地震調査研究推進本部(以降、地震本部)は、2005年以来毎年、地震動予測地図を公表してきました。2011年も全国地震動予測地図2011年版を公表する予定でした。しかし、同年3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生し、この地震を契機に確率論的地震動予測地図*1について解決すべき多くの課題が指摘されたことを受け、この公表は見送られました。地震本部では、これらの指摘を受け、地震動予測地図を作成するための地震動ハザード評価*2について、改善のための検討を行っています。2012年には、東北地方太平洋沖地震発生後から2012年までの検討結果をまとめ、「今後の地震動ハザード評価に関する検討 ~2011年・2012年における検討結果~」(以降、2011年・2012年における検討)として公表しました。今回は、2013年に行った検討の内容をまとめ、公表しましたので、その内容についてご紹介します。
なお、地震動予測地図には、「震源断層を特定した地震動予測地図」と「確率論的地震動予測地図」とがありますが、検討は確率論的地震動予測地図を対象としました。
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震を契機に、全国地震動予測地図について、解決すべき多くの課題が指摘されました。特に、東北地方において、東北地方太平洋沖地震の際に実際に観測された震度と比較して、地震動予測地図による予測震度が過小評価になっていたことが問題とされました。これは、東北地方太平洋沖地震が発生した時点では、まだ東北地方太平洋沖地震について十分な情報が得られておらず、地震動予測地図において想定されていなかったことが原因です。
このような問題を受け、「2011年・2012年における検討」では、まず地震動予測地図と実際のデータとを比較し、地震動ハザード評価の基本的な枠組みが有効かどうかを確認し、その有効性を確認しました。その上で、地震動ハザード評価改善のためにいくつかの検討を行いました。
検討の結果得られた重要な結論は、地震動ハザード評価を改善するためには、発生当時の東北地方太平洋沖地震のように、発生頻度や発生場所について事前に十分な情報を得ることができない地震については、従来考慮してきたよりも発生頻度の低い大規模な地震まで考慮する必要があるということです。確率論的地震動予測地図では、事前にその発生位置や発生頻度などがよく分かっていない地震を「震源不特定地震」として考慮しています。東北地方太平洋沖地震のような“想定外”を防ぐためには、「震源不特定地震」として、従来考慮してきたよりも発生頻度の低い大規模な地震まで考慮する必要があります。
このほか、「2011年・2012年における検討」では、地震動予測地図などの地震動ハザード評価の結果を国民に対してより分かりやすく丁寧に説明することの重要性も指摘されました。
2013年の検討では、これまでの経緯や「2011年・2012年における検討」の結論を踏まえ、以下のことが行われました。
ここでは、以上の4つについて、概略を説明します。
まず、①は、前述の東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえたものです。東北地方太平洋沖地震は発生頻度が低く(平均発生間隔600年程度)、大規模(マグニチュード9.0)な地震であり、確率論的地震動予測地図では考慮されていませんでした。また、東北地方太平洋沖地震については、発生当時はまだ十分な情報がなく、地震動予測地図でも考慮されていませんでした。しかし、実際に2011年に発生し、甚大な被害が生じました。この教訓から、これまで発生したことが確認されていないような、事前に十分な情報が得られていない地震についても、従来考慮していたよりも発生頻度の低い大規模な地震までを考慮して確率論的地震動予測地図を作成することにしました。
次に、②では、九州地域について行われた新たな活断層の長期評価や、南海トラフについて行われた長期評価の改訂など、最新の知見を反映しました。特に、「南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)」は、これまで考慮されてきた地震だけでなく発生しうる最大クラスの地震まで考慮するとともに、不確実性の大きな情報であっても防災上有用なものについては誤差等に配慮したうえで用いるなど、東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえた新たな方針に基づいた評価がなされています。
続いて、③は、様々な要因が地震動ハザード評価の結果に与える影響を調べるために行ったものです。地震動ハザード評価を改善するためには、①による影響のほか、長期評価の改訂や地震の発生確率の計算の仕方が結果に与える影響についても調べる必要があります。このため、
検討モデル:低頻度で大規模な地震も考慮して作成したモデル
参照モデル:地震の発生にほとんど周期性がないと考え作成した参考モデル
の3つの異なる地震活動モデルを作成し、それぞれのモデルに基づいた確率論的地震動予測地図を作成し比較するとともに、「2011年・2012年における検討」で作成した確率論的地震動予測地図との比較も行いました。
図1、図2は比較の結果を示したものです。図1は2013年起点で計算した検討モデルと従来モデルの差をとったものです。図2は今回の検討の従来モデルと2011年・2012年における検討の従来モデルの差をとったもので、長期評価の改訂などの影響を見るために比較を行ったものです。図1、図2から、様々な要因が地震動ハザード評価の結果にもたらす影響を知ることができます。これらの比較を行い検討した結果を踏まえて、今後の地震動ハザード評価では、以下の点を考慮し、基本的に検討モデルで採用した方針に基づいて評価を行うことになりました。
2014年には、これらを踏まえて改良した地震動ハザード評価を行い、その結果をまとめた地震動予測地図を公表する予定です。
最後に、④は、「2011年・2012年における検討」で、地震動ハザード評価の結果を地震の専門家以外にも分かりやすく伝えることが必要であるとしたことを受けたものです。今回の公表では、付録-2として試作した説明資料を公表しています。この資料には、地震動予測地図がどのようなものか、地震動予測地図からどのようなことが分かるのかが説明されています。今後公表予定の、改良された地震動予測地図を見る際に参考にして頂ければ幸いです。図3は、試作した資料の表紙です。
なお、今回の検討の報告書や、今回の検討に役立てるために行った地震動ハザード評価の結果(地震動予測地図とハザードカーブ*5)とその計算条件の詳細等をまとめた付録-1、③で作成された地震動予測地図の見方を専門家以外にも分かりやすく説明した付録-2は、いずれも地震本部のホームページ
https://www.jishin.go.jp/evaluation/seismic_hazard_map/shm_report/shm_report_2013/
でご覧頂くことができます。
ここまで述べたとおり、地震本部では、東北地方太平洋沖地震が発生してから、地震動ハザード評価の改善のための検討を行ってきました。今後は、震源不特定地震としてどの程度まで発生頻度の低い大規模な地震を考慮するか等について、さらに検討を行います。そして、それらの検討の結果を踏まえて改善した地震動ハザード評価の結果を、2014年度に公表する予定です。
(広報誌「地震本部ニュース」平成26年(2014年)2月号)