1.はじめに
我が国の観測史上最大のマグニチュード9を記録した東北地方太平洋沖地震は、広範囲にわたる大きな揺れ、大津波をもたらし、大規模な津波災害をはじめとする未曾有の広域複合災害を引き起こしました。
首都圏においては、広域の液状化、交通機関の麻痺による多数の帰宅困難者、電力やライフラインの途絶による事業活動の停止等、都市特有の課題が数多く顕在化しました。
多くの都市機能が集中し、社会経済活動の中枢である首都圏は、災害に対する脆弱性を内在しており、予期せぬ大災害へ発展するおそれがあります。そのため、首都圏をはじめとする都市の大地震に対する事前の検証と対策を施しておくことは、これまでにも増して重要かつ喫緊の課題です。
文部科学省では、東日本大震災を教訓として、今後予想される首都直下地震や、南海トラフ地震等に対して、都市の災害を可能な限り軽減することを目的に、平成24年度から5カ年間の研究開発プロジェクトとして、「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」を推進してきました。
2.都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクトの概要
本プロジェクトは、理学・工学・社会科学の3つのサブプロジェクトから構成されており、我が国を代表する研究機関、研究者が従来の枠組みを超えて相互に協力・連携を図りながら研究開発を推進してきました。
①サブプロジェクト1:首都直下地震の地震ハザード・リスク予測のための調査・研究(東京大学地震研究所)
首都圏地震観測網(MeSO-net)による地震観測を継続し、首都圏のより正確な地下構造、地震動(揺れ)、地震像(場所、規模、頻度)を解明するとともに、都市の地震災害の姿を予測するための地震被害評価技術を開発。
首都圏地震観測網(MeSO-net)
首都圏地震観測網(MeSO-net)で記録された波形等から、
建物一棟一棟の揺れを三次元的に可視化した例(東京大学地震研究所提供)
②サブプロジェクト2: 都市機能の維持・回復のための調査・研究(京都大学防災研究所)
実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)を活用し、都市機能の維持・回復に資するため、高層ビル等の都市の基盤をなす施設の「完全に崩壊するまでの余裕度の定量化」及び「地震直後の健全度を即時に評価し損傷を同定する仕組みの構築」に関する研究成果を技術参考資料等としてまとめ社会に普及展開。
RC造の崩壊余裕度振動台実験による崩壊(京都大学防災研究所)
③サブプロジェクト3:都市災害における災害対応能力の向上方策に関する調査・研究 (京都大学防災研究所)
高い災害回復力を持つ社会の実現に寄与するため、円滑な応急・復旧対応を支援する災害情報提供手法の開発及び防災に関する問題解決能力(防災リテラシー)の育成方策に関する研究を推進。
(左図)都市地震防災ジオポータルのトップページ(京都大学防災研究所提供)
(右図)新宿駅西口地域の防災訓練 防災センターによる被災状況把握(工学院大学提供)
この5年間の災害を振り返ると、熊本地震をはじめ長野県神城断層地震等、さらに御嶽山、口永良部等の一連の火山活動、伊豆大島等での豪雨・土砂災害、関東・東北豪雨等、様々な自然災害が相次ぎ全国各地に大きな被害をもたらしました。このように自然災害が相次ぐなか、被災市町村をはじめとする実際の災害現場で、研究成果の一部を活用する等、社会実装につなげるための検証や新たな研究課題の発掘等も推進してきました。
これら研究成果は、2017年3月14日(火)東京大学安田講堂にて700名程の多数の参加者の皆さまに最終成果報告をさせて頂きましたが、ホームページにも随時掲載予定です。
サブプロジェクト1:東京大学地震研究所
http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/project/toshi/project/project.html
サブプロジェクト2:京都大学防災研究所
http://www.toshikino.dpri.kyoto-u.ac.jp/index.html
サブプロジェクト3:京都大学防災研究所
http://www.drs.dpri.kyoto-u.ac.jp/ur/
3.今後の展開
わが国の現在の防災力では大規模地震災害の被害を完全に予防することはできず、残された時間の中で少しでも被害を減らすこと、高い事業継続能力を持つこと、速やかな復旧・復興を実現することで災害に対するレジリエンスを向上させることが課題です。
一方で、2015年5月に発生した小笠原諸島西方沖地震では、大きな被害こそ発生しなかったものの、首都圏における約2万機のエレベータの停止、交通機関の乱れ、ライフラインの一時停止等が生じ、事業の中断や経済機会損失にもつながっており、このように比較的頻度の高い中規模地震への備えの充実も決して看過することができません。
また、政府では、急速に成長するアジアをはじめとする世界の観光需要を取り込み『観光先進国』への新たな国づくりに向けて邁進していることから、災害発生時の訪日外国人旅行者向けの対策も重要な課題です。
特に、首都圏においては、首都機能等の維持を図るため、きめ細やかに災害リスクを評価するとともに発災に備えた対策を施しておくことが重要かつ喫緊の課題となっています。そこで、平成29年度から5カ年間の研究開発プロジェクトとして「データプラットフォーム拠点形成事業(防災分野)~首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト~」を実施します。
本事業では、理化学研究所 革新知能統合研究センターとも連携し、これまでの研究成果を基礎に「IoTビッグデータ、AI」といった新たな技術を取り入れ、官民連携超高密度地震観測システムの構築、E-ディフェンスを用いて非構造部材を含む構造物の崩壊余裕度に関するセンサー情報を収集し、都市機能維持の観点から官民一体の総合的な災害対応や事業継続、個人の防災行動等に資するビッグデータを整備し、地震・防災研究の更なる発展努めます。
4.おわりに
本プロジェクトで得られた新たな知見や研究成果等は、国や地方公共団体、さらには国民、民間企業等の防災・減災対策に積極的に御活用頂くとともに今後に向けたご意見を頂きながら、防災・減災研究の更なる発展に努めます。
データプラットフォーム拠点形成事業(防災分野)
~首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト~ 概要
(広報誌「地震本部ニュース」平成29年(2017年)春号)