地震の規模がどのようにきまるのかを知ることは、純粋な地震学の問題としても、災害の軽減を目指す上でも重要な課題です。岩手県の釜石沖(図1c右下)では、ほぼ同じ場所でほぼ同じ規模(M4.7〜5.0)で周期的に発生する繰り返し地震が知られていました。この繰り返し地震は、2011年の東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)の後、それまで5年程度であった発生間隔が極端に短くなっただけでなく、地震の規模(マグニチュード)が一時的にそれまでよりも大きくなり、その後徐々に元の規模に戻っていくという変化をしました(図1 a, b)。
同じ場所の繰り返し破壊と考えられる繰り返し地震が、東北沖地震後に頻発したことは、余効すべり(地震発生後に起きる断層のゆっくりすべり)が釜石沖まで達し、以前から存在していた固着域にひずみが貯まる速度が増加することで説明できます。しかし、規模が大きくなったことは簡単には説明できません。そこで、規模の増加がどのような原因によりもたらされたのかを調べるために、当時大学院生だった島村浩平さんらが中心となって地震波形を用いたすべり分布の推定を行いました。その結果、東北地方太平洋沖地震後の最初の釜石沖繰り返し地震は、2008年の地震に比べすべり量が大きくなっただけではなく、すべり域の大きさがそれまでの領域を含むおよそ6倍になっていたことが分かりました(図1c)。これは、ほぼ同じ領域が繰り返しすべるという、これまで一般的に考えられていた繰り返し地震の発生モデルとは異なる現象です。
図1.岩手県釜石沖での地震活動のマグニチュード-時間図(a)、その2011年以降の拡大図(b) および2008年以降7つの地震のすべり分布(c) [ 島村 (2012) およびUchida et al.(2014) を改変]。(a, b) は気象庁の一元化カタログをもとに作成。縦線は、東北地方太平洋沖地震の発生時。図cのコンターの色は図bの星の色と対応。右下の挿入図は東北沖地震の地震時すべり分布(コンター,Iinuma et al., 2012)と釜石沖繰り返し地震(赤四角)の位置関係。
また、我々はさらに他の多くの繰り返し地震についても、東北沖地震前後の規模の変化を調べました。その結果、測地観測によって大きな余効すべりが推定された場所において、規模が大きくなった繰り返し地震が多く発生していることが分かりました。また余効すべりの影響を受けたと考えられる42個の繰り返し地震系列では、東北沖地震後の平均規模(モーメント)がそれまでの2.8倍にも達していたことも明らかになりました。
このような観測結果は、固着域への応力蓄積レートの違いにより、ほぼ同じ位置で繰り返し発生する地震でも、その規模が変わりうることを示しています。本研究では、応力蓄積レートの増加が地震規模の増加をもたらした原因は、核となる固着域周辺のプレート境界に条件付き安定領域(普段はゆっくりとしたすべりが生じるが、大きな応力擾乱(じょうらん)があったときだけ地震性すべりを起こす領域)が存在するためであると推定しました。すなわち条件付き安定領域が、応力蓄積レートの増加にともない不安定になり、地震性すべり域の拡大を起こしたと考えられます。このような条件付き安定領域のふるまいは、中小の繰り返し地震だけでなく、同様のメカニズムで発生していると考えられる、大地震の規模の決まり方にも、重要な役割を果たしている可能性があり、今後さらなる研究が重要となっています。
内田 直希(うちだ・なおき)
東北大学理学研究科地震・噴火予知研究観測センター助教。 2004年東北大学大学院理学研究科後期3年の課程修了。博士(理学)。東北大学の21世紀COEフェロー、助手を経て2007年より現職。東北大学災害科学国際研究所助教を兼務。専門は地震学。繰り返し地震等を用いた沈み込み帯の地震発生メカニズムの研究を行っている。
(広報誌「地震本部ニュース」平成26年(2014年)冬号)