1.主要活断層とは
我が国の陸域とその周辺の沿岸域には約2000の活断層があるといわれています。昨年4月に発生した熊本地震や、地震本部設立の契機となった1995年の兵庫県南部地震は、いずれも陸域の活断層で発生したものでした。地震本部では、それら活断層の中でも活動が社会的,経済的に大きな影響を与えると考えられるものを「主要活断層」として調査観測の対象として選定しています。選定された主要活断層は、そこで発生する地震の規模や発生の可能性等の評価(長期評価)や、地震が発生した場合に周辺がどの程度強いゆれに見舞われるかを示した地図(地震動予測地図)が公表され、またこれら評価に必要となる各種調査が実施されています。
地震本部では平成9年に、既存の調査研究結果の文献等を参照しつつ、以下の1~3の条件を満たす98の断層を主要活断層として初めて選定しました。
<主要活断層の選定条件>
- 確実度(ⅠまたはⅡ):活断層であることの確からしさを、地形的な特徴の程度から判断し、Ⅰ~Ⅲの3段階で示したもの。Ⅰは専門家が活断層であることがほぼ確実と見る地形的特徴を有するもの。ⅡとⅢは、活断層に関連する地形的特徴が見られるが、それら特徴が活断層以外の活動(例えば河川の浸食作用など)によって形成される可能性も考えられ、活断層であると判断するためには、更なる調査等が必要とされるもの。
- 活動度(B級以上):活断層の過去における活動の程度。活断層で大規模な地震が発生すると地表付近に地形的なずれなどの変形が生じるが、この変形の平均速度をA〜Cの3段階で示したもの。選定対象は、活動度A級(1m/1000年)又はB級(0.1m/1000年)で、この数値が大きいほど活発な断層であると言える。
- 長さ(20km以上):活断層で発生する地震は、活断層が長いほど想定規模が大きくなる。長さ20km以上の場合の地震規模はマグニチュード7.0を超えると考えられている。
(詳しくは地震本部ホームページの用語集の「主要活断層帯」、「確実度」、「活動間隔、活動度」や、活断層研究会編(1991)「新編日本の活断層―分布図と資料―、東京大学出版会をご覧ください。)
図1 九州地域、関東地域及び中国地域の活断層
緑色で囲ったものが今回主要活断層帯に追加された活断層。①~⑯の番号は、「2.主要活断層の追加」の新たに追加した活断層の番号と対応。活断層の線の色は、活断層のランク分けに応じた色
(詳しくは地震本部ニュース平成28年秋号「活断層長期評価の表記見直し」をご覧ください)。
2.主要活断層の追加
地震本部では、平成9年に98の主要活断層を選定した後、様々な活断層の調査を行い、その結果、前述の選定基準を満たすため主要活断層への追加(98→110断層)や、逆に活断層ではないと評価されたものを外す(110→97断層)などの見直しを適宜行っています。平成29年2月21日に開催した政策委員会第79回調査観測計画部会では、これまで活断層の地域評価を実施した九州地域、関東地域及び中国地域の活断層のうち、既存の主要活断層と同程度の地震規模及び活動度が想定される16断層(図1の緑色で囲った断層)を新たに主要活断層に追加しました。この結果、主要活断層は合計で113断層になりました。
<新たに追加した主要活断層の名称(断層の長さ)>
※番号は、図1中の番号と対応しています。見比べて断層名を確認してみてください。
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九州地域(6断層帯)
①福智山(ふくちやま)断層帯(約28km)
②宇美(うみ)断層(地下23km程度)
③日向峠-小笠木峠(ひなたとうげ-おかさぎとうげ)断層帯(約28km)
④佐賀平野北縁(さがへいやほくえん)断層帯(地下38km程度)
⑤緑川(みどりかわ)断層帯(約34km)
⑥甑(こしき)断層帯(約39km) -
関東地域(2断層帯)
⑦大久保(おおくぼ)断層(地下20km程度以上)
⑧身延(みのぶ)断層(約20km) -
中国地域(8断層帯)
⑨宍道(鹿島)(しんじ(かしま))断層(約21kmもしくはそれ以上)
⑩鹿野-吉岡(しかの-よしおか)断層(約26km)
⑪長者ヶ原-芳井(ちょうじゃがはら-よしい)断層(約30km)
⑫弥栄(やさか)断層(約53km)
⑬地福(じふく)断層(約27km)
⑭筒賀(つつが)断層(約58km)
⑮大原湖(おおはらこ)断層(約42km)
⑯小郡(おごおり)断層(約31km)
3.活断層の調査について
活断層の調査は、はじめに航空写真を使って、活断層が疑われる地形を見つけて詳細な位置や形状を検討します。その後、断層の位置が十分に絞り込まれたら、現地でボーリング調査(写真1)やトレンチ調査(写真2)などを実施し、活動度や地震の発生確率値などを求めるために必要となる、過去の活動履歴などを明らかにしていきます。
活断層の長期評価は、公開されている既存の調査研究の結果を基に行われますが、それらだけでは必ずしも全体像が明らかにならない場合(例えば活断層の位置や地震規模は推定できるが、過去の活動履歴が不明のため、発生確率値が算出できない等)もあり、そのような場合には、評価に必要となるデータを取得するための補完調査等が行われます。また、公共機関や大学等の調査研究によって、評価に結びつく新たなデータが得られることもあり、それらの結果から、既存の長期評価の内容が見直される場合もあります。
地震本部では、これら最新の調査研究の成果を取り入れて、活断層の評価を随時見直しています。地震本部のホームページには、最新の評価だけではなく、改訂前の旧評価も掲載されています(詳しくはホームページの「地震に関する評価」をご覧ください)。今後も、活断層の調査や長期評価を推進し、地方公共団体や住民の方の防災行動につながるよう、適切な情報提供に努めていきます。
(広報誌「地震本部ニュース」平成29年(2017年)春号)