b)、*5:遠田・他(2018)、*6:電力中央研究所(2018)、*7:電力中央研究所(2018)、その他は地震調査研究推進本部地震調査委員会(2013)による。
日奈久断層帯の活動履歴
図4 日奈久断層帯の活動履歴
縦軸は暦年較正年代、横軸は調査地点。
津奈木、川田町西、南部田、山出地点は本研究による。*1:八木・他(2016)、*2:文部科学省研究開発局・国立大学法人九州大学(2018)、その他は地震調査研究推進本部地震調査委員会(2013)による。

3)断層帯の三次元的形状と断層帯周辺の地殻構造

 熊本地震の震源域において稠密地震観測を実施し、高精度震源決定により熊本地震の震源断層を推定しました。その結果、2016年4月14日の前震や16日の本震の破壊開始点が位置する布田川断層帯と日奈久断層帯の接合領域では、複数の面状震源分布が混在し、複雑な断層構造をしていることが明らかになりました。また、熊本地震発生以前の背景地震活動の深さ分布や起震応力の空間分布から、熊本地震の本震の震源断層の幅(下端)やすべり方向を推定可能であることが示されました。
 断層帯の電磁気学的な構造については、広帯域MT調査を実施して深部比抵抗構造を明らかにしました。その結果、熊本地震の震源域の深部には低比抵抗領域が存在し、本震の破壊開始点は低比抵抗領域の縁に位置すること、本震時の大すべり域は高比抵抗領域に対応していることが明らかになりました(図5)。これらのことは、地震発生時の破壊開始に流体が強く関与していることを示唆しています。また、これらの特徴は、同断層帯の未破壊領域の破壊開始点や大すべり域を、比抵抗構造からある程度推定できる可能性を示しています。
 これらの地震観測や電磁気学的調査に加え、熊本平野において反射法地震探査を実施し、同平野南部に伏在が推定される布田川断層帯宇土区間の断層位置を推定しました。さらに、GNSS連続観測により、布田川・日奈久断層帯およびその周辺域の地殻のひずみ場と熊本地震発生後約3年間の余効変動を高い空間分解能で明らかにしました。

熊本地震の震源断層に沿った比抵抗分布の断面図
図5 熊本地震の震源断層に沿った比抵抗分布の断面図
暖色になるほど比抵抗が小さくなる。
星印は本震の震源、○印はM4.7以上の地震の震源、コンターはAsano and Iwata(2016)による本震の大すべり域である。

4)断層帯周辺における強震動予測の高度化

 精度の高い強震動予測のためには、断層帯周辺域の地下構造を詳細に知る必要があることから、既存の地下構造情報を収集するとともに、特に速度構造情報が不十分である平野部において反射法地震探査とアレイ微動観測等を実施しました。その結果、八代平野における堆積層基盤面は、日奈久断層を境に西側(八代平野)が約500mも沈降していることが明らかになりました(図6)。さらに、この反射地震断面による構造情報に深井戸ボーリングの資料やアレイ微動観測の結果も併せることにより、八代平野の堆積層内および基盤におけるS波速度構造に関する基礎情報が得られました。また、八代平野と熊本平野の接合部や天草諸島、葦北地域及び人吉盆地地域においても微動観測が行われ、S波速度構造及び堆積層厚に関する情報が得られました。これらの情報に加えて断層帯近傍の観測点サイト特性評価や深井戸の地質柱状図などの資料も踏まえ、対象地域の三次元地下速度構造モデルを高度化しました。
 また、布田川・日奈久断層帯に関する既往情報や、本プロジェクトで得られた調査データや解析結果を用いて、震源断層モデルを構築しました。震源断層モデルとしては、日奈久断層帯の日奈久区間南部に対して、鉛直断層面を想定した場合と、傾斜角50度で八代平野の下に震源断層が存在するケースを想定しました。この震源断層モデルと地下構造モデルを用いて、強震動予測レシピによる強震動予測を行いました。その1例を図7に示します。強震動シミュレーションの結果、想定した震源断層面に近く、堆積層構造の地域は、震度6弱以上の揺れに見舞われる可能性が高いことが示されました。

反射法地震探査・八代測線の深度断面図の解釈図
図6 反射法地震探査・八代測線の深度断面図の解釈図
断面図の右端付近が日奈久断層帯の位置。Y3は深井戸ボーリングの地質柱状図。
日奈久断層帯の想定震源断層で地震が発生した場合の震度予測例
図7 日奈久断層帯の想定震源断層で地震が発生した場合の震度予測例
日奈久区間南部の傾斜角が50度、日奈久断層帯の北端から破壊した場合。赤色やピンク色の星印は破壊開始点を示す。

5)関係自治体との連携による調査成果の普及と活用

 本プロジェクトは、大規模な被害地震直後の調査であったため、調査に際しては熊本県の市町村防災担当者の研修プログラム等を活用してプロジェクトの目的と内容を周知し、関係自治体と密接な連携を行うことで、調査研究の円滑な推進を図りました。
 調査結果の防災への利活用については、ヒアリング調査を実施して関係自治体の要望を把握し、その結果を踏まえて、熊本地震に関するデータベース・ポータルサイトを構築し、本調査研究の成果をアーカイブしました。また、防災教育に関しては、熊本県内の市町村において防災・減災講座や教員研修などを実施するとともに、トレンチ調査を利用した授業を実施し、教材として断層露頭の剥ぎ取り標本を作成しました。

6)今後にむけて

 本プロジェクトでは、熊本地震を引き起こした布田川・日奈久断層帯について総合的な調査がなされ、同断層帯の基本情報が高度化されました。しかし、布田川断層帯宇土区間や宇土半島北岸区間については情報が少なく、今後は調査観測手法も含めて検討する必要があります。また、日奈久断層帯についても、今後さらに詳細な活動履歴調査により、区間分けの再検討や連動性の評価を行うことが必要です。
 強震動予測の高度化に関しては、反射法地震探査や微動観測などの各種調査によって対象地域の地下構造モデルを高度化し、従来よりも高い精度で強震動予測を実施することができました。今後、強震動評価のさらなる高度化のためには、震源断層モデルの高精度化に加えて、地盤の非線形性をよりよくモデル化する計算法の開発や、浅い地盤の動的特性資料などが必要です。
 本調査結果の普及と活用に関しては、データベース・ポータルサイトを構築しましたが、今後はこのデータベースの充実とポータルサイトの効果的な運用が課題です。
 本調査研究に際しては、熊本県をはじめ熊本県内の関係自治体や国土交通省、気象庁、住民の皆様のご理解とご協力をいただきました。記して御礼申し上げます。

著者プロフィール
清水 洋(しみず・ひろし)

九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター長・教授。専門は観測地震火山学。1985年東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻博士後期課程修了、理学博士。九州大学理学部助手、助教授、教授を経て2004年より現職。平成28~30年度「平成28年熊本地震を踏まえた総合的な活断層調査」研究代表者。現在、地震調査研究推進本部地震調査委員、「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」運営委員長、気象庁火山噴火予知連絡会長などを務める。

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