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(広報誌「地震本部ニュース」平成30年(2018年)春号)
富士川河口断層帯は、日本列島の陸域では最大クラスの平均変位速度を示す大規模な活断層です。伊豆衝突帯の西縁に位置し、駿河トラフのフィリピン海プレートと陸側プレート境界の陸上延長部に相当します。本断層帯は陸上の活断層としての重要性のみならず、南海トラフで発生する海溝型地震の長期評価にも影響を与えるものです。さらに、本断層帯は人口稠密域かつ大規模経済圏を繋ぐ動脈上に位置していることから、本断層帯から発生する地震像を明らかにしていくことは社会的にも重要な意味があります。こうした背景から、平成29年度の後半から、東京大学地震研究所・東京海洋大学・東海大学・地震予知総合研究振興会・東京工業大学・静岡大学などの合同チームで、重点的な調査観測を開始いたしました。調査は、平成31年度まで継続する予定です。
富士川河口断層帯については、これまで多くの研究が行われてきましたが、断層帯の多くが富士山の溶岩などの火山噴出物に覆われていることや、市街地を通過していることなどから、断層の実態や発生する地震像について不明な点が多く残されています。今回の調査では、これまでの研究成果を踏まえて、身延断層も含めて総合的な調査・観測を行います。
富士川河口断層帯とプレート境界断層の関係について、未だ充分な資料が得られておりません。このため地下に弾性波を投射して地下構造を明らかにする制御震源による構造調査や、自然地震観測を実施します。平成29年度には、断層帯を横切る三つのルートで中型バイブロサイス車を使用した稠密な反射法地震探査を実施しました(図1)。火山噴出物下の複雑な短縮構造や断層の形状が明らかになることが期待されます。海域においても、東京海洋大学が既に取得した反射法地震探査の資料の統合解析を実施しています。こうした調査で明らかになる断層形状は地下2〜3kmの比較的浅いものです。プレート境界との関係を明らかにするためには、より深い断層の形状を明らかにする必要があります。このため平成30年度には伊豆半島から駿河トラフ北部を横断して赤石南部山地に至る区間で、海陸統合地殻構造探査を実施します。東京海洋大学の「神鷹丸」に搭載したエアガンや、陸上の発破による弾性波を海底地震計や陸上の受振器で観測し、深さ10kmを越す深さまでの断層の形状を明らかにします。
震源断層の形状を理解する上で、自然地震による構造解析や詳細な震源分布を明らかにすることは重要です。ここでは防災科学技術研究所が展開している地震観測網のデータや、東海大学が駿河湾北部で実施している海底地震観測のデータを追加して、海陸にまたがる富士川河口断層帯周辺の速度構造、震源分布、発震機構解の解析、レシーバ関数解析、繰り返し地震などを利用して、震源断層の形状を求めます。制御震源による構造探査のデータと合わせ、震源断層の三次元モデルを構築します。これらの情報は、震源断層から発生する強震動の伝搬を予測する上でも重要なデータとなります。
図1 平成29年度に実施した反射法地震探査測線(青線)
赤線は中田・今泉編(2001)による富士川河口断層帯の位置
断層帯の活動履歴・平均変位速度を明らかにすることは、将来、この断層帯から発生する地震像を明らかにする上で極めて重要です。富士川河口断層帯および身延断層など駿河トラフ周辺の活断層・活構造について、その分布・形状・活動性・平均変位速度を解明します。平成29年度には、芝川断層沿いに新期の断層変位地形(低断層崖)を見出しました(図2)。そこで、富士宮市上柚野にてトレンチ調査を実施し、完新世後期の砂礫層と切断する衝上断層の露頭が出現しました(図3)。今後は、取得したデータや知見を元に、本断層帯の分布・形状、平均変位速度、過去の活動に関するデータを取得していく予定です。
図2 芝川断層の概略位置図。星印は上柚野トレンチ掘削地点 u:隆起側、d:低下側
右上の写真はトレンチ掘削地点付近で完新世後期に形成された扇状地性段丘面を横断する低崖地形
図3 芝川断層・上柚野トレンチの写真
プレート間地震も含めて、本断層帯の活動を歴史文書から検討することは、将来発生する地震を予測する上で重要です。史料地震学的手法により、1854年安政東海地震の震源域の北端を詳細に検討することを含め、とくに近世を中心とした歴史時代における本地域周辺の地震像を解明します。
富士川河口断層帯など本プロジェクトで対象とする断層から発生する強震動を予測することは、防災対策の基礎となります。このため、既存の地下構造データを収集するとともに、新たに強震観測や微動観測などを実施し、地下構造データの蓄積を図ります。これらの地下構造データを統合し、浅部および深部地盤の構造モデルの精度を向上させます。本プロジェクトで得られた震源断層形状を基に震源断層モデルを構築し、強震動予測の高度化を目指します。
理工学的な調査の成果を地域の防災施策に根付かせるために、特に地方自治体・国の関係機関・ライフライン事業者などを対象として、研究者が参加する地域研究会を開催します。ここでは、本調査観測に対するニーズを把握した上で、研究成果を地域防災に資する取り組みを行ないます。
多面的なデータを総合的に検討することにより、この断層帯から発生する地震像を解明したいと考えています。
東京大学地震研究所地震予知研究センター・教授
専門は構造地質学。
1986年東北大学大学院理学研究科博士課程退学。
茨城大学理学部助手、東京大学地震研究所助手・同助教授、2004年より現職。
(広報誌「地震本部ニュース」平成30年(2018年)春号)
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