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  1. 地震・津波の提供情報
  2. コラム
  3. 首都直下プロ4首都圏の大地震の姿

(広報誌「地震本部ニュース」平成24年(2012年)8月号)

 

 日本は世界でも地震の多い国ですが、その中でも南関東では、多くの地震が発生しています。ここには首都があり、大勢の人が住み、様々な経済・文化活動が営まれています。このため、ひとたび大きな地震が発生すると、甚大な被害が生じます。これまでにも大正や元禄の関東地震、安政江戸地震などにより、繰り返し大震災を経験してきました。震災が大きくなるのは、自然現象としての地震による揺れの強さ(地震ハザード)の他、人口が多く、都市が脆ぜい弱じゃくであり、回復力が弱いことによります。
 社会の防災力を高めて災害を減らすためには、地震による揺れの強さを予測してそれに備えることが重要です。日本の中で最も人口の多い首都圏の地震ハザードを評価することは、とりわけ重要です。

 南関東で発生した地震規模(マグニチュード、M)8クラスの巨大地震は、1703年と1923年の関東地震が知られています。後者によって、大正の関東大震災(死者・不明者約10万5千人)が引き起こされました。この2つの地震は、相模トラフから沈み込むフィリピン海プレートと南関東を形づくるプレートとの境界部で発生した巨大地震です。これらの地震が、もし周期的に発生するなら再来間隔が約220年なので、最新の地震である1923年関東地震の発生からまだ90年程度しか経っていないため、近い将来にこのタイプの地震が発生する可能性は低いと考えられています。しかし、M8クラスの巨大地震発生の間には、M7クラスの地震が多数発生しています(図1)。地震調査研究推進本部地震調査委員会の評価では、南関東でM7クラスの地震が今後30年以内に起きる確率は70%という、極めて高い値になっています。

 図1 首都圏で発生した大地震。首都圏では、大地震が繰り返し発生しています。

南関東で地震活動が活発なのは、陸のプレートの下に南から北西に向けてフィリピン海プレートが沈み込
み、さらにその下に、東方から西方に向けて太平洋プレートが沈み込み、3 つのプレートが互いに力を及ぼし合っているからです。ところが、このプレート構造の詳細は、実はあまりよく分かっていませんでした。これは、首都圏は活発な社会・経済活動のためにノイズが多く、地震の観測が難しい場所だからです。さらに、日本でも有数の厚い堆積層があることも地震観測には不利な条件でした。
 文部科学省委託事業「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト(平成19年度から23年度)」によって、東京大学地震研究所は神奈川県温泉地学研究所、防災科学技術研究所と協力して、首都圏に約300箇所の地震観測点(首都圏地震観測網、MeSO-net)を整備し、南関東のプレートの構造を調べました(図2)。

 図2 首都圏中感度地震観測網(MeSO-net*)の観測点配置。大きい丸がMeSO-net観測点296箇所、小さい丸は、大学、気象庁、防災科学技術研究所、温泉地学研究所の既存の観測点です。*Metropolitan Seismic Observation network

 南関東ではフィリピン海プレートが相模トラフ(舟状海盆)から北西に沈み込んでいます。MeSO-net のデータを用いて地震波トモグラフィー法で解析すると、空間的に詳細に地下の様子を画像として描き出すことができました(図3)。

 図3 関東の下のプレート境界の位置と地震の分布。南東から南関東を見たS波の伝わる速さ(Vp)をカラーで示しました。

これまで東京湾北部でおよそ40kmの深さにあると考えられていたフィリピン海プレートの上面が30km程度になることが分かりました(図4)。

 図4 中央防災会議(2005)の想定地震震源断層と、本研究による新しい震源断層モデルの比較。


 平成17年に国の中央防災会議は、首都圏で起きる可能性と、起きたときの影響の大きさを検討して、18の地震を想定して被害を評価しました。その結果、東京湾北部のフィリピン海プレート上面でM7.3の地震(想定東京湾北部地震)が発生した場合、首都機能に最も甚大な影響が予想されました。この時の被害想定に用いたプレートのモデルに比べ、私たちの求めたプレートは浅いため、もし想定東京湾北部地震※の水平位置が同じだとすると、想定震源断層は約10km浅くなります。断層が浅くなると、従来の想定ではほとんど無かった震度7の強い揺れが、東京湾沿岸の幾つかの地域で生じることが分かりました。さらに、震度6強の領域が、従来の想定より西部に広がりました。

 詳細な地震観測データを用いると、大地震の揺れを予測することができます。この知識は、地震による災害を軽減するために適切に使われなければなりません。
 例えば、揺れの強いところには木造住宅が密集している地域があります。住宅の耐震化と不燃化を進めることは、都市の脆弱性を減じる最も有効な方法です。このために国や自治体は必要な対策を早急に取るべきです。どこにどれだけの非耐震・可燃住宅があり、それらが想定された揺れによってどれだけ被害を受けるかは予測可能です。
 一方、この揺れの想定に用いた様々な仮定を考えると、自分の住んでいる場所が震度7 になるのか、6 弱になるのかを気にすることには意味がありません。計算に用いる仮定を少し変えれば、震度7の領域は容易に変わります。首都圏に住む以上、どこにいても強い揺れに見舞われる可能性があると考えて、自分のできる範囲で備えることが重要です。


※想定東京湾北部地震の震度分布図については、9月号をご覧 ください。

(広報誌「地震本部ニュース」平成24年(2012年)8月号)

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