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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」 〜南海トラフ巨大地震の被害軽減への取り組み〜

(広報誌「地震本部ニュース」平成30年(2018年)秋号)

地震調査研究プロジェクト4 地震本部ニュース 2018秋「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」〜南海トラフ巨大地震の被害軽減への取り組み〜

1.南海トラフ巨大地震への備え

 再来が危惧される南海トラフ巨大地震。この地震の今後30年以内の発生確率は、70%から80%と非常に高い発生の可能性が公表されています。
 また平成29年度には、現在の科学技術では従来の地震防災応急対策が前提としてきた確度の高い地震の予測は不可能とのことから、東海地震に対する警戒宣言発令の凍結が行われる一方、南海トラフ地震発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まったと評価された場合、気象庁により南海トラフ地震に関連する情報(臨時)が発表されることとなりました。
 土木学会は、南海トラフ巨大地震の経済被害として、その発生から20年間で総額1,400兆円を超える甚大な想定を公表し、まさに国難としての南海トラフ巨大地震への備えの重要性を訴えています。
 このように南海トラフ巨大地震を取り巻く状況は、巨大地震の地震像を明らかにし、被害軽減の重要性を益々高めており、様々な研究分野での南海トラフ巨大地震研究への多様な取り組みが進んでいます。

2.「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」の概要

 「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」は、文部科学省の委託研究として平成25年度から平成32年度の8年のプロジェクトとして開始されました。
 研究体制としては、防災研究分野、調査観測研究分野、並びにシミュレーション研究分野から構成され、それぞれの分野での研究の深化とともに他分野との連携を進めています。また、本プロジェクトの成果は、地震本部の各委員会、各部会での議論や評価、並びに自治体等への地域貢献に大きな役割を果たすものと期待されています。

①防災研究分野
 本研究分野は、1)東日本大震災の教訓等のデータベース化とその活用研究、2)地震・津波被害予測研究では具体的な耐震化や液状化等の防災対応研究、3)地域研究会・分科会による地域への研究成果の実装研究、4)中長期的な視点での少子高齢化、過疎化・人口集中といった社会環境変化に応じた災害対応復興研究、5)地震発生時の災害情報の利活用研究、といった研究課題より構成されています。

②調査観測研究分野
 本研究分野は、1)南海トラフから南西諸島域の地震発生帯の地下構造研究、2)地震活動に関する研究、3)海陸の津波履歴解析による対象地域の巨大地震像の解明、を目指すものです。
 1)地下構造研究では、高分解能の反射構造イメージングや屈折法を用いた深部構造評価による地震発生帯構造モデルの構築を目指しています。
 2)地震活動の研究では、海底地震計による地震活動の時空間変化や陸域地震観測網による深部地下構造イメージングと低周波微動活動評価を行っています。
 3)海陸津波履歴研究では、南海トラフ域から南西諸島域に至る広域調査を実施し、各地震発生帯の津波履歴とともに、広域な大連動地震発生の可能性の解明を目指しています。
 これらの研究成果は、各研究分野、特にシミュレーション研究分野と連携し、地震像の解明や強震動モデルと地殻活動との関係や津波評価、並びに地震発生シナリオに基づく推移予測研究に貢献しています(図1)。

図1 調査観測研究分野とシミュレーション研究分野との連携
図1 調査観測研究分野とシミュレーション研究分野との連携


③シミュレーション研究分野
 本研究分野は、図2に示すように、1)シミュレーションによる地震津波のイメージング、2)歴史地震の再評価、3)地震発生予測研究の課題、から構成されています。本研究は、特に調査観測研究分野との連携を強化し、その研究成果を防災研究分野に活用するものです。
 1)シミュレーションによる地震津波のイメージングでは、地震が発生した場合の強震動や長周期地震動、津波伝播のイメージングと再評価を行うことでこれまでの地震像の見直しを行います。
 2)歴史地震の再評価研究では、文献調査やシミュレーション等により歴史地震の新たな地震像を構築することを目的としています。
 3)地震発生予測研究では、地震発生予測シミュレーション研究を推進するとともに、南海トラフ巨大地震発生前後に発現すると想定される様々な地震活動や地殻変動の推移予測を行うことを目指しています。

図2 シミュレーション研究分野を構成する課題
図2 シミュレーション研究分野を構成する課題

3.研究成果(トピックス)

