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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 長周期地震動の予測情報に関する実証実験について

(広報誌「地震本部ニュース」平成30年(2018年)秋号)

長周期地震動の予測情報に関する実証実験について—気象庁、防災科学技術研究所—

1.はじめに

 大地震に伴い発生する、周期(揺れが1往復するのにかかる時間)が長い大きな揺れのことを長周期地震動といい、高層ビルなどを大きく長時間揺らし、被害を発生させることがあります。長周期地震動は遠くまで伝わりやすい性質があり、例えば、平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震では、震源から遠く離れた東京都内や大阪市内の高層ビルで低層階よりも高層階で揺れが大きくなり、家具類の転倒・移動やエレベーターが停止するなどの被害がありました。
 近い将来に発生が懸念される南海トラフ沿いの巨大地震などでは、長周期地震動によって高層ビルが集中する大都市圏で大きな被害が発生するおそれがあります。
 これらの状況を踏まえ、長周期地震動による被害軽減を図る目的で、気象庁は平成23年度から有識者を交えて長周期地震動の情報についての検討会を開催しています。長周期地震動の観測結果について、平成25年3月からは長周期地震動による揺れの大きさを4段階の「長周期地震動階級」(図1)で示す「長周期地震動に関する観測情報」を気象庁ホームページで試行的に提供してきました。(URL: https://www.data.jma.go.jp/svd/eew/data/ltpgm/index.html)また、長周期地震動の予測についても、平成28年度に取りまとめられた「長周期地震動に関する情報検討会」の報告書では、将来的に緊急地震速報の基準として長周期地震動の予測結果を取り込み、長周期地震動階級3以上を予測した地域にも緊急地震速報(警報)を発表することとしています。


図1 長周期地震動階級と高層ビルにおける人の体感・行動、室内の状況等との関連
図1 長周期地震動階級と高層ビルにおける人の体感・行動、室内の状況等との関連

2.多様なニーズに対応する予測情報について

 前項のとおり、気象庁では、広く一般国民向けに長周期地震動の情報を提供することを検討しています。一方で、長周期地震動による揺れは個々のビルごとに異なるので、エレベーターの制御や館内放送等に利用するにはよりきめ細やかな情報が必要になります。それぞれのニーズに対応する情報の提供においては、民間事業者の役割も重要です。そのため、気象庁では平成29年から「多様なニーズに対応する予測情報検討ワーキンググループ」(以下「WG」という。)を開催し、各業界団体の関係者に具体的な事例を紹介していただきながら、長周期地震動の予測情報に対してどのようなニーズがあるのか、また予測技術としてどのような手法があるのか、ということについて議論をしています。これらの議論の結果は、平成30年度末までに報告書として取りまとめられる予定です。
 長周期地震動に関する予測情報については、長周期地震動の揺れを事前に予測し、備えることで被害の軽減に役に立つ情報ですが、全く新しい情報であるため、実際に提供するにあたってどのような問題があるのかを十分に検証する必要があります。防災科学技術研究所(以下「防災科研」という。)では、緊急地震速報(予報)で発表される震源のデータを使って長周期地震動の予測を行い、さらに全国の観測点からのデータもリアルタイムで取り込み提供するシステムを開発しています。気象庁と防災科研では、上記WGの下、この防災科研のシステムを用いた「長周期地震動の予測情報に関する実証実験」(以下「実証実験」という。)を行っています。
 
【参考】「長周期地震動の予測情報に関する実証実験(第1期)」のページ(防災科研のHP)
https://www.lmoniexp.bosai.go.jp/

 実証実験では2つの実験を行っています。
 ひとつめの実験は、防災科研が開発した「長周期地震動モニタ」(図2)を使った実験です。「長周期地震動モニタ」では、防災科研が運用する地震観測網から送られたデータを基に長周期地震動の揺れの様子がリアルタイムに常時表示されます。地震が発生し、気象庁から緊急地震速報(予報)が発表されると、緊急地震速報の震源とマグニチュードを用いて計算された長周期地震動の予測結果が地図上に表示され、予想される最大の長周期地震動階級も数値としてテキストボックスに表示されます。
 平成29年度の第1期の実証実験(平成29年11月〜平成30年3月)では、約1,500人にユーザー登録いただき、長周期地震動の予測情報を利用していただきました。平成30年度は、第1期のアンケートの結果等を踏まえ、予め登録した地点における予測情報を数値表示するなどの改善を行い、10月に第2期実証実験のユーザー募集を開始します。
 第2期の実証実験でも引き続き参加者からの意見を募り、長周期地震動の情報をより利用しやすい情報にするために、内容を検討していきます。
 もうひとつの実証実験は、数値データとして長周期地震動の予測結果を実験参加者に提供し、参加者側でどのようにデータを加工すれば有効利用が可能かを検討する実験です(図3下部)。この実験では、WebAPIという仕組みを用いて、実験参加者が指定した場所の観測データや予測結果を数値データとして取得することができます。参加したWG関係者では、例えば高層ビルの管理センターの職員が、管理しているビルのピンポイントの揺れの予測情報について入手することができ、防災の初動対応等に使われているほか、今後はエレベーターの制御にも使って、地震の揺れが伝わる前にエレベーターを停止させ、閉じ込め防止に役立てることができるように検討しています。

図2 長周期地震動モニタ
図2 長周期地震動モニタ

図3 長周期地震動の予測情報に関する実証実験のイメージ
図3 長周期地震動の予測情報に関する実証実験のイメージ

3.今後にむけて

 長周期地震動については、東日本大震災における東京や大阪での高層ビルの被害などが報じられ、一般の方にも知られるようになってきました。一方でその対策は十分ではなく、長周期地震動の情報の利活用についても、残念ながら多くの方に認知されているとはいえない状況です。国民一人ひとりに長周期地震動について理解していただき、事前の備えや地震発生後の対応について十分に考え、実行していただくことが、長周期地震動による被害の軽減につながると考えます。気象庁や防災科研などでは、長周期地震動による被害を軽減するために、実証実験などの取組を通じて、長周期地震動の予測技術の開発、普及啓発等について引き続き取り組んでまいります。

(広報誌「地震本部ニュース」平成30年(2018年)秋号)

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