日本列島は、沈み込み帯に位置しており、M8以上のプレート境界型(海溝型)地震がたびたび発生する。その中でも、2011年3月に発生した東北地方太平洋沖地震は、M9の巨大地震であり、甚大な被害を与えた。地震発生の詳細を調査研究するためには、震源域のなるべく近く、すなわち、震源域の直上で各種の観測を行う必要があるが、海溝型地震の震源域の多くは、海底下となっている。 観測装置を内蔵した耐圧容器を、海底ケーブルで結び、データを陸上に伝送する海底ケーブル観測システムはリアルタイムの観測が可能である。また、観測装置が必要な電力も陸上から供給することができ、海域観測に最も適したシステムである。ところが、従来のケーブル観測システムは、故障率の低いシステムの製作や設置・運用維持にかかるコストが大きかったために、観測点の数が限られるという問題があった。しかし、多数の観測点を空間的に高密度に展開することは調査観測に不可欠であり、従来の海底ケーブル観測システムでは十分な海底観測が難しかった。そのために、近年新しい海底ケーブル観測システムが開発されている。海中において、着脱可能なコネクターを用いて、信頼性が比較的低い測器部の取り替えができるものや、センサーネットワーク技術を用いて、冗長性により信頼性を向上させ、かつコストを下げたものである。
これからの海底地震津波観測網は、新しい海底ケーブル観測システムを用いて、空間的に高密度なリアルタイム観測を連続的に実施し、地震調査研究の推進だけではなく、即時的な地震情報の高度化、津波警報等の情報など防災にも活用されることが期待されている。さらに、日本列島では、海溝域だけではなく、日本海東縁においても、海底下を震源とした大地震による被害が発生している。海域で発生する地震の調査研究を推進するために、日本列島を取り囲むように海底ケーブル観測システムによる高密度な海底地震津波観測網が整備されることが急務であろう。
図 新しい海底ケーブル観測システムの概念図。海底ケーブルに20kmほどの間隔で、観測測器を接続し、ケーブルを蛇行して配置することにより、観測網を構築する。
(広報誌「地震本部ニュース」平成24年(2012年)8月号)