①防災研究分野
 地震・津波被害予測研究のケーススタディとして愛知県碧南市を対象とし、強震動や津波に対する地域リスク評価として、地盤の弾塑性モデルを用いた地震応答解析による地盤リスク評価やその結果を活用した津波の長期湛水解析、常時微動観測により建物振動特性を推定し、その上で地震応答解析を行うなど、本研究分野内の各成果をつなぐことで総合的なリスク評価を実施し、地域の防災計画への反映を目指しています(図3)。また、地域への研究成果の情報発信や地域の課題抽出などにより地域への成果の実装に向けた取り組みを行っており、今後は本研究分野内の連携を一層進めて防災研究と社会実装を推進していきます。

図3 防災分野の研究成果例 地震・津波被害予測研究 リスク評価
図3 防災分野の研究成果例 地震・津波被害予測研究 リスク評価


②調査観測研究分野
 本研究分野全体の考え方は、図1に示すようにシミュレーション研究分野との連携が不可欠です。図4に本プロジェクトで構築した南海トラフ巨大地震震源域のプレート形状モデルを示します。今後はプレート形状とゆっくり滑り等の諸現象の3次元マッピングを行い、プレート境界付近での地殻活動の時空間の把握を目指します。
 一方、図5に英国科学誌「Nature Communications」に掲載された南西諸島における弱い固着による津波地震発生構造を示します。この結果は、1771年の八重山地震の津波発生過程と整合するものと考えられます。
 今後は、これらに代表される本研究分野内の成果を統括し、シミュレーション研究と連携した南海トラフ巨大地震の地震像を明らかにしていきます。

図4 南海トラフ巨大地震震源域の3次元プレート形状モデル
図4 南海トラフ巨大地震震源域の3次元プレート形状モデル

図5 琉球海溝南部におけるプレート境界断層とプレート境界で発生する低周波地震を観測—巨大津波発生域の沈み込み構造を特定—
図5 琉球海溝南部におけるプレート境界断層とプレート境界で発生する低周波地震を観測
—巨大津波発生域の沈み込み構造を特定—


③シミュレーション研究分野
 本研究分野の震源シナリオ構築研究では、昭和東南海・南海地震から現在にいたる固着状態の推定、破壊開始点などの違いによる想定地震シナリオの検討、震源特性の検討に基づく強震動評価による防災研究への貢献、調査観測研究との連携による過去の南海トラフ巨大地震像の解明、を推進しています。また、フィリピン海プレートの3次元形状(図4)や地殻活動を用いて、南海トラフ巨大地震再来シミュレーションによる南海トラフ地震シナリオの高度化に向けた取り組みをしています。
 本研究において、日向灘でM7クラスの地震が発生した場合や紀伊半島沖でM6クラス以上の地震が発生した際に、これらの地震が誘発地震となり得ることを示してきました。図6には、シミュレーション研究をハブとしたデータ活用予測研究におけるコンセプトを示します。これにより次の南海トラフ地震のシナリオ想定と推移予測を目指しています。今後は、このコンセプトに基づき調査観測研究から得られた、より現実的な地下構造や海陸での観測データを用いた南海トラフ巨大地震の地震像の解明および推移予測研究等を推進していきます。

図6 シミュレーション分野のモデル構築シナリオ
図6 シミュレーション分野のモデル構築シナリオ

4.今後の課題

 南海トラフ巨大地震は国難であり、国の総力をあげて対応することが必要不可欠です。
 そのため本プロジェクトでは、防災研究の総合化のモデル構築、地震像の解明、並びに推移予測研究の基盤作成、を推進していきます。また、海域地殻変動観測や地震活動を主体とした海陸の観測情報の活用や、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)、ポスト京プロジェクト、並びにIODP(国際深海科学掘削計画)など他の研究プロジェクトとの連携が不可欠であり、その統合化を図ることで国難における被害軽減を促進することが急務です。


金田 義行( かねだ よしゆき)

金田氏

香川大学 学長特別補佐 特任教授
四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構 地域強靱化研究センター長
海洋研究開発機構 上席技術研究員
理学博士

1979年 東京大学理学系研究科大学院地球物理学専攻修士課程修了。海洋研究開発機構で地震津波・防災研究プロジェクトリーダー等を務め、2016年より現職。
地下構造研究、地震津波モニタリング研究、シミュレーション研究、減災科学研究に取り組む。
南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト総括責任者。

(広報誌「地震本部ニュース」平成30年(2018年)秋号)

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