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(広報誌「地震本部ニュース」平成29年(2017年)冬号)
地震調査研究推進本部では、社会的・経済的に大きな影響を与えると考えられるマグニチュード(M)7以上の大地震に着目し、それを引き起こす可能性のある主要活断層帯(長さが20km 以上)について、個別に地震規模や発生確率の長期評価を行ってきました。しかし近年、主要活断層帯以外でも、平成16 年(2004 年)新潟県中越地震(M6.8)などのM7未満の地震によっても被害を生じています。そのため、ある地域で発生する陸域の浅い地震による危険度がどの程度あるかを検討するためには、主要活断層帯を評価するだけでなく、周辺のより短い活断層等も含めて総合的に評価する必要があります。
このような背景のもと、地震調査研究推進本部では、対象地域に分布する活断層で発生する地震を総合的に評価する「地域評価」の考え方を導入しています。具体的には、地表の長さが短い活断層や沿岸海域の活断層など、評価対象とする活断層の範囲を拡げ、また地域毎の地震観測結果の特徴を考慮しつつ、将来そこで発生する大地震の規模や発生確率等の評価を実施しています。こうした新たな評価方法に基づき、陸域及び沿岸海域に分布し、M6.8 以上の地震を引き起こす可能性のある活断層について、対象とする地域ごとに総合的に評価したものを「活断層の地域評価」と呼んでいます。これまで、九州地域(平成25 年2月)及び関東地域(平成27 年4月)、並びに中国地域(平成28 年7月)の公表を行い、今回新たに四国地域の地域評価を平成29 年12 月に公表しました。
四国地域には、我が国で最も活動的な活断層の一つである中央構造線断層帯があります。中央構造線断層帯は、全体として440km を超える長大な断層帯であり、その範囲は奈良県から淡路島の南方海域を経て、和歌山県、徳島県、愛媛県を抜け、佐田岬の沖合を通り、別府湾から大分県の内陸部にまで及びます。四国内の中央構造線断層帯の周辺では、四国山地と讃岐山脈の間に徳島平野が東西方向に細長く入り込んでいたり、四国山地と新居浜平野や松山平野などとの境が直線的であったりするなど、中央構造線活断層帯がこの地域で繰り返し活動してきたことを示す明瞭で特徴的な地形が見られます。また、大局的に見ると四国地域の活断層は、中央構造線断層帯の周辺に偏在していることが分かります(図1)。
図1 四国地域で評価対象とした活断層の位置と、地域内でM6.8以上の地震が30年以内に発生する確率
※ 青細線は四国地域の評価では扱っていない活断層
※※四国地域内の地震の発生確率の算定では、中央構造線断層帯のうち四国地域(ピンク太線領域)外の区間については扱っていない。
活断層の色は、個別の活断層で今後30年以内に地震が発生する可能性の大きさに応じたランク分け(S、A、Z、X)に対応。
今回の評価によって四国地域では、評価対象とした活断層が従来の2断層から5断層になりました(表1)。このうち中央構造線断層帯では近年、過去の地震の活動履歴に関する調査研究が進展し、それにより従来6の区間に分けられていたものが、大分県まで延長した1 区間を含め、新たに10 の区間に再編されました。このことは、同じ中央構造線断層帯内であっても、区間毎に固有の地震の発生間隔や、最後に地震が発生した時期が異なるなど、より詳細な地震像が判ってきたことを意味します。また、新たに評価された3断層は、いずれも長さが20km 未満のものですが、発生する地震規模はM6.8 が想定され、居住域の直下で発生し得る震源として十分な注意が必要です。
表1 四国地域で評価対象とした活断層で将来想定される地震規模と、30年以内の地震発生確率
地震発生確率の値とランク分け(色)との対応については、脚注1や図1の凡例を参照のこと。
地域評価では、個々の活断層で生じる大地震だけでなく、評価した全ての活断層の活動から、その地域内におけるM6.8 以上の地震発生確率を推定することもできます。また近年の地震観測からも、同様の地震発生確率を算出することができるため、これらの異なる手法から求められた地震発生確率から、地域内の特徴を考察することができます。これらの結論として、四国地域において今後30 年以内にM6.8 以上の地震が発生する確率は、9-15%(中央値10%)となります。この地震の発生確率は、これまで同様に公表してきた他の地域(九州全域30-42%、関東全域50-60%、中国全域50%)と比べると相対的に小さく、一見安全のように思えるかもしれません。しかし中央構造線断層帯は、我が国において最も活動的であり、①四国地域内の全長の半分を超える区間がS, A ランク1 に該当すること、②一つの区間だけでもM8もしくはそれ以上が想定される区間があり、一度そのような地震が発生すれば、地域内の広い範囲が強い揺れに見舞われることや、③複数区間の同時活動を否定できないこと、などを考え合わせれば、地域の地震の発生確率が相対的に低いことが決して、危険度が小さい(=安全である)ことを意味するものではないことが分かります。
このため四国地域は、最もその発生が懸念される南海トラフの巨大地震とは別に、活断層で発生するような陸域で発生する浅い地震、すなわち熊本地震のような直下型の地震に見舞われる可能性も、この程度の確率で同時に想定し注意する必要があります。なお、1946 年昭和南海地震の直後には、戦後の調査観測の不備によって詳しいことは不明ですが、吉野川上流域等に浅い中小地震による小被害が報告されており、南海トラフの巨大地震発生後には、今回評価された活断層がないところでも、陸域の浅い地震や、比較的浅いプレート内の地震が誘発される可能性があるため、そのような注意も必要です。
四国地域の評価には、次のような課題があります。まず、評価した活断層のうち、過去の活動履歴が不明なものが依然としてあり、その結果、地震発生確率が不明なものも多くあります(表1中のX ランク(灰色)に該当)。また、四国は中央構造線断層帯の周辺に活断層が偏在していていることから、これら活断層の間で同時または短期間に活動が集中する可能性もありますが、現状のデータだけではそれら活動の関係を評価できません。さらに、今回の評価対象とはしませんでしたが、地域内で活断層の可能性のある構造が、中央構造線断層帯の周辺以外の場所においても幾つか挙げられており、短い活断層や伏在断層を見落としている可能性も否定できません。地域評価を行う上で、これらの解明と信頼度の向上のためには、更なる調査研究が必要となります。
このように四国地方の地震活動の評価は必ずしも完全ではないことをも念頭に入れつつ、地域住民の皆さんには、南海トラフの地震だけではなく、自分の住む地域の特徴、特に活断層の存在とそれらの活動によって引き起こされる災害のリスクを改めて認識し、同様の地震は地域内のどこでも発生し得ることを前提に、防災意識の向上や地震災害への備えをしてもらいたいと思います。
評価された活断層については個別に、想定された地震が発生した場合に周辺で生じる揺れの予測結果を示す「全国地震動予測地図」を来年度はじめ頃に公開する予定です。
脚注1 活断層における今後30 年以内の地震発生確率が3% 以上を「Sランク(高い)」、0.1 ~ 3%を「Aランク(やや高い)」、0.1% 未満を「Zランク」、不明(すぐに地震が起きることが否定できない)を「Xランク」と表記しています。
(広報誌「地震本部ニュース」平成29年(2017年)冬号)
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